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 シザーの動きは流石シックスの一員と言えるほど早かった。アウスのいる応接間に走り、許可を貰えばその日のうちに王国へと馬に乗り走っていった。
アウスもエトワール伯爵邸へ手紙をくくりつけた鳥を飛ばし、使用人たちに再度向き合う。


 ノバが戻ってきたのは鳥を飛ばしてから十分程が経った頃。ユルに担がれてやってきたノバは失神しているのか意識がなかった。多くの使用人が死んでいるとさえ勘違いするほど。

 ユルの報告によれば、聞いた通り公主邸より一番近い賭場にて賭け事をしているのを確認。その後、公主邸より来たことを告げると逃げようとした為に気絶させ連れてきたとのこと。
しかしアウスは何故かノバの姿を見て怪訝そうに眉間に皺を寄せたかと思えば、ノバの実家であるビモータ男爵邸に早馬を送り男爵と男爵夫人を連れてこいとシックスに命じた。
この命にはユルと共に戻ってきたネスタが反応し静かに移動を開始した。









 ビモータ男爵邸に早馬が到着したのは早朝五時を回るか回らないか、まだ朝日も昇らぬ暗い時間。
メイドたちの一部が目覚め動き出す時間に、突如として門番が邸の中に駆け入れば只事ではないことを察する。

 ビモータ男爵邸の当主、エリバンとその妻ナターシャも騒ぎに目を覚ませば使用人たちが申し訳なさそうに、けれども火急の事ゆえと頭を下げた上で「公主様の遣いの方が……お嬢様の件で、と」と伝えた。
寝間着である不敬も無視して、飛び出すように邸の玄関で待つネスタの元へと走った。
 寝間着で走ってきた夫妻を、流石に不敬ではと喉まで言葉が出かかったが急ぎで来た立場もあった為に「夜更けに申し訳御座いません、リュドヴィクティーク様より召集が掛かりましたためお迎えに上がりました次第で御座います」と少し申し訳無さそうに言った。


 娘が何をして、こうやって公主から召集がかかったのかわからない夫妻は顔を見合せ止まらない冷や汗を拭う間も惜しくなる。
「娘は、一体何をしたのでしょうか」
そう意を決して問うた夫妻をネスタは少し驚いたように見た。賭場で見聞きしたノバのことだ、両親の性根も腐りきっているのだろうと勝手に考えていた。
優しい夫妻の愛情を受けて育ち、ああも腐ってしまうのは水を与えすぎたのだろう。

「公主様の番様の殺害未遂、番様の所持品等の横領の罪にて現在尋問中です。ただ、証拠は揃っている状態での尋問となりますのでご両親もお呼びする次第で御座います」

 ネスタの言葉を聞いたナターシャはフッと足の力が抜けたように地べたに尻を着けた。メイドが奥様ッと傍に寄るのも声は届いていないようだった。
エリバンも大層信じられないことのように、何て言うことだと呟いて地面を見つめて動けなくなる。それもそうだろうな、とは思ってもなんと声をかけるのが正しいことなのかわかりかねるネスタは落ち着くまで待つことしか出来なかった。

 突然の娘の罪状は信じられなかったことだろう。
しかし、横領した金が此処に流れてくる事はないだろうと考えられる点から家族は無実な気がしてしまう。稀に咄嗟の猫かぶりで罪から逃れようとする者がいるが二人からそういった悪意を感じられない。
ネスタは柄にもない慈悲のつもりで「娘さんから最近金銭を受け取った、または宝飾品が贈られて来たりはしていないですか?」と訊いた。
夫妻は一瞬悩んだ素振りを見せたがすぐに、「最近昇進したからと仕送りをしてくれるようになって……けれどあの子のいつか来るであろう結婚式に備えて一銭たりとも使ってません」とネスタに伝えた。
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