一年後に死ぬ予定の悪役令嬢は、呪われた皇太子と番になる

兎束作哉

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第1部3章

03 これまでとは違う

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(――本当に、泊ることになっちゃったけど、これでよかったのかしら)


 殿下の言うとおり、皇宮にしばらくの間身を寄せることになった。理由もしっかりと通ったし、周りからも、近くにいた方が番としての仲も愛情も深まりますからね、とはやし立てられた。はやし、というか、多分ここの使用人たちは本気で殿下と私の間に愛を芽生えさせようとしているのだと思う。そうでなければ、殿下が死んでしまうから。
 全く厄介な呪いで、殿下だけならいいのに、番った側もその呪いを受けるのだからたまったものではない。今はまだ、一年という時の流れを理解しきれていないが、既に殿下とで会ってかなりの時間が経っている。このままずるずる行けば、いずれ共倒れになってしまう。その前に対策を立てなければならないのだ。


(お父様は、結局何も言ってこずじまいね)


 こんな状況下であっても、お父様は私を心配するどころか、殿下との仲を深めてこいと言わんばかりに押してきて、メイドに頼んだのが、ランジェリーまで贈ってくる始末。本当に、親だとは思えないし、娘の気持ちを尊重していない。どうせ、道具としか見ていないのだろう。利用できなくなれば、いらないといわれるがおち。だからか、ここにいる間はそんな冷たいお父様の目に監視されることなくのびのびと過ごせていいのかも知れない。開放感があって――でも、一つ問題があるとすれば、毎日のように殿下と顔を合わせることになってしまった、ということだろう。
 また、皇宮のメイド達は、公爵家のメイドと違って押しが強く、番は一緒に寝るべきですと、毎度同じ部屋にされる。もう、お風呂なんて私が洗わなくても隅から隅まで現われて、溶けてしまうんじゃないかと言うくらい化粧水やら、保湿液やら塗られて、完璧で美しいです、と鏡を見せられる。その作業が終わると、やっと一人になれるのだ。メイド達は皆優秀だが、強引すぎるのが玉に瑕だと私は思う。


(はあ……何回目だっけ? こんなこと)


 もう、数える気にもなれないくらい殿下と一緒に寝た気がするけれど、多分きっと気のせいだ。目が覚めたら隣にいないし、紅茶だってベッドサイドに置かれているだけ。ソファーで座って寛いでいる姿とかまだ見ていないし、寝顔を見たこともない。
 一応三日に一度ほどは彼に抱かれているけれど、彼もこの間の事があってか、少し手加減をして私を抱いているようだった。あの最悪な初夜からしてみればもの凄い進歩なのだろうが、あれがもの凄く強烈すぎて、頭から離れない。それに、何だか優しく抱く殿下が解釈違いな気がして、そんなもっと激しく抱いて! と求めているような自分が浅ましかった。
 殿下がヒロインに心を開けば、彼女のことを一年後……もっと早ければ、半年後、とか。ヒロイン――イーリスが殿下の呪いを解いて、二人は結ばれるんだから。そういう運命なのだから。


「はあ……」
「ロルベーア様、おはようございます」
「ああ、マルティンさんおはようございます。今朝も早いですね」
「殿下も朝が早いので。遅れると、すぐに癇癪おこすので……あっ、殿下には内緒ですよ」


 廊下の向こうから歩いてきたマルティンに挨拶をすれば、彼は気前よく私に話しかけてきてくれた。
 つい最近までは、「ロルベーア公爵令嬢」と堅い呼び方だったのが、今では「ロルベーア様」と距離も縮まった気がして、近寄りやすい存在となった。かといって、マルティンに頼ると言うことはあまりしない。マルティンはあくまで、殿下の補佐官であり、殿下の無茶振りに答えられる唯一の苦労人だから。


「ロルベーア様、調子は大丈夫ですか?」
「殿下にも聞かれたけどもうすっかり。心配をかけてすみませんでした」
「とんでもないです! ロルベーア様の身体が第一ですから」
「そう? ありがとう」


 マルティンは、そうですよ、と念を押した後、少し不思議そうに話題を変えた。


「でも、本当にあの時はびっくりしました。本部に戻ってきて魔物を倒した後、殿下がその場にロルベーア様がいないと言い出したんです。本部には大勢人がいましたし、その中から探せるはずもないのに。近くにいるんじゃ無いでしょうか、といったんですが、すぐに誘拐されたといって走り出してしまって。途中までは事情を聞きつつ追っていたんですけど、見失ってしまって。あんなに慌てた殿下、初めて見ました」


と、マルティンは思い出すように自分の顎を撫でた。

 それを聞いて、私は彼とテレパシーで会話したときのことを思い出した。確かに、助けにむかっているといっていたけれど、焦っているような感じはしなかった。けれど、マルティンが言うことが嘘というふうには思えない。本当に殿下は私が誘拐されたと瞬時に気づいて、行動してくれたのだろうか。
 私は、マルティンの話を半信半疑で聞きながら、それでも――と、眉を曲げて笑った。


「番ですから、死んだら殿下にとっても困るでしょうし。そういう意味で焦っていたんじゃないですか」
「いえ、殿下はそんなことは気にしないと思います。ここだけの話なんですが、番に自死されたり、他殺されたりすると殿下はその番と一生添い遂げることになるので……これまで番ってきた令嬢たちを全員殿下の手で殺めているのです。勿論、それ相応の理由ですよ? 番契約を解く方法は、番を殺す事ですからね。殿下の暗殺未遂罪で死刑……その執行を殿下がという感じで。ですが殿下は、ロルベーア様を殺害するために飛び出したのではないと思います。本当に純粋に救おうと思って……わたしにはそう見えました」


と、マルティンは言うと私の方を見た。嘘ではないから信じてくれ、とその瞳には書いてある。

 大分物騒なないようだとは思いつつも、死なれた女性に束縛されるくらいなら……というのもあるのだろう。だからこそ、殿下の判断は間違いではない。でも、今回はそんなこれまでの番とマルティンは違うというのだ。


「殿下がこんなにも誰かに興味を持ったのは初めてです。ですから、ロルベーア様、そんな自分のことを卑下しないでください。ロルベーア様は、殿下の誇るべき唯一の番です」
「あ、ありがとう」


 それは、いいのか悪いのか、どう反応すれば良いか分からず私は苦笑いで返してしまった。
 もし、本当にそれが真実であるというのなら……殿下が私に興味を持ち、その上で好意を持ってくれているのなら――


(ううん、願いすぎ。欲張りすぎ)


 興味だけでもいい。でも、それじゃあきっと足りないんだろう。遅い、殿下を救えない。
 そんなマイナスの気持ちになってしまい、下を向いていれば、また廊下の向こうで「聖女様ー!」と使用人の一人が叫ぶ声が聞えた。聖女、という単語に反応し、私は振返ると、そこにはこちらに向かって走ってくる飴色の髪の少女がいて、私に気づくと「ロルベーア様っ」と鈴の鳴るような声で私の名前を呼んだ。


「い、イーリス聖女?」
「はっ、はっ……ずっとお会いしたかったんです。この間の件も含めて、ええっと、何から話せば……」
「随分と騒がしいと思ったら、何だ聖女が来ていたのか」
「……っ」
「皇太子殿下!?」


 一歩彼が私のスペースに踏み入れただけで、来た、と分かった。彼が近付いてくるほど、その匂いが濃くなってきている気がして、でもそれは嫌な匂いでは決してない。けれど、近付かれるとくらくらと目眩のようなものがした。いや、どちらかと言えば興奮というか、動悸が激しくなると言うか。とにかく、ある意味毒だ、と私は殿下からはなれる。そんな私を見て殿下は、目を細めた後、私の横にいるマルティンに視線を向けた。けれど直ぐに興味をなくしたようにすぐに私の方を見た。イーリスには目もくれず。


(い、一応、貴方のためのヒロインなんですけど?)


 逆もしかり、というかヒロインのためのヒーローなのかも知れないけれど、とこれまで危惧していた殿下とイーリスの接触。殿下の呪いを解くためには、彼女が必要だ、と頭の隅にあったからか、もうこの際会って発展して、否定してくれ、という思いもあった。でも実際その現場に居合せると、今すぐこの場から逃げ出したくなった。本能が、危険だと言っているのだ。奪われると。
 殿下は、イーリスに対して、何も感じなかったようだが、イーリスは違った。彼女は何かを感じ取ったのか、一気に殿下に距離をつめ、真剣な表情で一言口にする。


「――皇太子殿下。殿下は呪いにかかっているのではないですか?」

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