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二〇章 白葉の告白2
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『グラミー賞をとる。
その目的に対して、あたしが嗤われていることは知っています。
『他の四人はともかく、お前みたいになんの取り柄もない、普通以下のポンコツアイドルがなに勘違いしてんだ。身の程を知れよ、バカ』って、そう言いたいんですよね?
たしかに、あたしは歌も踊りも下手だし、面白いトークもできない。顔もスタイルも水準以下。いつも、みんなの足を引っ張ってばかりのポンコツです。そのあたしが――ふぁいからりーふの一員としてとは言え――世界最高峰の賞を目指す。
『なに言ってんだ』
『取れっこない』
『身の程を知れ』
そう言いたくなって当然です。あたしだって逆の立場ならきっとそう言っていた。
でも、あたしはアイドルを目指すと言ったときにも嗤われたんです。
あたしがアイドルになろうと決心したのは小学五年のとき。あたしはかわいくもなければ、頭もよくない、スポーツだってできない。かと言って、そのかわりとなるような取り柄や、特別な才能があるわけでもない。
いつもドジばっかりで、なにをやってもうまく行かない。性格だって暗い方だったし、地味で目立たなかった。クラスの中心になって、みんなに囲まれたことなんて一度もない。
いつもひとりポツンと端っこの方にいて、たまに話しかけられるときは馬鹿にされるときか、からかわれるときか、そうでなければ、他の生きいきとした女の子たちがやりたくないことを押しつけられるときぐらい。
とくに男子にはいつもからかわれていました。
『ブス』
『暗い』
『いるの、気付かなかった』
そんなことをしょっちゅう、言われていました。普通どころか、普通以下。ずっとずっとスクールカースト最下層の存在だったんです。
そんな自分が嫌でいやで、いつも部屋にこもって泣いていました。そのせいでますます暗くなり、ますますからかわれるようになりました。正直、生きていくのがつらかった。
『どうせ、あたしなんてろくなものになれない。なのになんで、生きていかなくちゃならないの?』
誰にも言わなかったけど、いつもそんなふうに思っていました。
そんなとき偶然、テレビでステージの上で唄って踊るアイドルたちを見たんです。
そこで見た女の子たちはみんな、まぶしいぐらいに輝いていた。あたしが一〇〇回、生まれ変わってもなれないぐらい、かわいくて、魅力的だった。
そして、思ったんです。
『一生に一度でいいから、あたしもあんなふうに輝いてみたい!』って。
すぐに両親に『アイドルになりたい』って言いました。もちろん、猛反対されました。『お前なんかがアイドルになれるわけがない』って。
クラスの女子には『なに、勘違いしてんの?』、『身の程知らずにもほどがあるわ』って陰口をたたかれました。
男子には『なれるわけないじゃん』、『ブスがアイドルとか、マジ受ける』って嗤われました。
先生からも『そんな夢みたいなことを言ってないで勉強しろ』と叱られました。
でも、あたしはわかっていたんです。あたしみたいな低スペック女子が輝けるとしたら一〇代のうちしかない。おとなになってしまったらもう決して、輝くチャンスなんてまわってこないんだって。
だから、必死に両親に頼みました。両親もついに折れて、アイドル事務所に入ることを許してくれました。
『まあ、芸能界の厳しさを知ればあきらめるだろう』
そうハッキリ言われたわけではありませんけど、それが両親の本音だったと思います。
あたしがアイドル事務所に入ったと知ったときにはクラスの男子はみんな、嗤いました。
『本当に入ったのかよ』
『なれっこないのに、よくやる』
『スクールカースト最下層がアイドルとか、マジ笑える』
そんなことを散々、言われました。みんな、あたしとすれ違うたび、指を差してそんなことを言って、嗤うんです。
でも、あたしはいま、こうしてアイドルとしてステージに立っています。もちろん、赤葉ちゃんや黒葉ちゃん、青葉ちゃんに黄葉ちゃん、ふぁいからりーふのみんなのおかげですけど。わたしひとりではステージに立つなんて絶対、無理だった。
それでも、あたしはいま、まちがいなく、あのすごい女の子たちと一緒に、同じステージに立っているんです。あたしを嗤った人たちは、どこのステージにも立っていません。
だから、あたしは知っているんです。
嗤われたって、できるって。
だから、グラミー賞だってきっととれます。
いいえ、とって見せます。
あたしには尊敬できる仲間がいる。そして、応援してくれるあなたがいる。
赤葉ちゃんの妥協を許さないプロ根性は、あたしにとってなによりのお手本です。
黒葉ちゃんは、すぐに落ち込む泣き虫のあたしをいつも励まして支えてくれます。
青葉ちゃんはいつでも歌のレッスンに付き合ってくれるし、黄葉ちゃんはトークやお芝居のコツを教えてくれます。
そして、こんなあたしを応援し『今日もがんばろう』という気にさせてくれるあなたがいます。
だから、グラミー賞だってきっととれます。とって見せます。尊敬できる仲間たちと、応援してくれるあなたと一緒に』
あたしはギュッとスマホを握りしめた。
わけのわからない感情が胸のなかに渦巻き、沸き起こった。
――白葉もそうだった。堂々とアイドルとしてステージに立っている白葉も、いまのあたしと同じように嗤われていた。それどころか、いまだって嗤われている。でも、白葉は嗤われたって自分を貫いている。自分のために生きている。だったら、あたしだって……。
あたしを嗤った人たちはどこのステージにも立っていません。
その言葉があたしの胸に突き刺さった。心のなかに刻み込まれた。
――そうよ。あいつらがなにをしたって言うの? どんな舞台に立ったって言うの? なにもしてない。どこの舞台にも立っていない。それなのに、舞台に立とうとする人間を嗤う。そんな連中に負けてたまるもんか!
あたしはスマホを握りしめたまま立ちあがった。宏太を追いかけて走り出した。家から少しはなれたところで見慣れた小さな背中を見つけ、思いきり叫んだ。
「あたしと一緒に武緖先生のところに行って!」
その目的に対して、あたしが嗤われていることは知っています。
『他の四人はともかく、お前みたいになんの取り柄もない、普通以下のポンコツアイドルがなに勘違いしてんだ。身の程を知れよ、バカ』って、そう言いたいんですよね?
たしかに、あたしは歌も踊りも下手だし、面白いトークもできない。顔もスタイルも水準以下。いつも、みんなの足を引っ張ってばかりのポンコツです。そのあたしが――ふぁいからりーふの一員としてとは言え――世界最高峰の賞を目指す。
『なに言ってんだ』
『取れっこない』
『身の程を知れ』
そう言いたくなって当然です。あたしだって逆の立場ならきっとそう言っていた。
でも、あたしはアイドルを目指すと言ったときにも嗤われたんです。
あたしがアイドルになろうと決心したのは小学五年のとき。あたしはかわいくもなければ、頭もよくない、スポーツだってできない。かと言って、そのかわりとなるような取り柄や、特別な才能があるわけでもない。
いつもドジばっかりで、なにをやってもうまく行かない。性格だって暗い方だったし、地味で目立たなかった。クラスの中心になって、みんなに囲まれたことなんて一度もない。
いつもひとりポツンと端っこの方にいて、たまに話しかけられるときは馬鹿にされるときか、からかわれるときか、そうでなければ、他の生きいきとした女の子たちがやりたくないことを押しつけられるときぐらい。
とくに男子にはいつもからかわれていました。
『ブス』
『暗い』
『いるの、気付かなかった』
そんなことをしょっちゅう、言われていました。普通どころか、普通以下。ずっとずっとスクールカースト最下層の存在だったんです。
そんな自分が嫌でいやで、いつも部屋にこもって泣いていました。そのせいでますます暗くなり、ますますからかわれるようになりました。正直、生きていくのがつらかった。
『どうせ、あたしなんてろくなものになれない。なのになんで、生きていかなくちゃならないの?』
誰にも言わなかったけど、いつもそんなふうに思っていました。
そんなとき偶然、テレビでステージの上で唄って踊るアイドルたちを見たんです。
そこで見た女の子たちはみんな、まぶしいぐらいに輝いていた。あたしが一〇〇回、生まれ変わってもなれないぐらい、かわいくて、魅力的だった。
そして、思ったんです。
『一生に一度でいいから、あたしもあんなふうに輝いてみたい!』って。
すぐに両親に『アイドルになりたい』って言いました。もちろん、猛反対されました。『お前なんかがアイドルになれるわけがない』って。
クラスの女子には『なに、勘違いしてんの?』、『身の程知らずにもほどがあるわ』って陰口をたたかれました。
男子には『なれるわけないじゃん』、『ブスがアイドルとか、マジ受ける』って嗤われました。
先生からも『そんな夢みたいなことを言ってないで勉強しろ』と叱られました。
でも、あたしはわかっていたんです。あたしみたいな低スペック女子が輝けるとしたら一〇代のうちしかない。おとなになってしまったらもう決して、輝くチャンスなんてまわってこないんだって。
だから、必死に両親に頼みました。両親もついに折れて、アイドル事務所に入ることを許してくれました。
『まあ、芸能界の厳しさを知ればあきらめるだろう』
そうハッキリ言われたわけではありませんけど、それが両親の本音だったと思います。
あたしがアイドル事務所に入ったと知ったときにはクラスの男子はみんな、嗤いました。
『本当に入ったのかよ』
『なれっこないのに、よくやる』
『スクールカースト最下層がアイドルとか、マジ笑える』
そんなことを散々、言われました。みんな、あたしとすれ違うたび、指を差してそんなことを言って、嗤うんです。
でも、あたしはいま、こうしてアイドルとしてステージに立っています。もちろん、赤葉ちゃんや黒葉ちゃん、青葉ちゃんに黄葉ちゃん、ふぁいからりーふのみんなのおかげですけど。わたしひとりではステージに立つなんて絶対、無理だった。
それでも、あたしはいま、まちがいなく、あのすごい女の子たちと一緒に、同じステージに立っているんです。あたしを嗤った人たちは、どこのステージにも立っていません。
だから、あたしは知っているんです。
嗤われたって、できるって。
だから、グラミー賞だってきっととれます。
いいえ、とって見せます。
あたしには尊敬できる仲間がいる。そして、応援してくれるあなたがいる。
赤葉ちゃんの妥協を許さないプロ根性は、あたしにとってなによりのお手本です。
黒葉ちゃんは、すぐに落ち込む泣き虫のあたしをいつも励まして支えてくれます。
青葉ちゃんはいつでも歌のレッスンに付き合ってくれるし、黄葉ちゃんはトークやお芝居のコツを教えてくれます。
そして、こんなあたしを応援し『今日もがんばろう』という気にさせてくれるあなたがいます。
だから、グラミー賞だってきっととれます。とって見せます。尊敬できる仲間たちと、応援してくれるあなたと一緒に』
あたしはギュッとスマホを握りしめた。
わけのわからない感情が胸のなかに渦巻き、沸き起こった。
――白葉もそうだった。堂々とアイドルとしてステージに立っている白葉も、いまのあたしと同じように嗤われていた。それどころか、いまだって嗤われている。でも、白葉は嗤われたって自分を貫いている。自分のために生きている。だったら、あたしだって……。
あたしを嗤った人たちはどこのステージにも立っていません。
その言葉があたしの胸に突き刺さった。心のなかに刻み込まれた。
――そうよ。あいつらがなにをしたって言うの? どんな舞台に立ったって言うの? なにもしてない。どこの舞台にも立っていない。それなのに、舞台に立とうとする人間を嗤う。そんな連中に負けてたまるもんか!
あたしはスマホを握りしめたまま立ちあがった。宏太を追いかけて走り出した。家から少しはなれたところで見慣れた小さな背中を見つけ、思いきり叫んだ。
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