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09:今度は、俺が

心を操る異術

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「いやー、ソフィー嬢の異術はエグかったねー」

 王宮に到着した俺らは、その足取りで宮殿へと向かった。
 どうやらラファエルが、ステラ嬢が休むための部屋を用意していたらしい。奴は、こう言うところが抜かりない。……しかし、これで通常業務をサボっていたことが確定したな。未成年身元預かり証を発行して、部屋を準備してベルナールの屋敷に行けばあの時間帯に到着するだろう。
 はあ、やはり今日は徹夜かもしれない。

 ステラ嬢をベッドに寝かせると、すぐに宮殿専用のメイドたちが群がってきた。「殿方はカーテンの向こうへどうぞ」と言われたということは、服を着替えさせてもらうんだろうな。桶を持っている人も居たから、身体を拭いて……外に出てた方が良い気がする。流石に、平常心では居られない。

「そういえば、お前途中までなんか言ってたよな」
「うん。ソフィー嬢の異術は、人を従わせるタイプだねって言おうとした」
「……は!? え、空間移動系じゃなくて?」

 外へ出ようと足を進めたところで、ラファエルが驚くことを口にしてきた。予想外の言葉に、出ていこうとしていた理由が吹き飛んでしまう。
 俺は、そのままラファエルとルワールの座るソファへと対面して座った。

 人の精神に干渉するスキルは、現時点で判明している種類の中でも最強クラスに入る。国で危険種に認定されているため、アカデミー卒業はもちろん国家資格も必ず受けないといけないんだ。故に、国からの補助金が一番多いスキルの種類になる。
 てっきり空間移動系だと思っていた俺にとって、その話は興味をそそるものとなった。

「なぜそう思ったかわかんないけど、違うよ。まあ、自分の思い通りにさせる異術なんて、そうそう聞かないもんね。あれは、父親だけじゃなくて使用人も術にかかってたと思うよ」
「いや、私的には元々の性格だと思ったけど。異術をあそこまで正確に操れるとしたら、天才だよ」
「は? ルワールも異術に気づいていたのか?」
「もち、視たからね。団員たちもかかってたから、あまり怒らないでやって」
「……そう、なのか」

 どうやら、ソフィー嬢はその危険種に認定されている異術の持ち主だったらしい。しかも、かなり強力な。
 ということは、急に消えたのは異術じゃなかったのか。あの素早さは騎士団に欲しいな……。

 ルワールの異術は他者鑑定もできるから、それで気づいたのだろう。教えてくれれば良かったのに。気づかなかった俺がおかしいと言わんばかりの表情でこちらを見ながら、縛っていた髪を解いている。
 まあ、危険種も大したことないかもしれない。告白らしきものを断れたってことは、俺はかかってなかったってことだろう。

「にしても、ステラ嬢の扱いは酷かったなあ。あの痩せ方見て普通じゃないとは思ってたけど、まさかあそこまでとは」
「見つけた時は、間に合わないかと思った。人間のやることじゃないよ」
「あー、そっちもだけど、私が言っているのは日常生活の方ね」
「日常生活……?」
「彼女、少なくとも数ヶ月は本邸に住んでなかったよ。気配がなかったからね」
「は?」
「その隣の建物……多分、使用人の別棟だと思うけど、そっちの方に強い気配があった。小屋に居る前は、そこで寝泊まりして使用人と同様かそれ以下の待遇だったんだろうな」
「だから、ルワールは本邸で治療するのを拒んだんだね」
「そゆこと。途中でステラ嬢が目覚めたらパニックになってたと思うし、医者としてあれ以上精神負荷のかかる場所に居させたくないしね」
「ルワール様、少々よろしいでしょうか?」
「はあい」

 話の途中ではあったものの、ルワールはメイドに呼ばれてステラ嬢の元へとサッと行ってしまった。その後ろ姿を見ながら、今までのステラ嬢の態度を思い出す。

 彼女は、異術を嫌っているような素振りを見せた。それに、あの劣等感の強さ、すぐに謝罪をする姿、パニックになる様子、そして、礼儀作法が中途半端だと申し訳なさそうな表情をする。それが何を意味するのか、憶測ではあるものの理解してしまった。
 ステラ嬢はきっと、異術を宿さなかった故に家族から迫害されていたのだろう。……ソフィー嬢の異術も相まって、相当酷い扱いを受けていたような気がしてならない。
 なぜ、今まで気づけなかったのか。悔やんでも悔やみきれない。ステラ嬢は、どんな気持ちで俺に会ってくださっていたのだろうか。

「レーヴェ、殴り込みに行かないでね」
「行かない。俺は、ステラ嬢のことを本当に愛してるんだ。彼女の嫌がることはしたくない。しばらく彼女はここで過ごすのだろう? たくさん笑う時間を作って、彼女が望むなら礼儀作法を学ぶ場を設けても良いな」
「うん、そっちにシフトチェンジした方が良いと思うよ。とりあえず僕は、このまま神官捕まえてくるね。さっきルワールから早めに診て貰った方が良いって言われたから」
「じゃあ、俺も行く」
「ダメ。レーヴェはここで待機。ステラ嬢が起きたら、状況説明だけしてあげてね」

 背伸びをして立ち上がったラファエルに続けて立ち上がるものの、それは奴の両腕によって拒まれてしまった。
 神官なんて、その辺で簡単に捕まるようなお方じゃないのに。手分けして探した方が良いと思ったが、ステラ嬢が目覚めた時に側に居たいと思うのも事実。

 ここは、甘えさせてもらおう。その代わり、溜まっている仕事は終わるまで付き合ってやる。

「ありがとう、ラファエル」
「団長さんは偉いんだぞ!」
「……今、それ関係あったか?」
「ないとも言う!」
「ふはっ! ラファエルは面白いな」 
「……そうやって、レーヴェも笑っててね」
「……?」

 最後のはなんだ?
 よくわからなかったが、聞く暇もなくラファエルは部屋を出て行ってしまった。

 さて。
 ステラ嬢はいつ起きるのやら。今日中に起きれば良いな。
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