追憶の探偵

兎束作哉

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第2章 逆恨みの探偵

case08 いじわる

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「春ちゃんって限度って言葉知らないよね」
「お前が奢るっていったんだろうが」
「でも、ドリンクバーにサラダにスープにパン、それからデザート二品頼むとかある?ちょっとは僕の財布のこと考えてよ」


 昼食を済ませ、捜索を再開し早15分が過ぎようとしていたが後ろにいる神津がぐちぐちと先ほどの事を根に持っているといわんばかりに俺に文句を言い始めた。
 確かに頼みすぎたと反省はしているが後悔はしていない。そもそも、奢るといったのはあっちだし何円までと呈示してこなかった神津が悪い。それに、彼は俺に貢ぎたいと以前言っていたのだから問題ないだろうと思った、思うことにした。多少は罪悪感がある。

 ただ、最近がっつり食べていなかったこともあり、昼食からあれだけいろんなものを食べれたのはありがたかった。


「じゃあ、お礼にキスでもしてやろうか?」
「……ニンニク味のキスは嫌」


と、いつもなら「春ちゃんから!?もちろんしたい!」などといってきそうな神津だったが、俺が思っている以上にへそを曲げてしまったらしく、俺の申し出を断った。

 冗談でいったつもりではなかったし、まあ減るものではないし、自分からした事などなかったから良いかなと少しでも思った俺の気持ちを返せと神津を睨み付けてやれば、神津は少し熱っぽい目で俺を見つめてきた。


「何だよ」
「それって、いつまで有効?」
「それって……」
「だから、春ちゃんからのキス。今は気分じゃないけど、春ちゃんからキスしてもらいたいし。そのお礼っていつまで有効かなーって」


 そう神津は、冗談とは思えない笑顔で俺に尋ねてきた。
 口走ったのが間違えだったと、俺は頬を引きつらせる。足を止め、一歩後ずされば逃がさないというように神津は大きく一歩を踏み出した。


「それで、どうのなの?春ちゃん」
「い、いや……」
「まさか、さっきのは冗談だー何て言わないよね?ね?」


 神津は俺の逃げ道を塞ぐようにして壁際に追い詰めてくる。
 顔の横に手を置かれてしまい、俺はもう逃げられない。


「おい、ここ人通り多い道だぞ」
「だから?」
「…………ここじゃ出来ない」
「僕は出来るけど?」


 お前と俺をいっしょにするなと睨んでやれば、ようやく神津の表情が柔らかくなり、それを見た途端からかわれたんだと、耳が熱くなるのを感じた。


「冗談冗談。だって、春ちゃんからのキスを見ていいのは、春ちゃんの可愛い顔を見ていいのは僕だけなんだもん。こんな所で要求しないって」
「クソが……」
「何かいった?」
「何でもねえよ」


 恋人の執着心を見せられて、恥ずかしいような、恐ろしいような気持ちになり俺は舌打ちをして歩き出す。後ろでは神津が笑いながらついてきているのを感じ取り、少し早足になる。すると、神津も早足になってついてくる。

 本当はいちゃついている……こんなことをしている場合ではないのだ。

 当初の目的をすっかり忘れそうになっていた俺は、満腹で眠たくなってきた頭を何とかたたき起こして、事件のことについて思考を巡らせる。


 犯人が誘拐した少女達は捌剣市の小学校に通う子ばかりだ。だから、犯人は市街には出ていないはず。出ていたとしても車で往復できる距離がベストだろう。監禁していたとしても何かの拍子に逃げられたらたまったものじゃないから、すぐに行き来できる距離にいるはずなのだ。
 自宅、若しくは神津のいったとおり廃業して間もないビルやマンションか。人目につかなければいいと考えると、どちらもあり得そうだが、俺が予想している犯人であれば自宅はまずないだろう。家族で住んでいた気がするし、家族ぐるみでの誘拐でないことは確かである為、やはり後者であると考えるのが普通か。


(捌剣市で廃業して間もないビルかマンションなんて幾つあるか)


 考えるだけでも両手の指の数はゆうに超えるだろう。小さい建物から大きい建物を考えても。
 時間をかけていいのなら、手当たり次第探していけばいいのだが、少女達のことを考えると時間をたくさん使えるわけではない。殺す、と言うことはないだろうが彼女たちの精神面を考えるとそう長くは持たないだろう。彼女たちの家族も心配して気が気ではないだろうし。
 そんなことを考え、スマホで場所をピックアップしようとポケットに手を突っ込んだときだった。後ろから、神津が「春ちゃん、前」と叫んでいるのが聞え、俺は瞬間的に顔を上げた。だが、時既におそしで、目の前にいた少年に俺は激突してしまう。


「わっ」


 俺はよろけただけで済んだが、少年は尻餅をつき、手に抱えていた紙を地面にばらまいてしまう。
 しまったと、俺はしゃがみ込み少年に手を差し伸べる。


「悪い、前を見てなかった。おい、少年立てるか?」
「いたた……は、はい。こちらこそすみません」


と、あちらには何も非がないのに少年は俺の手を取りながら頭を下げた。

 少年を起き上がらせつつ、ぶつかった際に散らばってしまった紙を拾おうと視線を落とせば、その紙に書いてあった文字と写真に俺は目を奪われた。
 それは、誘拐犯が狙っている少女の条件に合った女の子の写真だったからだ。




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