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第一章 はじまり

修道院へ、いざ突撃!

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 はぁ、遂に一人で家を出てしまったわ。

 ガタガタと揺れる馬車に身を委ねながら、そんな事を思いつつ窓の外をぼんやり眺める。

 今まで家の外に出る時は侍女か親が必ずいたから、イザベルはこうして一人で馬車に乗るのも初めてなのよね。
 前世との境遇の違いを改めて実感するわ。

ーーそれに、前世と違うといえば、やっぱり魔法の存在。

 イザベルの記憶によると、この世界には魔法という不思議な力があり、心臓や血液と同じ様に体内に魔力が巡っているらしい。
 身体能力にバラ付きがあるのと同じく、魔力の量も人によって様々だが、力のある者が権力を握るのは万国共通の様で、この世界では魔力が強い者達が政権を握り、国を支配していた過去がある。
 その名残を受け、一般的に平民より貴族の方が魔力が強い傾向にあるとされている。
 魔力は大まかに火・水・風・地・光・闇の六属性に分かれているらしい。

(うぅむ、流石は腐っても公爵令嬢。面白いくらいスルスルと知識が出てくるわね)

 前世にはない知識が面白くなった私は、そのまま思考に集中することにした。

 どうもこの世界では光と闇の力は珍しく特別視されているらしい。

 特に光の魔力がある人物は歴史上二名だけだとされており、その者達は『巫女』と呼ばれ、魔獣を淘汰するために『浄化』という力を使い人々を救ったとされている。

 次に、闇の魔力は強力な破壊魔法が特徴とされており、現在は魔法省のお偉いさんと魔獣達の頂点に君臨する魔王の二名しか保有者はいないそうだ。

 要するにそれだけ光と闇の力は貴重ってことね。ふむふむ。

 ちなみにこの世界の住人は幼少期に魔法省管轄機関で一斉検査を受けることになっており、私には火の魔力があるらしい。ふーん。

 長い間考え込んでいたのか気付いた時には景色は様変わりしており、小高い丘の上に古い大きな建物が立っている事に気付いた。

 古いけど立派な建物。
 あ、もしかして、これがネスメ女子修道院かしら?

 そんな事をぼんやり考えていると、馬車の外から御者が声を掛けて来た。

「お嬢様、間もなくネスメ女子修道院に到着致しますのでお支度をお願い致します」

 あ、やっぱりそうなんだ。
 想像より大きい施設ね、寄付金がっぽり貰っているんだろうなぁ……。
 って、いけない、いけない。
 前世の癖でついゲスい事を考えてしまったわ。
 フリフリと頭を振り思考を切り替えていると、馬車は速度を落とし建物の前に停まった。
 そのまま馬車から降りて建物の入り口まで来た私は、立派な扉の前で深呼吸をした。

(スーハー、スーハー。よしっ、気合いは充分! いざ、突入!!)

 扉に手を掛けた途端、バンッ! と扉が開いた。
 うわわわっ! 後ろに倒れる!?

「きゃ!? あいたたた」
「まぁ、失礼っ! 大丈夫ですか!?」

 尻餅を付いた私に手を差し伸べる壮年の修道女。
 うう、地味におしりが痛い。
 修道女の行為に甘えて手を掴むとそのまま引っ張り上げてくれた。
 やれやれ、初っ端からとんだ目に合ったわ。

「ごめんなさい、大丈夫だったかしら」
「ええ、尻餅を付いただけですから問題ありませんわ」

 修道女は私に怪我がない事を知りほっとした様子だが、私の身なりを見るなり、おや? と首を傾げた。

「あら、その装いにその荷物。もしかしてアルノー家の御令嬢いらっしゃいますか?」
「は、はい。私はイザベル・フォン・アルノー。アルノー家の娘でございます」
「やはりそうでしたか。あ、申し遅れました、私はここの修道院長のヴァレリーと申します。ここで立ち話も何ですし、まずは中へどうぞ」

 なんと、この方。ただの修道女ではなくここの長だったのね!? 失礼のないように気をつけなきゃ!
 
 内心アワアワする私を他所に、ヴァレリー院長は優雅に微笑みながらそっと扉を開けて中に通してくれた。

(わぁ、凄い! 高い天井)

 一歩中に入れば高い天井に壮大な空間。
 無数の天窓や正面のステンドグラスから差す光は辺りを柔らかく照らし、神秘的で美しい光景が広がっていた。

「ここは大聖堂。修道女達は、毎日朝と晩にここに来て女神に祈りを捧げます。我々修道女の他にも身分問わず様々な教徒達が祈りを捧げに来る神聖な場ですわ。……っと、堅苦しい説明は後にして、まずは応接室に行きましょう。どうぞ、こちらへ」

 ヴァレリー院長に案内されるまま扉の奥へ進むと、そこは回廊になっており広い中庭が見える。
 更に先を行くとこじんまりした建物が見えて来た。
 ヴァレリー院長が扉を開けると、中には修道院とは思えない様な豪華なソファと机の応接セットが設置されていた。

「まずはソファにお掛け下さいませ」
「はい、ありがとうございます」
「今お茶をご用意致しますわ。ダージリン、アッサム、あっ、ハーブティーもあったわね。どんな味がお好みかしら?」

 ヴァレリー院長はどこか楽しそうにお茶を淹れる準備を始めた。

「では、お言葉に甘えてダージリンをお願い致します」
「まぁ、奇遇ですわね。私も紅茶はダージリンが一番好きなんです。……さぁ、出来ましたわ。熱いのでお気を付けて」

 そっと優雅な手付きで出された紅茶と彩り豊かな添え菓子。
 そのお菓子達を見て、私のお腹はグゥ、と小さく鳴った。

(ゲッ、お腹鳴っちゃった! 恥ずかしい··········。ああ、そう言えば破滅フラグから逃げることに必死で昼食取るのを忘れていたんだっけ)

 お腹の音が少し聴こえてしまったのか、ヴァレリー院長はふふっと笑うと奥から追加のお菓子を持って来てくれた。

「教徒達からいただいた物ですが、食べきれずに余っているんです。よろしければこちらも如何?」
「あ、ありがとうございます」

 初対面でお腹の音を聞かれた挙句に空腹を気遣われるって、令嬢としてどうなのよ。
 しかし、目の前にはとっても美味しそうなお菓子……じゅるり。

「では、お言葉に甘えていただきます」

 羞恥心より食欲の方が優った私は、有り難く追加のお菓子もまとめて頂戴することにした。
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