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12:大神官様って、なんでしたっけ?

神殿の正装

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 聞いてない聞いてない聞いてない!
 神殿行くってことしか、聞いてない!!

「ステラ様、もっと自信をお持ちになって」
「そうですよ、私たちが着飾ったのですから」
「で、でも……」
「このくらい、普通のご令嬢でしたら日常です」
「う、嘘です!」

 私は、頭から毛布を被ってソファに縮こまり座っていた。
 その隣では、オロオロするメイドさん……お名前が、リリー様とメイリン様、フィン様と言うのだけど、いつもお世話をしてくださっている3人と、クスクス笑うルワール様が居る。
 いつも良くしてくださって居る方達を困らせて居るのは十分承知だった。でも、どうしてもこれだけは無理! これからはもっとたくさんお裁縫のお仕事持ってきても良いので、これだけは勘弁して!

 しかも、そんな時に限ってあのお方がやってくるのよね。

「失礼します、ステラ嬢。準備ができたとお聞きしました、が……どうしました?」
「レーヴェ、良いところに来た。ステラ嬢が、神殿の正装を嫌がってね。着替えさせたんだけど、この状態なの」
「あー……」

 半ベソをかきつつ、開け放たれた扉に視線を向けるとそこには団服姿のレオンハルト様がいらっしゃった。神殿まで護衛してくださるのですって。事前に聞いていたけど、このタイミングで来るなんて……。
 顔が熱くなるのを感じた私は、そのまま毛布を頭まですっぽりと被った。

 レオンハルト様がそういう反応をするってことは、神殿の正装をご存知なのでしょう。まさか、男性もこんな感じなの……? それはちょっとだけ見てみた……いえ! 男女平等!

「ステラ嬢、失礼します」
「ヘァ!?」

 とにかく、この格好を見られないようにしようと毛布に力を入れていると、上着を脱ぎながら近づいてきたレオンハルト様にあっさり奪われてしまった。ああ、私の毛布……。ずるいわ、軍人さんの力に勝てるわけないじゃないの!

 毛布がなくなったことによって、私は神殿の正装……胸元が大きく開いた薄めの白いドレス姿をみんなに晒してしまう。もちろん、すぐさま両手で胸元を隠したわ。でもそうすると、背中も開いてるからそっちが隠せないの。
 恥ずかしい! こんな格好、誰が決めたのよ! もちろん、抵抗したわ。せめてサラシをくださいって。でも、却下されちゃったの。「神聖な服ですので……」って。

 レオンハルト様は、そんな半ばパニック状態に陥った私に上着を被せてくださった。
 今の今まで着ていたからか、それはほんのり温かい。

「あ、ありがとう、ございます……」
「神殿に入るまでになりますが、どうぞお使いください」
「……は、はひ」
「良かった、ちょっとおさまった。このまま放出され続けてたら、宮殿出られないところだったよ」
「……?」

 メイリン様が毛布をベッドへ戻している最中、リリー様が今ので乱れてしまった髪型を整えてくれて居る。……ちょっと申し訳ないわ。3人に頼まれたお裁縫は優先的に完成させましょう。いつもごめんなさい。

 それより、「このまま放出」って? ルワール様が安堵の表情になりながらつぶやいた言葉が気になった。そちらを向くと、レオンハルト様と一緒に難しい顔して会話を続けている。

「確かにこれは、他の異術者に影響するな」
「多分、神殿で異力抑制の道具をつけられちゃうと思う」
「それって、体調面とかは大丈夫なのか?」
「どうなんだろ? そういう道具があるってことしか聞いたことないから。神官様にその辺りはしっかり聞いたほうが良いかも」
「だな。神殿までの道のりは、騎士団で人払いする手筈になってる」
「ありがとう、その方が良いね。発動条件とかも諸々聞いておこう」
「ルワールも行くのか?」
「もちろん。国王に報告しないと」

 ……どういうこと? よくわからないけど、聞ける雰囲気ではない。
 これとかそれとかその辺りとか、何を指してるの? というか、それは誰の話?

 多分、不安そうな顔をしていたのでしょうね。
 私の視線に気づいた2人は、同時にニコッと笑いかけてくださった。とりあえず、笑い返しておきましょう。

「神殿での異術診断が終わったら、色々説明しますので。あまり異術の情報を入れてしまうと、ステラ嬢が混乱してしまい診断に異常が出てきてしまいますから」
「す、すみません……」
「謝ることじゃないですよ。それより、レーヴェに贈り物を渡さなくて良いのですか?」
「わわっ、ルワール様!!」
「……贈り物?」

 あー! 後でこっそり渡そうと思ってたのに!

 ルワール様の方を向くと、何やらニヤニヤした表情でこちらを見ている。しかも、メイドさんたちまで!
 え、ここで渡すの? 一応、今日持っていくカバンの中に入れてあるけど……。ああ、レオンハルト様までこっち見ないで!

「あ、あの……。最近お疲れのご様子でしたので、えっと……ポ、ポプリをプレゼントしようと思い作ってまして、その」
「ステラ嬢が作ったのですか?」
「は、はい……。あの、良かったらうう受け取ってくださると」
「はい! とても嬉しいです。ありがとうございます」

 観念した私は、カバンの中から袋を取り出した。
 このラッピングは、昨日の夜にフィン様と一緒にしたの。リボンの色とか、ラッピングの仕方とか相談に乗ってくださったのよ。そういうのが得意なんだって。

 立ち上がって震える手でそれを差し出すと、すぐにレオンハルト様が受け取って……くれない。え、なんで!?

「え、あ……レオンハルト様?」
「嬉しいです。すみません、最近お会いできてなかったので」
「……温かい、です」

 受け取ってくださると思ったのに、なぜか私が抱きしめられている。ポプリが潰れちゃう! って慌てたけど、そこまでキツい抱擁ではない。……それに、温かい。
 私は、みんなが見ていることを忘れてその温かさに酔いしれた。

 そして、昨夜ラッピングをしながらフィン様とお話した内容を思い出す。

「あ、あの、レオンハルト様」
「はい、なんでしょうか」
「お時間よりしければ、そのまま聞いてくださいますか」
「はい、少し早めにきましたから大丈夫です」

 フィン様がね、こう言ったの。「好きな人が自分のせいで後ろ指さされるのは嫌ですよね」って。
 まさに、私がレオンハルト様と一緒に居るのを拒んでるのはそれが理由。もう、首が取れるんじゃないかってほどたくさん頷いたわ。
 でも、それは「私」が嫌なのであって「相手」が嫌だって思ってないかもしれないって。聞いてみても良いんじゃない? って言われたの。

 1人じゃ怖くて聞けないけど、今なら聞けるかも。
 こんなズルい私でごめんなさい。

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