ダサいモブ令嬢に転生して猫を救ったら鉄仮面公爵様に溺愛されました

あさひな

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1巻

1-1

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   第一章 ダサいモブ令嬢に転生しちゃいました⁉


「んん」

 眩しい……朝?
 重い瞼を開け、真っ先に目に入ってきたのは見慣れない天井。
 あれ? 私は確か、車にかれそうになっていた猫を助けようとして車道に飛び出した
 はず。
 ってことは、ここは病院?
 身体を起こして周りを見回すと、小さいシャンデリア、天蓋付きのベッド、鏡台……
 なんだか、病室というより貴族のお屋敷にでも迷い込んだような煌びやかな部屋。

「ここは……どこ?」

 あれ? なんか声が変。
 それにさっきから見えている手もいつもと違う気が。
 ん? この髪は……あ、赤毛⁉
 髪色が気になり慌てて部屋の隅にあった鏡台の前まで行くと、そこに映っている姿に愕然とした。

「え⁉」

 癖のある赤毛に茶色い瞳。
 コケシ……いや、純日本人顔だった私とはかけ離れた容姿。

「どういうこと⁉」

 その時、頭にガンッと殴られたような衝撃が走った。

「うっ⁉」

 痛い‼ 頭が……割れそう‼
 思わずその場にしゃがみ込むと、大量の情報が流れ込んできた。
 どの情報も、私の知らないことばかり。
 もしかして、この身体の持ち主の記憶⁉
 額を押さえつつヨロリと立ち上がり、再び鏡を見つめる。
 そうだ。この容姿、見覚えがある。

「ま、まさか」

 昨日買ってきた乙女ゲームのパッケージに載っていた悪役令嬢の取り巻きにそっくりじゃない⁉

「嘘、そんなことって……」

 いやいやいや、落ち着け。落ち着くんだ。
 一先ひとまずそこのソファにでも座って、思考を整理することにしよう。

「ふぅ」

 ああ、これってあれ?
 ラノベで読んだことのある異世界転生ってやつ?
 こうなったのって、まさか――あの事故が原因なの⁉
 目を覚ます前の私は、千葉生まれの東京育ち。ポジティブを絵に描いたような両親と目に入れても痛くないくらい溺愛している愛猫とともに育った、生粋の日本人だった。
 コケシそっくりの薄い地味顔にちんちくりんの体型。容姿には恵まれなかったが、両親からは「女は愛嬌があれば大丈夫! ポジティブに生きるのよ!」とよく分からない持論で育てられたため、性格は明るく育ったと思う。
 学生時代はお笑いポジションにつくことが多かった私は、友達にも恵まれた。
 頭も決して良いとは言えなかったが、そこは人脈の力でどうにかなった。……まぁ、もっともらしいことを言っておきながら、頭のいい友達からノートやらテストの山やら、諸々の情報を横流ししてもらって「試験」「テスト」という名のピンチを乗り切っただけなのだが。うん、やはり持つべきものは友である。
 お陰でそこそこの大学にも受かり、卒業後はそこそこ知名度のある企業の内定を勝ち取り、事務職として働き充実した日々を送っていた。
 ――ぱっと見は順調な人生に思えるかもしれない。しかし、私には「残念な容姿」という問題があった。
 メイクやファッションを頑張ってみたものの限界があった。元々の顔面や骨格は、大がかりな整形でもしない限り変わらないのだ。
 そのためずっと容姿に自信が持てず、恋愛なんて美男美女たちのすることだと諦めていた。いつしか私は恋愛経験値ゼロのアラサーとして、喪女道を爆走していた。
 そんな私には同じ境遇の友達が多数いたのだが、ある日その友達の一人が、興奮した様子でとあるゲームを薦めてきた。
 それは乙女ゲームという、イケメンたちがチヤホヤしてくれる夢のようなゲームだった。リアルでは敬遠してきた恋愛のドキドキや、溺愛してくれるイケメンたちの甘いセリフは、仕事で疲れた心を驚くほど癒してくれた。私はすっかり乙女ゲームにハマってしまったのだ。
 その日以来、乙女ゲームにどっぷり浸かる日々を過ごしていたのだが、ある日とても気になる新作の情報を入手した。
 事前公開のストーリーは中世ヨーロッパ風の学園が舞台のごくありふれたものだったが、攻略キャラの一人が非常にツボだったのだ。私は、発売日にそのゲームを買いに行った。
 ソフトを無事に購入しプレイを楽しみにしながらルンルン気分で自宅を目指していると、目の前で野良猫が車道に飛び出した。

「危ない!」

 自宅で猫を飼っている猫愛好家の私の身体は、咄嗟とっさに動いてしまった。
 猫を車道脇に追いやり自分も逃げようとしたが、間に合わなかったようだ。
 ドンッと身体に強い衝撃が走った。
 ――それから目覚めてみたら、この姿になっていた。

(たぶん、あの時私は死んだのだろう)

 前世のオタク知識で推察すると、死んで魂だけになった私は異世界転生を果たした、と考えられる。
 そうなると、きっと前世の世界に私の居場所はもうどこにもなく、家族の元には帰れないということだろう。

(家族にも愛猫のみーちゃんにも会えず日本にも戻れないのは悲しい。せめて、別れの挨拶くらいしたかった)

 大好きな両親と愛猫の顔を思い出し、悲しみに沈みそうになったが、そこでふっとお母さんの言葉を思い出した。

(そうだ、お母さんはいつも言っていた。「前を向いて一生懸命生きていれば、必ずいいことがある」って)

 お母さんは不器用なところが多かったけど、何に対しても一生懸命な人だった。
 そんなひたむきな姿が可愛いと、お父さんはいつも惚気のろけていたっけ。

(ポジティブ思考はお母さんからの大切な教え。後ろ向きな気持ちのまま生きていたらきっとお母さんは悲しむわ)

 そうだ。どんなに嘆いても現状は変わらない。
 頭をブンブンと振って、両手でパァン! と両頬を叩いた。
 あ、これ、私流の気合い注入法ね。

(っしゃー‼ 私、負けない‼ お父さん、お母さん、みーちゃん、私、この世界でも立派に生き抜いてみせる‼)

 そうと決まれば腹を括って、まずは今の私が置かれている状況を整理することにした。
 先ほど流れ込んできた記憶から、現在の私の名前は「セリーヌ・ド・ラルミナル」というらしい。
 ここ、ユーラグナ王国のラルミナル伯爵家の娘として産まれ、貴族としての教育を受けて育ってきた。
 現在十四歳で、来年からは王立学園に通う予定である。
 ん? 来年から王立学園に入学?
 確かゲームの舞台は学園で、そこでヒロインが攻略対象者たちと恋愛の駆け引きをする、といった設定だったはずだ。

(ってことは、まだゲームは始まっていないのかな?)

 目の前の鏡に映る己の姿を改めて眺めてみる。
 ヒョロっとした長身に癖のある赤毛、スッとした鼻筋に涼しげな目元が印象的な顔立ちだ。
 まだ十四歳にもかかわらず、切れ長な目元のせいか大人びた印象を受ける。
 男ウケするような可愛らしい顔立ちではないが、クールビューティー的な美人、といったところだろうか。
 うむ、前世より顔面偏差値が格段に上がっているではないか! 悪くない‼
 しかし、このドレス……
 プリンセスラインのドレスにはレースやリボンがふんだんに使われ、パッションピンクのドギツイ色で目がチカチカする。
 はっきり言って、めっちゃダサい!

(この手の容姿なら、身体のラインに沿った大人っぽいデザインの方が似合うのに)


 ああ、思い出した。
 セリーヌは大きい目や可愛い顔立ちに憧れていて、切れ長の目やクールな顔立ちにコンプレックスを持っていたんだ。
 それで、少しでも可愛く見せようと、フリフリなデザインのドレスを着ていたんだっけ。

(うーん、気持ちは分からなくもないけど、これじゃあせっかくの素材が台無しだわ。セリーヌにはセリーヌのよさがあるのだから、もっと自分に似合うものを選ぶべきよ)

 しかもセリーヌは父親譲りで背が高く、ヒールを履くと女性の集団では頭一つ飛び出してしまう。
 変に目立ってしまうし、男性より身長が高いとダンスの時に格好がつかないこともあり、そこにもセリーヌはコンプレックスを抱いていたようだ。
 少しでも小さく見えるように、猫背になり、子供っぽいぺったんこ靴を履いて過ごしていた。
 前世がちびっ子でがっしり体型だった私からしたら、なんて羨ましい悩み!

(モデルみたいな長身スレンダーボディを持っているのに、これでは勿体ない!)

 ドブスとして生まれた私だったが、「可愛いは作れる!」というポジティブ思考で、ドブスからブスくらいには見せようと涙ぐましい努力をしてきた。
 その私からしてみたら、この身体や顔立ちはまさに天からの恵み‼

(前世で助けたあの猫様が、容姿をグレードアップさせてくれたのかな?)

 ……しかし、せっかく乙女ゲームに転生するなら、ヒロインがよかったな。
 よりによって、プレイしたことのない乙女ゲームの、名もなきモブ令嬢が転生先とは。

(まぁ、でも、断罪とかゲームの選択肢とかあまり考えなくてもいいから気楽ではあるよね)

 乙女ゲームの世界では、悪役令嬢はヒロインや攻略対象者に断罪されて悲しい結末を迎えることが多い。それに、ゲームの展開によってはヒロインも悲しい結末を迎える場合がある。
 悪役令嬢の巻き添えさえ避ければ、破滅の可能性が少ない役回りに転生しただけマシとも言える。

(よし! お気楽ポジションに転生できたのなら、ゲームのストーリーは無視して思う存分この世界を満喫しようではないか!)

 私は今日から、セリーヌ・ド・ラルミナルとして生きていく決心を固めた。

(さて、そうと決まれば、まずはこのドレスをどうにかしなければ)

 そういえば、乙女ゲームのパッケージにいたセリーヌも、似合いもしない、まるで子供のお遊戯会にでも着ていくようなピンクのフリフリドレスを身に着けていたっけ。

(なんとなく嫌な予感はするけど、とりあえずクローゼットの中を見てみるか)

 クローゼットの扉を開くと、一面ピンク、ピンク、ピンク。

(って、なんじゃあ! このピンクだらけの衣装たちは‼)

 そういえばこの部屋にもやたらとピンク色が使われている。
 どんだけピンク好きなのよ、セリーヌ⁉

(ああ、そうか! 幼少の頃、ピンクの服を着ていた時に可愛いと言われたことがあったから、それ以降ピンク色ばかり好んで着ていたんだっけ)

 セリーヌは今でこそ美しく成長したが、この世界では、特に幼い女の子はセリーヌが憧れていたような、目の大きい可愛い系の顔立ちが好まれる傾向にある。幼いセリーヌは、周囲から受ける扱いに自分と他の子で差があることを肌で感じていた。
 両親はセリーヌを大切に育ててくれたし、容姿についても特段口にするようなことはなかったが、それでも外へ出れば周囲の目に晒される。
 セリーヌは貴族の令嬢として生まれてきた。貴族社会では、あらゆる場面でお互いの価値を競う傾向がある。そのためお茶会など社交の場で、子供の容姿についてマウントをとるような親も存在する。
 そんな環境で傷付かないように、両親はセリーヌのことを守り育ててくれたが、底意地の悪い輩というのはどの世界にもいるものだ。
「可愛くない」「男顔」そんな心無い言葉を隠れて浴びせる子もいたし、「ドレス着た男の子なんて気持ち悪い。男の子とは遊べない」などと仲間外れにされることもあった。
 そんな中、たまたまピンク色の子供用ドレスを着てお母様とお茶会に参加した時に、同年代の男の子に可愛いと褒められたことをセリーヌはずっと覚えていたのだ。
 たった一言の「可愛い」という言葉で、ずっと抱いていた劣等感や疎外感、そして孤独感……そういった心の奥に溜めていた負の感情が洗われるような気がした。
 一人の女の子として認めてもらえたということが嬉しくて、それだけで今まで受けてきたひどい扱いなど吹き飛んでしまうような気持ちになった。
 そして、キラキラした深緑の瞳に真っすぐ見つめられ、私は一瞬でその男の子に恋をしたのだ。
 名前も知らないその男の子とはそれ以降会うことはなかったが、いつか会えた時に可愛い自分でありたい……そんな乙女心から、その男の子が可愛いと言った当時の服装に強い拘りを持ってしまったのだ。

(うん、気持ちは痛いほど分かるけど、これは流石にやりすぎでしょ)

 セリーヌはただ可愛くなりたい一心だったのだろうが、このクローゼットの中身はあまりに酷すぎる。

(とりあえず、ピンク色以外の服を探そう)

 目がチカチカする衣装たちを掻き分けていると、落ち着いた色合いのドレスが何着か奥から出てきた。
 きっとセリーヌ以外の誰かが選んだのだろうが、フリフリピンクなドレスばかり好んでいたセリーヌは、これらは着ないからとクローゼットの奥にしまい込んでいたのだろう。
 その中でも比較的装飾の少ないシックなドレスを探し出して鏡の前で当てていると、コンコンッと扉を叩く音が聞こえた。

「お嬢様、おはようございます」
(あ、この声は侍女のノアね)
「おはよう、ノア」

 私の声を聞いたノアは扉を開けると、驚いたような表情を浮かべた。

「お嬢様、そのドレスは……?」
「え? ああ、いつもピンク色のドレスばかり着ていたから、違う色を着たくなったの」

 すると、ノアは目を見開いてその場で固まってしまった。
 あれ? 私、なんか変なことを言ったかな?

「お嬢様がそんなことを言い出すなんて! はっ、まさかお身体の具合でも悪いのですか⁉」

 いやいやいや、ちょっと待て!
 何故そんな発言になる⁉
 待って、医者を呼びに行こうとしないで⁉

「ノア、落ち着いて! 私は至って健康よ」
「ですが、いつもはピンク色のドレスでないと部屋から出たくないとおっしゃるお嬢様が、他の色のドレスを当てていらっしゃるなんて」

 セリーヌのピンク色依存は重度だったようだ。

(ここまで徹底的にピンク色ばかりだと、日本の某有名人を思い出すわ)

 うん、林家○ー子的な……ね。
 いやいや、そんなことよりまずはノアを説得しなければ。

「ノア、私気づいたの。私の容姿にはフリフリピンクなドレスより、もっとシックなデザインのドレスが似合うってことに」

 すると、ノアの見開いた目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「お嬢様……‼ ようやく! ようやく、ご自身の魅力に気づかれたのですね⁉」

 このドレスはもしかしてノアが選んだものだったのかしら。
 ってことは、ノアはずっとセリーヌのダサいセンスに悩まされてきたのか。
 ああ、ノア、今までごめん。

(確かにセリーヌの記憶を辿ると、ノアはさりげなくピンク以外のドレスも似合うとか、大人っぽいデザインも素敵とか言っていたな。それを可愛くなりたい一心で迷走していたセリーヌは聞き入れて来なかったのか)

 ぼんやりそんなことを考えていると、ノアは涙を流したまま「奥様にもご報告しなければ! 奥様ーー!」と部屋を飛び出して、お母様を呼びに行ってしまった。

「え! ノア⁉ ちょ、ちょっと‼」

 ああ、どうしよう、行ってしまった。
 一人ポツンと取り残された私は、はぁ、と深いため息を吐いた。
 ノアはすぐにお母様を連れて戻ってきた。

「セリーヌ! 貴女、ノアにピンク色以外のドレスを着たいと言ったって本当なの⁉」

 ああ、お母様もセリーヌのセンスの悪さを心配していたのね。
 ってことは、このドレスはきっとノアとお母様で用意したものだったのだろう。

「え、ええ。お母様、私は今までどうかしていました。お母様は私を心配して助言してくださったのに、聞く耳を持たずに申し訳ありませんでした。これからは自分に似合った服を着ることにいたしますわ」

 私の言葉を聞いたお母様は急に涙目になり、感極まった様子で私を抱き締めた。

「セリーヌ! ああ、こんな日が来るなんて、お母様は嬉しい‼」

 お母様の華奢な腕からは想像もつかないような力で抱き締められ、骨がミシミシと軋む。

(痛い痛い痛い!)
「うぐっ! お、お母様、落ち着いて……!」
「ああ⁉ ごめんなさい、セリーヌ! 嬉しくてつい!」

 お母様はぱっと離れると、満面の笑みを浮かべて私を見つめてきた。

「セリーヌ、これからは貴女に似合ったものを着ましょうね。ああ、そうだわ! これから一緒にドレスを買いに行きましょう! それと、貴女の気が変わらないうちに今あるドレスは処分しましょう」
(ええっ! この大量のドレスを処分しちゃうの⁉ 勿体ない‼)

 前世はお世辞にも裕福とは言い難い家庭で育った私は、ものを捨てることに抵抗があった。 
 正確には『リサイクルなどで金になるものをそのまま捨てることに抵抗がある』と言うべきか。

(このドレスを古着として売れば絶対いい金額になるわ‼ ここはお母様に任せたらいけない!)
「お母様、このドレスの処分は私がいたしますわ。ですから、どうかお母様はお気になさらずに」

 私の言葉を聞いたお母様の表情は途端に曇った。
 あ、もしかしてドレスを処分しないで取っておくと誤解しているのかしら。

「お母様、ご安心ください。このドレスたちは必ず処分いたしますわ」
「その言葉は本当かしら」
「ええ、約束いたします」

 お母様の表情はまだ曇り気味だが、これ以上しつこく追及してセリーヌの気が変わると困ると思ったのだろう。
 渋々といった様子で了承した。

「貴女の言葉を信じるわ。早めに処分して頂戴ね。可能な限り、早めにね」
(早めに、を二度も言ったわね。よっぽどこのドレスを処分してもらいたいのね)
「はい、お母様」

 お母様は私の選んだドレスに目を向け、再び口を開いた。

一先ひとまずそのドレスを着て、朝食が済んだら早速新しいドレスを買いに行きましょう」

 私がこくりと頷くと、すかさずノアが「ではお着替えのお手伝いをいたします。ささ、こちらへどうぞ!」と動き出した。
 ノアの補助でAラインのシンプルなドレスに着替えた私は、早速食堂に顔を出した。
 すでに席に着いていたお父様とお母様は私の姿を目にした途端、まるで長年の憑き物が取れたような晴れやかな笑みを浮かべた。
 先ほどあの場にいなかったお父様も笑顔だということは、お母様から全て事情を聞いたのだろう。

「おお、セリーヌ! 見違えたぞ‼」
「まぁ、セリーヌ! 貴女はそのデザインの方が断然似合っているわ!」
「お父様、お母様、お待たせいたしました。お褒めいただきありがとうございます」

 貴族らしく丁寧なお辞儀をして席に着いた。
 おお⁉ 朝から生ハムが出るとは、前世の質素な食事とは比べものにならないくらい贅沢な朝食!

「ああ、今日は朝から気分が良いな。美味い酒でも飲みたいぞ」
「貴方、今日は公務がおありでしょう?」

 お母様にギロリと睨まれたお父様は慌てた様子で弁明した。

「それはもちろん分かっているよ。冗談だ。酒は帰ってからの楽しみにする予定だ」
「それなら良いですが。セリーヌ、貴女は食事を終えたらお母様とドレスショップに出かけるからそのつもりでいて頂戴ね」
「はい、お母様」

 ああ、生ハム美味しい。
 美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、お母様に返事をした。


 食事を終えた私たちは、街までやってきた。

「さぁ、着きましたよ」

 ここは貴族御用達のドレスショップ。
 ショーウィンドウには色とりどりのドレスが飾られている。
 私たちに同行していたノアが入り口で名前を伝えると、ドアマンが店内へと案内してくれた。

(わぁ、凄い数のドレス)

 店内にあるドレスの数に圧倒されていると、奥から店主のポンフィット夫人が、助手らしき女性たちを従えてやってきた。

「ラルミナル伯爵夫人、本日はご来店いただきましてありがとうございます」
「ポンフィット夫人、ご機嫌よう」
「本日はお嬢様のドレスをご所望と伺っておりますが」
「ええ、そうなのです。娘に似合うドレスを見繕っていただきたくて」

 ポンフィット夫人はお母様から私に視線を移し、じーっと私を見つめてきた。

「お嬢様は大変スタイルがよろしいですね。それにお顔立ちもこの年代のレディとしては大人びていらっしゃる。この美しさを花でたとえるなら、清楚な中に見え隠れする色気で周りを惹きつける……月下美人のような魅力がございますわ」
「そうでしょう、そうでしょう!」

 お母様は満面の笑みでポンフィット夫人の言葉に賛同している。
 流石は貴族相手に商売をするポンフィット夫人、早くもお母様の心を掴んだようだ。

「こういった魅力のあるレディには、可憐なデザインよりもシックなデザインの方が断然お似合いですわ。只今ドレスをお持ちしますので、こちらにお掛けになってお待ちください」

 ポンフィット夫人が奥に引っ込むと、助手の女性が飲み物やお茶菓子を用意してくれた。

(わぁ、この紅茶いい香り。それにこのクッキーも美味しい)

 お茶とお茶菓子を存分に堪能していると、大量のドレスを持ったポンフィット夫人と助手たちが戻ってきた。

「あら、素敵なドレスね! セリーヌ、座っていないで早速試着をするわよ」
「え、お母様、まさかこのドレス全て着るわけじゃないですよね?」
「今まであの系統のドレスしか着てこなかったのですから、色々試してみないと貴女に最適なものが分からないじゃない。時間の許す限り着てみなさい」
「そうですわお嬢様。ぜひ心ゆくまで試されてください」
(げげっ、このドレス全部着るの⁉)

 片っ端から試着してこい発言に一気に心が萎えたが、このまま座っているわけにもいかない。

(はぁ、やれやれ。大変そうだけど、セリーヌの魅力を引き出すためには服選びに妥協してはいけないわね。こうなったら何着でも着てやる!)

 気合いを入れ立ち上がると、ドレスを手にしたポンフィット夫人と助手たちが私を試着室まで案内した。

「まずはこのドレスから着てみましょう。大人っぽいデザインにはなりますが、セリーヌお嬢様ならきっとお似合いですわ」


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