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15:心境の変化
私が元凶
しおりを挟む布地を買いに、フィン様と一緒に城下町へ出かけた時のこと。
見覚えのある背中が見えて、声をかけたくなったの。私のことを「娘」だと言ってくれた、お父様お母様へ。
でも、挨拶をしたと同時に、なぜか殴られた。私のせいで爵位を失ったとか、ソフィーの異術が弱まってしまったとか。
私が異術を宿そうが宿さまいが、どうやらお父様お母様の関心には繋がらなかったみたい。私は、周囲で人々が立ち止まって見ている中、お父様に殴られお母様に蹴られては服を裂かれて散々な目にあってしまった。……娘って言ったのは、違かったのかな。
「遅くなってごめんなさい、ステラ嬢」
「ちょっと下がってて。僕の異術って、加減ができないんだよね。特に、怒ってる時は」
「……レオンハルト、様。ラファエ、ル、さま」
そうやって痛みと悲しみで異力が暴走する寸前、団服姿のレオンハルト様とラファエル様が現れた。
どこか寒い空気を纏いながら現れたお2人は、私とお父様お母様の間に入って守ってくださったの。
軽率に声をかけてしまった私が悪いのに、そのことを咎めず抱きしめてくださるレオンハルト様はお優しい。その彼が癒しの異術を展開すると、すぐに痛みが治った。
「ご、めんなさい。私が声を」
「大丈夫です。むしろ、隠していてすみませんでした」
「……私は、家族に嫌われていたのですね」
ここまでされないと気づかない私って、相当馬鹿だよね。
私を小屋に押し込めたお父様お母様が、「娘」だなんて言うはずないじゃないの。娘だって思ってくださっているのなら、手紙のひとつやふたつ寄越すと思う。ソフィーがアカデミーの異術強化合宿に行った時は、2日目に手紙を送っていたってマーシャルから聞いていたし。
きっと、レオンハルト様は、私を傷つけないために言わなかったんだわ。
下手に悲しんだら、異力が暴走してしまうし。……嫌だわ。気を使わせてしまうなんて、申し訳なさすぎる。
「……痛みはどうですか? 視たところ、背骨にヒビが入っているようでしたが」
「今は痛まないです」
「じゃあ、効いていますね。よく、異力を我慢しました」
「レオンハルト様に、たくさん教えていただきましたから」
「いい子です。ただ、申し訳ありませんが、ご両親は騒ぎを起こしてしまったので騎士団で身柄を確保させていただきます」
「……わかっています。ただ、私が声をかけたので私が悪いんです。私も、連れて行ってください」
「貴女は何も悪くないですよ。タイミングが合わなかっただけです」
「でも……」
視線を動かすと、震えたお父様お母様が、騎士団の方々に捕らえられているのが見えた。
なぜか、その周囲だけ真っ白になってるけど……あれは何? それに、ラファエル様の周囲にも同じものがある。もしかして、異術?
私は、レオンハルト様からお借りした上着を羽織り、その光景を見届ける。
自分勝手な行動が、周囲の人たちを不幸にさせているその事実に胸が痛んだ。
「後で、ちゃんとルワールにも診てもらいましょうね。ほら、フィンさんが来てますよ」
「ステラ様あああ……。ごめんなさい、止められずに」
「……い、いえ。私が勝手に」
「それが、人を殴って良い理由にはなりません。お辛い思いをしましたね」
「……私は何も。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」
軽率だった。みんなが頑張っていたことを、私が崩してしまった。
せめて、異力を暴走させないように抑えましょう。私には、それしかできないんだから。
お父様とお母様が連れて行かれると、集まっていた人たちが徐々に歩き出す。まるで、何事もなかったかのように。
「私たちも戻りましょう」
「……」
「ステラ様……」
「……」
「フィンさん、先に戻っていただいても良いですか? ステラ嬢は、ちゃんと送り届けますので」
「承知いたしました。メイド長に報告しておきます」
「そうしてください」
ダメ、今動いたら異力が溢れそう。
足を少しでも動かしたらきっと、今まで我慢していた分が溢れそうなの。声と共に、それが外に出そうで話すこともできない。
でも、レオンハルト様は、フィン様の背中を見ながら「わかってますからね」と言って私を抱っこしてくださった。
それに安堵して、私は目を閉じた。ゆらゆらと心地良い揺れを感じつつ、気づいたら本当に眠ってしまったの。
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