異形の郷に降る雨は

志ノ原新

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一.我帰郷す

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 しばらくすると道に傾斜がつき、つま先が上を向きはじめた。やがて人家も見えなくなり舗装も潰えた。右手は山、前も山。左手は谷だ。もう大自然満喫し放題である。
「おーい」
 谷の底からの声が届いた。駅の傍にあった川の上流にあたる場所で、河原を割るように清流が奔っている。。ガードレール越しに覗きこむと、こちらをみあげて手を振る姿があった。ジロウだ。同い年の腐れ縁だ。
 細い道を伝って河原へ降りる。
「おう、久しぶりだな」
「帰ってきたんか」
「まあな」
 牛ほどもある大岩に腰かけたジロウが小さく笑うと、頬に走る幾筋もの傷が歪んだ。はじめてこの顔をみた者は恐ろしさで息がとまるに違いない。だが、見かけほど悪いヤツではない。
「東京はどうだった? 多雨野の田舎者が都会に馴染めたのか」
 口はすこぶる悪い。
「バカ者が。ズブズブに馴染みまくりだ。ハロウィーンの喧騒にも衒うことなく河童のコスプレでなだれ込み、キュウリ片手に街を練り歩いたほどだ」
「河童のコスプレって……クールだな、おまえ」
 ジロウが親指をたてた。
「今日からが伝説のはじまりだ。我が大志の在り方をとくとみるがいい」
「大志とは大きくでたな」
 やれやれと私は首を振り、ジロウの横に腰をおろした。
「いいねかジロウくん。いまの日本にとって最も必要なものは地方の活気なのだよ。わかるかね?」
「はあ?」
「地方が疲弊しているから日本全体がなんとなくモヤっと元気ないっぽい感じなのだ。まずは地方経済がグワーッと活気を帯びねばならん。地方が輝いてこそはじめて日本経済が風を捉え、シュッと飛翔する目もでてこようというものだ。こう……ブワァっていう感じで」
「アホが無理して利口ぶってる感じだな」
「お前の知的レベルに合わせてやったのだ。私は大都会で己を磨き、知識を吸収し、力を蓄えた。見聞を広めるため休学して何度か海を渡りホームステイもした。大学を卒業したいま、身につけたすべてを使って多雨野を繁栄させる所存だ」
「んー。小賢し気なことを言っているのはわかる」
「詳しくは私が偉くなってから出版する自伝を読め、バカ者」
「なんだと」
「どうせおまえ、私がいない間も働かずにぶらぶらしていたのだろう? 世間の酸いも甘いも知りぬいた私を嘲ろうなどと十万年はやいわ」
「働いたら負けだし! って言うより、俺が定職につくとかむしろ超不自然だろう」
 ふん、と鼻を鳴らしてジロウが胸を反らす。たしかにスーツを着てネクタイを締めたジロウの姿は想像するだけでキモい。
 働いていないならふだんなにをしているのだと訊くと、「なにかと忙しいのだ」と答えるので、『なにか』とは具体的になんだと訊くと、「いろいろあるんだ」と答えやがった。さらに突っ込んで訊くと、「人目につかんように河原でぶらぶらしたり、まあ、あれやこれやだ」とそっぽを向きやがった。
「要するにちょっとアウトドア派の引きこもりではないか」
「ごちゃごちゃ言うなら相撲で勝負だ」
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