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12:大神官様って、なんでしたっけ?

私が私を許せるように

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 それは、レオンハルト様にお渡しするプレゼントを包んでいる時のこと。

『好きな人が自分のせいで後ろ指さされるのは嫌ですよね』
『え?』

 ラッピングのリボンをどれにするか悩んでいる時、急に隣に居たフィン様がつぶやいてきた。
 一瞬、私に言ったんじゃないかもって思ったけど、反射的に返事をしちゃったの。結局、私に言ったことだったらしいから良かったわ。

 フィン様は、手元のラッピング袋に視線を落としながら、ポツポツと言葉を紡ぐ。

『比べるのも何ですが、私も伯爵の家なんです。ステラ様のように長女ではなく三女なので、後継問題なんかには関係ないですけど』
『そうなのですね。私も後継は妹がすると思うので関係ないので一緒です』
『……そんなことありませんよ。ここ数日お世話させていただいておりますが、思いやりがあって手先が器用で爵位を継ぐだけの資格がおありです。伯爵のお仕事もしていたとお聞きした時は、とても驚きました。そのお年でできることがまずすごいことです』
『今までずっと、自分が異術持ちだったなんて知らなかったんです。だから、自分ができることをしないとお屋敷にいられない気がして。食事は使用人たちの残りをいただいていましたが、服やシーツの洗濯や身だしなみを整えるのも自分でやっていました。本邸に戻れるように、お仕事も頑張っていたのですが……』
『え? 本邸に戻れるように?』

 あれ? 伯爵の仕事をしていたことを知ってるなら、そういう情報も伝わってると思ってた。でも、違うみたい。
 なんだ。だったら言わないほうがよかったかも。あまり進んで話したいことじゃないし。失敗したな。

 私は、リボンから目を離してフィン様のお顔を覗いた。
 彼女も伯爵家の方なのね。歳が近い気がするけど……聞くのは失礼か。その程度のことなら、教養がない私にもわかる。
 話しても大丈夫かな。フィン様が気を悪くしないと良いのだけど。「こんな人の世話なんてごめんだわ」って言われるかも。そしたら、ちゃんと謝りましょう。

『妹に異術があるってわかった時に、私だけ使用人の住む別棟に移動させられちゃったんです。今まで使っていたものを取りに行ったら、門前払いされちゃって。身ひとつで、別棟のお部屋で暮らし始めました』
『え……』
『ごめんなさい、最初に説明していればよかったですよね。ここに私が居るのも、おかしいのはわかっています。私なんかに、みんな良くしてくださって……。あの、言い訳になりますが、連れてきてくださった時は、よくわかってなかったんです。いつの間にかここに居て甘えてしまい、気づいたら今日で。……騙していてごめんなさい。私、こんな待遇を受けるような人物じゃないんです』

 やっぱり、知らなかったみたい。
 私が話すと、フィン様は顔色を真っ青にさせて固まってしまわれた。そうよね、こんな人間を世話していたなんて恥以外の何物でもないわよね。申し訳ないことをしたな。もう少し早く伝えておけばよかったかしら。

 今から担当を変えても良いですって言いたい。今、話しかけても大丈夫かな。
 こう言う沈黙って、どうしたら良いのかわからないわ。

『ステラ様がなぜ自信のないお方なのか、なんとなくわかった気がします。とてもお辛かったですね』
『え?』
『……ステラ様は、ここでレオンハルト様とお過ごししてほしいです。お返事、しないといけないでしょう?』
『……』
『好きな人が自分のせいで後ろ指さされて嫌という気持ちは、ステラ様だけかもしれませんよ。まだ、レオンハルト様に聞いたことはないのでしょう?』
『ない、ですけど……』
『では、聞いてみても良いですね。私はこれからも、変わらず応援しますよ。もちろん、リリーとメイリン、第二王子だって』
『……』

 そうは言われても、自信なんてない。
 
 確かに、心の余裕はできたとは思う。綺麗なお洋服を着て、美味しいものをいただいて、よく眠れて。でも、それだけ。
 ここに来ても、中身はさっぱり変わってない。心に余裕ができたところで、根本が変わってないから自信は全然なの。
 周囲に甘えていることは十分承知だわ。わかってる。わかってるけど、今の状況に心がついて行ってないんだもの。

 素性の知らない私に優しくしてくださる、宮殿の方たち。
 生まれつき異術持ちだと診断をくだした神官様。
 それに、床に這いつくばっていた私を知ってるのに、「好き」と言ってくださるレオンハルト様。

 私は……。私は、何をすれば良いの?

『そろそろ、最初に貴女を見つけてくださったオルフェーブル副団長様に甘えても良いのでは? お会いした当初は、そうしていたのでしょう?』
『……ん、ん』
『聞くのが怖ければ、私たちが居る時に聞いても良いですよ。オルフェーブル副団長様は、そんなことで意見を変えるようなお方ではないですし』
『……はい』

 それを聞けば、私は変われるのかな。
 ちょっとズルいような気もするけど……。良いのかな。
 甘えるのは今回だけだって自分の中で決めれば良いかな。……ごめんなさい、レオンハルト様。


***


 私は、目の前に居るレオンハルト様のお顔がしっかり見えるところまで下がった。
 みんなが見ている中、深呼吸をして口を開く。

「レオンハルト様。私は、貴方様が好きです。愛してます。……神殿から戻ってお仕事が終わった後、少し時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「はい、わかりました。今夜、少し宮殿周りを散歩しましょうか」
「ありがとうございます」

 やっぱり、こういう話は2人きりでしないとね。
 そこまでフィン様たちに甘えてしまったらきっと、私は私を許せない。

 私は、なぜか周囲に集まって頭をワシワシを撫でてくるメイドさん3人とルワール様をよくわからない気持ちで眺めていた。……セットしたんじゃないの?
 レオンハルト様も、ポプリを持って笑っているわ。……まあ、まずは神殿に行きましょうか。
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