伏物語(フセモノガタリ)

越知 学

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3話

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 すぐ隣にいる彼は私の方なんか見向きもせずに、ずっと綺羅星を楽しげに眺めている。
 一方未だに彼を見つめ続ける私は、ずっとアルタイルを見つけられなかった理由を考えてみた。
 ……今ならわかる。きっと私は独りぼっちだと錯覚していたんだ。年に一度しか会うことを許されていない二人の心情から汲み取ったもどかしさを、自分に置き換えていたんだ。
 夫婦である二人とは関係性も違えば、課せられた制限もまるで違う。
 それでも重ねてしまうのは、恐らく私にはそうすることしかできないからだろう。
 私には彼に伝えたい言葉が山ほどある。それをぶつけ始めたら、一日ではとても足りない。それほどに私の中には想いが溢れている。
 そして私は誰よりも彼の事を知っている。彼自身が意識していない部分を知っていることを加味すれば、私の方が詳しいと言えるかもしれない。
 でも――私は何も言えない。数多の偶然が奇跡を呼んで、私が言葉を発せられるかもしれない。でもきっと彼に届きはしない。だって彼は、私の事なんか知らないんだから。
 自分ではどうすることもできない現実を前に、私の目から星が零れてしまった。
 それは、私の最後の悪足掻き。
『この星、君なら気づいてくれる?』
 しかし私はすぐにそれを拭い、それ以上落ちてしまわないように必死に堪える。
 ……泣くな、私。こんなことで振り向いてもらっても、どうしようもないじゃないか。
 だって、私は――彼の潜在意識の中の住人だから。
 そう――私は彼の心が負の感情に支配されないように生み出された良心の欠片。
 彼の起源が”優しさ”だとすると、私は偽りの起源。
 言わば緩衝材。つまりは埋め合わせのバランサー。
 私は彼が傷ついてからずっと、人知れず彼の心の奥にいた。
 何をするでも何を言うでもなく、ひっそりと彼の元に潜んでいたのだ。
 そこに意思や感情なんてあるはずもない。
 しかし彼の心境が変化すると同時に、私はまるで分離した別個体の存在として自分を認識してしまうようになる。
 そして客観的に彼の無意識に触れることで、私はある感情を抱くことになる。
 その病的なまでに逸脱した現象は、彼の転機の訪れまで遡る――。
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