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14:捨てきれないもの

愛することを止めずに

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 月明かりだけが差し込む部屋の中、私は彼の目を見ずにこう言った。

「私は、その愛がいつか枯れることを知っています。あんなに愛してくださったお父様お母様だって、いつの間にか見向きもしなくなりました。身内でさえ、そうなのです。ましてや、他人であるレオンハルト様が、そうならない保証はありません。だったら、初めから愛なんていらないです。期待しちゃうからいらない、私はそういう人なんです」

 って。
 ちょっと早口になったかもしれないけど、滑舌は悪くなかったはず。ちゃんと声も張ったし、聞こえたと思う。
 腕のブレスレットが重くてどうにかなってしまいそうだけど、今はそれどころじゃない。

 と気を張っていたのに、思ってもいない答えが返ってきた。

「ステラ嬢は、猫のようなお方ですね」
「え?」
「やっと笑顔を見せてくださったかと思えば、こうやって私との間に壁を作りたがる」
「……これ以上、寂しい思いをしたくないんです」
「私の愛がなくなることが、そんなに怖いのですか? ブレスレットを重くするほど、悲しいのですか?」
「怖いし、悲しいです。あと、痛いです。胸も腕も全部、痛くて……」

 その答えは、拒絶した私の言葉とは正反対のもの。
 とても温かく、私の涙腺を容赦無く緩ませてくる。優しく頭を撫で上げてくるその手も、私を見る眼差しも。

 私は、訳もわからず涙をこぼした。
 ……いえ、この時は、涙を流していることにも気づいていなかった。枕元が冷たいなって思っただけ。

「ふふ、ステラ嬢は私のことが大好きですね」
「……はい。こんな出来損ないで醜い私を、大好きと言ってくださった貴方が好きです」
「貴女は可愛いです。とても可愛らしいのに、ふとした瞬間美しくもなる。本当に、表情も仕草も、その性格も全部が愛おしいんです。それは、嘘じゃありません」
「でも、私は出来損ないです。身の丈に合わないんです」
「誰かに、そう言われたのですか?」
「……」
「大丈夫ですよ。私は、貴女以上に心を揺さぶられるような方に出会ったことがありませんから。私が幸せにしたいと思った相手は、ステラ嬢しかいません」

 その1つひとつの言葉が、ぽっかりと空いた私の心を満たしていく。胸が、ジーンと熱くなる感じがするの。
 でも、言葉のお陰じゃないかも。だって、それと一緒に、レオンハルト様が異力吸収っていうのかしら? 前回腕が重くなった時にルワール様がしてくださったものと同じ緑色の光を放ってくださっているから。それが、私の気持ちを埋めてくれているのかもしれない。

 そこでやっと、涙を流してしまっている自分に気づいた。

「嘘です……」
「本当です」
「嘘です」
「本当ですよ」
「嘘です!」
「では、証明しましょう。嫌でしたら、抵抗してください」
「!?」

 でも、その涙は秒で止まった。
 緑色の光を消したレオンハルト様が、横になっている私を優しく抱き起してくださったから。……いえ、それだけじゃない。

 彼は、私を抱き寄せ膝の上に乗せ、あの時と同じように優しく口付けをしてくださった。
 その行為で、レオンハルト様がどれだけ私のことを好きでいてくださっているのかを理解する。以前は一杯一杯になってしまっていたけど、今はその「愛」を受け止めるだけの余裕があった。私は、軽くなった腕を持ち上げてレオンハルト様へと縋り付く。

 今まで胸の中にあった不安が、一瞬で消し去るくらい心地良い。
 あれだけ「別れよう」「もう視界に入らないようにしよう」って思っていたのに、いとも簡単にその決意を崩されていく。でも、それがまた気持ち良いの。全然嫌な気持ちにならない。
 私って、ものすごく揺れる女ね。

「……可愛い。お顔が蕩けていますよ」
「ぅ……あ」
「改めて、ステラ嬢。心から愛しております。受け取ってくださいますか?」
「……ぁい」
「ふふ、ありがとうございます。異力が溢れかえっていますが、腕は重くないですか?」
「おも、いれす」
「ということは、悲しい気持ちだけに反応するわけではなさそうですね」
「……う、あ」
「これから、色々見ていきましょうね。ただし、これだけは守ってください」

 ポーッとなりながらも、レオンハルト様の言葉にうなずいているけど……こういう時は、ちゃんとケジメとして私も「よろしく」って言わないといけないのに。言葉がうまく出てこない。しかも、腕が重い。

 だらりと下に降ろした腕は、再度レオンハルト様が緑の光で吸収してくださっている。その光を見ていると、急に先ほどのように怒る口調になって話しかけてきた。

「無闇矢鱈に、人を信用しないこと。貴女が家族を愛していることは十分伝わりましたし、私も貴女が大切にしているものは大切にしたい。でも、それはステラ嬢が傷つかないことが条件です。誰であれ、貴女を傷つけるような人がいれば、私は容赦無く切り捨てますのでご承知おきください」
「……は、はい」
「無論、ここに居る人たち全員が貴女の味方ですから。あまり、心を遠くに置かずに接していただけると嬉しいです」
「はい……」

 相変わらず、声はうまく出ない。
 だから、軽くなった腕を持ち上げてレオンハルト様のワイシャツをキュッと握るだけに留めた。
 なぜか、その後すぐに「可愛い」と言って抱きしめられたけど……このお方には敵わないな。
 貴方様だって、格好良いのよ。誰にも負けないくらい輝いて、私には眩しすぎるもの。

 でも、そんな彼が好きだって伝えてくださったのだから。
 私も、もう少し頑張ってみようかな。レオンハルト様が笑われることを恐れるんじゃなくて、笑われないような人になりたい。

 こんな私を再度愛してると言ってくださった、レオンハルト様。
 ありがとうございます。私は、幸せ者です。

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