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第二章 西の国の花の祭り編
次こそは必ず
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「お風呂はまた次の国でいい場所を探しましょう? ね?」
「風呂ぐらいで拗ねるな」
『拗ねてない。ちょっとがっかりしてるだけだぞ』
内装自体は前に滞在していたネジュノの宿とそう大差ないけれど、ベッドスローにはこの街を象徴するような花と水の模様が刺繍されていて、窓も二重窓ではなく空気が常に循環していて室内は涼しいくらいの温度で保たれている。
木造建築らしい暖かな印象のする、三人で泊まるには少し手狭かな、という部屋のダブルベッドの中央でてぷがドラゴンの姿のまま丸くなり、リヴィウスとステラがその縁に腰掛けていた。
フロレ・シェリから戻った三人は早速宿を探すことにした。その結果、見つかりはしたのだが如何せん時期が悪かった。何せ今は花祭りという時期だ。宿だって最初に取っておかなければならなかったのにステラはそれを失念してしまったのだ。
何件か回ってようやく見つけた部屋はリヴィウスとステラからすればなんの問題も無い、むしろ良いという評価を下せるような場所だった。だがしかし、てぷの希望である“三人で入れる風呂”は無かったのだ。
それがわかるや否やてぷはすっかり拗ねてしまってご覧の有様だ。
まるで猫のように丸まってふて寝をしている姿は可愛らしいものの、先ほどから発せられる声に元気がないことにステラは心を痛めていた。
「……申し訳ありませんてぷ様、はじめに宿を探していれば」
『別にいいんだぞ』
「……」
いつも明るく可愛く癒してくれるてぷの様子にステラは心が折れそうだった。どれだけ劣悪な環境での旅でも折れるどころか傾くことすらしなかった心が今折れそうだった。
「……おい」
ステラは心に大ダメージを負っていた。かつてモンスターや魔族から受けたどんな攻撃よりも今のこのてぷの態度の方が痛い。だがしかしてぷを悲しませてしまったのは完全に自分の落ち度だ。そんな自分が掛けられる言葉は無い、とステラは項垂れた。
「………てぷ」
気まずい沈黙が数秒続いたところで、低い声がとてつもなく不本意だというのを隠しもしない声色でベッドの真ん中で丸くなっているものの名前を呼んだ。のろのろとステラが顔を上げると、てぷも同じような感じでリヴィウスを見ている。
「……こいつを悲しませるのは駄目なんじゃないのか」
リヴィウスがステラを指差す。視線はてぷに向けられたままだが、その表情は真面目なものだった。
ちらりとてぷの大きな紫色の目がステラを見て、やがてゆっくりと体を起こすと短い足をぽてぽてと動かしながらステラのそばにまでやってくる。
『…ごめんだぞステラ。でもボク三人でお風呂入ってみたかったんだぞ…』
短い手を伸ばしてステラのシャツを摘み、俯きながら小さく喋る姿にステラの心は再び大ダメージを負った。控えめに言っても致命傷かもしれない。衝動のまま手のひらサイズのてぷを掬い上げて無礼だとわかりながらも頬を擦り寄せた。
「次の国では、絶対に! 絶対に広いお風呂のある宿に泊まりましょうね…!」
『ステラ~!』
てぷが短い両手を伸ばしてステラの頬を手を当てて同じように頬を擦り寄せてくれる。お腹とはまた違うふよふよとしたえも言われぬ温かさと柔らかさにステラは感動を覚えながら「次はお風呂が大きな国に行く」と固く心に誓ったのだった。
そんな二人を見て、リヴィウスはなんとも言えない顔をしていた。複雑そうな、呆れているような、意味が分からないとでもいうような。とりあえずいい感情は含まれていない顔と目で頬をすり合わせる一人と一匹を見ていた。
「風呂ぐらいで拗ねるな」
『拗ねてない。ちょっとがっかりしてるだけだぞ』
内装自体は前に滞在していたネジュノの宿とそう大差ないけれど、ベッドスローにはこの街を象徴するような花と水の模様が刺繍されていて、窓も二重窓ではなく空気が常に循環していて室内は涼しいくらいの温度で保たれている。
木造建築らしい暖かな印象のする、三人で泊まるには少し手狭かな、という部屋のダブルベッドの中央でてぷがドラゴンの姿のまま丸くなり、リヴィウスとステラがその縁に腰掛けていた。
フロレ・シェリから戻った三人は早速宿を探すことにした。その結果、見つかりはしたのだが如何せん時期が悪かった。何せ今は花祭りという時期だ。宿だって最初に取っておかなければならなかったのにステラはそれを失念してしまったのだ。
何件か回ってようやく見つけた部屋はリヴィウスとステラからすればなんの問題も無い、むしろ良いという評価を下せるような場所だった。だがしかし、てぷの希望である“三人で入れる風呂”は無かったのだ。
それがわかるや否やてぷはすっかり拗ねてしまってご覧の有様だ。
まるで猫のように丸まってふて寝をしている姿は可愛らしいものの、先ほどから発せられる声に元気がないことにステラは心を痛めていた。
「……申し訳ありませんてぷ様、はじめに宿を探していれば」
『別にいいんだぞ』
「……」
いつも明るく可愛く癒してくれるてぷの様子にステラは心が折れそうだった。どれだけ劣悪な環境での旅でも折れるどころか傾くことすらしなかった心が今折れそうだった。
「……おい」
ステラは心に大ダメージを負っていた。かつてモンスターや魔族から受けたどんな攻撃よりも今のこのてぷの態度の方が痛い。だがしかしてぷを悲しませてしまったのは完全に自分の落ち度だ。そんな自分が掛けられる言葉は無い、とステラは項垂れた。
「………てぷ」
気まずい沈黙が数秒続いたところで、低い声がとてつもなく不本意だというのを隠しもしない声色でベッドの真ん中で丸くなっているものの名前を呼んだ。のろのろとステラが顔を上げると、てぷも同じような感じでリヴィウスを見ている。
「……こいつを悲しませるのは駄目なんじゃないのか」
リヴィウスがステラを指差す。視線はてぷに向けられたままだが、その表情は真面目なものだった。
ちらりとてぷの大きな紫色の目がステラを見て、やがてゆっくりと体を起こすと短い足をぽてぽてと動かしながらステラのそばにまでやってくる。
『…ごめんだぞステラ。でもボク三人でお風呂入ってみたかったんだぞ…』
短い手を伸ばしてステラのシャツを摘み、俯きながら小さく喋る姿にステラの心は再び大ダメージを負った。控えめに言っても致命傷かもしれない。衝動のまま手のひらサイズのてぷを掬い上げて無礼だとわかりながらも頬を擦り寄せた。
「次の国では、絶対に! 絶対に広いお風呂のある宿に泊まりましょうね…!」
『ステラ~!』
てぷが短い両手を伸ばしてステラの頬を手を当てて同じように頬を擦り寄せてくれる。お腹とはまた違うふよふよとしたえも言われぬ温かさと柔らかさにステラは感動を覚えながら「次はお風呂が大きな国に行く」と固く心に誓ったのだった。
そんな二人を見て、リヴィウスはなんとも言えない顔をしていた。複雑そうな、呆れているような、意味が分からないとでもいうような。とりあえずいい感情は含まれていない顔と目で頬をすり合わせる一人と一匹を見ていた。
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