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しおりを挟むセンガルはエトワール家に渡す書類をアウスに渡し、ラウリーに会わずして邸を出た。すぐ出る理由を言うことはなかったが、アウスは何故か理由を聞かなくともわかる気がして言及することはなかった。
部屋に戻る道中、ランゼルがアウスに声をかけ話をした。
両親はもう公国に来ることを望んでいること、その為に必要な手順を纏めてすらいること。けれど、やるべきことが残っていること。
「…帝国の来訪者は皇帝陛下と推察しております。公主様のお持ちの書類はきっと依頼した書面はこの国にくる理由を経由地点とすることを記載した手紙かと。
ラウリーがこの公国で生きていることが解ればまた危険に晒される可能性がある。何としても目をそらし続ける必要があるのは明白。
我々は書面を持って王国に戻ります、事が終わるまでラウリーの元に戻ることは無いでしょう。
学院で起きたこと、全てを明らかにし王国から出るのに後ろ髪を引かれるようなやり残しが無いようにしてから公国の民になりたい。
本件、我がエトワール家はリュドヴィクティーク家に全面協力をお約束します」
妹を苦しめた存在が、今もまだ何処かの空間で笑っている。それだけは赦せなかった。
今公国に行き住んでも、第二のラウリーが生まれその家系の者が苦しみ涙する。
ランゼルの目は本気で、部屋に戻った時に合った視線のオズモンド、シャルロットも同じくであった。
エトワール家の滞在は二泊ととても短く、ジョニーはまだここにいたいとごねるほどだったが、やるべきことが明確になったことで帰ることに対する葛藤はほんの少しだけ薄れた。
帰る前、シャルロットはアウスに話をした。
幼い頃から笑顔が絶えぬとても優しくて愛らしい良い子なのです、がこの二日間。ラウリーの笑顔は一度も見れなかった。食事や出来る限りの時間を過ごして、あの子がどれ程の苦しみの中で生活していたのかを痛感しました。
食事はメイドが運ぶ具無しのスープとパンを半分が今のラウリーには限界なのだと聞いた時、お風呂へと促すと井戸の水を浴びに行こうとしてしまうと聞いた時。
そして何より服が靡いた時に見えた痛々しい拷問の痕に。
少しずつで構いません、あの子に人として生きていて良いのだと言い続けてください。
私たち伯爵家は王国で娘を陥れた者を白日の下に晒し、断罪することを誓います、
『あの子が貴方の番だと言うのならば守り抜いてください。あの子が笑顔を取り戻したら、私は…いえ違いますね、エトワール家は貴方を認めましょう』
エトワール家がラウリーに置いていったものはどれもラウリーの心に温かみを与えた。
アウスやメイドたちが見送る中でも動けずに部屋にいたラウリーは家族に貰った使用人たちからの寄せ書きや乳母が作ってくれた靴下、懐かしい匂いもある大切なものを抱え眠った。
ラムルはとても嬉しかった。
普段は少しの物音でも起きてしまうのに、安心する匂いに囲まれているからか起きる気配はなかった。
初めて見る気絶とは違う寝ている姿は見たかった姿の一つで、言葉に言い表すのも難しいほどに喜ばしかった。
アウスはエトワール家が帰路を辿り始めたことを確認してすぐ龍の姿へと姿を変えて飛び立ったまま当分は戻らないだろう。
アウスの持つ龍の力は凄いもので、龍の姿にも竜の姿にもなれる。
竜、といっても一時的にそこに留まる時などにしかならないが人間も併せ三形態近い変身は多くのものの心を踊らせる。
ラウリーと使用人達のみで過ごす時間を有意義に出来れば理想だな、とラムルは楽観視していた。
のにも関わらず、アウスが旅立って約一週間。
ラウリーの姿が公主邸から消えた。
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