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09:今度は、俺が

第二王子の微笑み

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「あの、レオンハルト様!」
「はい、何か」

 そろそろ、ステラ嬢を楽にしてやりたいなと思ってる、そして、ラファエルたちも「早く終わらせろ」と言わんばかりの態度で居る中、ソフィー嬢が俺に向かって話しかけてきた。
 瞳を潤わせ、両手を前で組んで……なんだ、何が始まるんだ? 俺は、あれだけ「見ないぞ」と思っていた彼女の目をはっきりと捉えながら何かを待つ。先程のように異術を感じないから、多分大丈夫だ。

 しかし、顔が赤くなってきたぞ。まさか、ここでソフィー嬢まで倒れられたらキャッチできる自信がない。確か、ステラ嬢の話によれば彼女は病弱らしいし。
 なんて心配は、あまりしなくても良かったらしい。なぜなら、

「……その、わ、私も貴方様のことをずっと前からお慕いしております! どうか、恋人候補にしていただけませんか?」
「申し訳ありませんが、無理です」

 と、ソフィー嬢が私に向かって言ってきたから。
 告白をするような元気があれば、倒れないだろう。それに、俺の心はすでにステラ嬢一色だからな。迷うことはない。

 俺がはっきりとそう告げると、ソフィー嬢は一歩こちらへ近づきまるで命乞いでもするかのように組んでいた両手に力を入れてくる。
 普通なら、こういうのは人がいない時に言うものなんだがな。俺に断られるという選択肢を考えていないのかなんなのか……。いくら先方に自信があっても、やはりステラ嬢を愛してしまった俺が揺らぐことはない。こう言うのは、「後で返事をします」と言えば相手に期待させてしまうからこの場で言わないとダメなんだ。

「で、でも、私は異術持ちです。教養だってありますし、最近はアカデミーに編入して勉強もしています。貴方様に相応しい恋人として頑張りますから!」
「いえ、私は異術や教養のある女性ではなく、ステラ嬢を愛していますので」
「……どうして効かないのぉ」
「聞か……? ああ、ステラ嬢を愛している理由ですか? 彼女の全てが愛おしくて、どこがなどと選ぶことはできません。ですが、あえて言うのでしたら……焦って瞳をグルグルと回して、いや、食事中に美味しそうに食べ物を頬張って、いや、やはり花を見つめるあの横顔……無理ですね。もう、なんと言いますが息をしているだけで可愛らしいお方で、どこを愛しているかなんて選べませ……あれ?」
「……彼女なら、君の話の途中で泣きながら使用人引き連れて屋敷に戻ったよ」

 話している途中、なぜか団員たちから拍手を浴びた俺は、今の今まで目の前にいたはずのソフィー嬢がいなくなっていることに気づいた。しかも、使用人も伯爵の後ろに控えている2名以外全員消えている。
 まさか、ソフィー嬢は空間移動の異術でも持っていたのか? 全然気づかなかったぞ。
 しかも、団員たちが次々と俺の前に来て「疑ってしまい申し訳ございませんでした」と寝ているステラ嬢に向かって謝ってるし……。なんだ?

 ラファエルの言う通り、屋敷に目を向けてみたが……玄関先にもソフィー嬢のお姿は確認できなかった。と言うことは、やはり空間移動の類か。精神に作用する異術かと思っていたが、どうやら違ったようだ。

「……レーヴェすごいな」
「ね、あの異術をモノともしないって、すごい精神力」
「何がだ?」
「気づかなかったの? ステラ嬢の妹さんの異術は「レオンハルト殿! 待ってくだされ!」」

 とにかく、話はついたしあとは馬車でゆっくり……と思いきや、今度は伯爵が話しかけてくる。なんだ、親子揃ってタイミングが同じだな。

 伯爵は、慌てたようにこちらに向かって声を張り上げる。一番最初に聞いた罵声よりはまあ耳障りではないものの、そろそろ撤退したいと言う気持ちを隠す気にもなれなくなっている。
 と言うか、団員たちはすでに帰り支度を始めているし、俺もそれに混ざりたいところ。

「なんでしょうか、ベルナール伯爵。手短に願います」
「その、そいつ……そ、ステラを渡してください。こちらで医者を呼んで治療しますので!」
「は?」
「ステラは、次期侯爵に相応しくない人物です。きっと、盲目になっているのでしょう。一旦離れれば、お考えも、変わるかと……思っ。レオンハルト殿!」

 うん、やっぱり混ざろう。
 俺は、話の途中から団員たちの帰り支度に加わったラファエルの後を追って門前までゆっくりと向かった。何を言い出すのかと思えば、それか。しかも、腕の中に居るステラ嬢を「そいつ」呼ばわりとは全く。言い直してもばっちり聞こえたぞ。
 今更だが、きっと俺はこの伯爵とはウマが合わないんだと思う。先程は怒りが強かったが、今はそれを通り越してどうでも良くなってきた。

 しかし、ルワールは治療をするために預かるといった手前そうも行かないらしい。
 振り返って確認すると、伯爵の前で仁王立ちしている奴が見える。手に持ってるのは……紙とペン?

「ベルナール伯爵。医者として伝えておきたいことがございます」
「なんだ! 私は、レオンハルト殿と会話を」
「日常的に食事を満足に摂れている場合、1ヶ月程度であそこまで体力が消耗することはありません。伯爵なら、どういう意味なのかご存知ですよね? それに私、透視の異術を保持しているのですが、本邸を見た限りステラ嬢の住んでいた痕跡が……」
「……っ!」
「今後、彼女は王族側にて保護させていただきます。こちら、その同意書です。サイン、くださいますよね?」
「王族だと!? 貴様、勝手に王族を名乗ってうちの娘を「申し遅れました。私、この国の第二王子のルワール・ド・アレクサンドラと申します。城下町で医者として修行中ですので、以後よしなに」」
「!?!?」
「伯爵のお仕事を娘にやらせていたことも、きっちり王宮で話題にさせていただきますね」
「!?!?」

 あ、ルワールが笑いながらキレてる。あいつが名乗るなんて珍しいな。いつも、「王族だってバレたら面倒」って言ってるのに。
 てか、ラファエルが「これが終わったら行く」って言ってたのは、あの書類を発行してたってことか。っつーことは、本来の仕事は終わってないってことじゃないのか!? あの未成年身元預かり証って、確か発行するのに30分はかかるぞ……。まじかよ。

 俺は、項垂れる伯爵の姿を横目に、団員たちが用意してくれていた馬車へステラ嬢と一緒に乗車した。なぜか、乗る時に「副団長は男でした!」「一生ついていきます!」「ステラ嬢に飽きたらください!」と言われたが、あれはなんだったんだ? 最後の発言をしたマルモーは、とりあえずぶん殴っておいた。余談だが、結構飛んだぞ。

「良かったね、レーヴェ」
「サンキューな」
「礼は、ルワールに。僕は、ちょうど宮殿に居たから事情話して引っ張ってきただけだし」
「だとしても、お前も動いてくれたのには変わらない」
「じゃあ、受け取っておきましょう」
「素直になれよ」
「あはは、じゃあ素直になるけどステラ嬢ちょうだい♡」
「断る!」

 ステラ嬢を馬車の座席に寝かせ、頭を膝の上に乗せた俺は、やっと一息をつく。疲れたけど、仕事をしている時よりも達成感があった。あとは、ステラ嬢が起きれば文句なしなんだが……。
 彼女には色々聞きたい。今までのこと、これからのこと、それに、異術のこと。

 遅れてやってきたルワールを乗せた馬車は、ベルナールの屋敷から出発した。
 とりあえず、ステラ嬢の身体が回復するまでは帰すつもりはない。もし、治って彼女が「帰りたい」と言ったら……その時考えようか。


 
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