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06:夢の終わりに

ネックレスを抱いて眠る

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 死んだ方がマシだと思ったのに、私はあれからも小屋で息をしている。
 死ぬだけの勇気は、持ち合わせていなかったみたい。口先だけで、馬鹿みたい。

 あれから多分4日、死に物狂いでお仕事をした。
 目が霞んでも腕が上がらなくなっても、とにかく手を動かした。その結果かどうかはわからないけど、あの日から両親は顔を出してこない。

 でも、自分の中から「表情」が消えたことはわかった。
 何をしても何も感じなくなったの。こうしてお仕事をするのも食事をするのも、排泄、起床、就寝、とにかく何をするのにも機械的になった。それが、結構楽なの。初めから、こうしていれば良かったわ。

「……ぁえ」

 今日の食事は、硬くなったフランスパン。
 それを、床の端に溜まっていた泥水に浸して柔らかくして食べた。水分も摂れたし、今日は何とか乗り切れそう。

 ここから出られる体力があれば、今すぐにでも逃げたい。逃げて、あの川の水をお腹いっぱい飲みたい。
 なのに、足裏は傷が膿んでグジグジになっているし、そもそも起き上がるだけで息切れするから夢のまた夢ね。

 私は、洋服のポケットからネックレスを取り出した。それだけは、以前と変わらず輝きを放っている。
 これを見るだけで、心が軽くなるわ。あの日々は、人生の中で一番楽しかった。幸せだった。……もう、戻ろうなんて思わないけど。
 こんな汚い私を、彼に隠し通せる自信はとうになくなっている。それより、ソフィーが迷惑をかけていないと良いんだけど。もう私は会ってないし、大丈夫よね。レオンハルト様には、幸せになって欲しい。

「……えおん、あうおあま」

 でも、あれだけ大好きだった彼の顔は、もう思い出せないの。
 たくさん贈り物をしてくださり、私に時間まで割いてくださったのに。ダメね、本当。



***


 それから2日後、初めて口から血を吐いた。肺が急激に痛み出し、咳をしたら一緒に出てきたの。出したら少しだけスッキリしたけど、肺がチクチクする違和感は消えない。

 さらに数日後、とうとう私は起き上がることすらできなくなっていた。
 そういえば、しばらく食事をしていないわ。その代わり、お仕事の分厚い封筒も来てない気がする。まあ、来ていても目が霞んでぼんやりとしか見えないけど。
 私の身体には、ハエが止まっている。いつもなら追い払っていたけど、今はその体力すらない。

 それでも、手にはネックレスを握りしめている。
 顔も思い出せなくなった彼を想い、懸命に口角を引き上げようと頑張るけど……疲れたわ。そういうの、もうどうでも良い。どうでも良いけど、このネックレスだけは最期まで一緒に居たいと思ってしまった。

「……ー」

 愛する人の名前を口にしたけど、多分音になってなかった。

 私は、そのまま素直に目を閉じる。
 もう寒さは感じなくなっていた。


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