そんなの、知らない 【夫人叢書①】

知れば、知られる

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言葉に外国人鈍りのない日本語だったから日本人だと思っていた。
それにマウロは特別なスイートルームを予約している。
ここは彼の部屋じゃないはずだ。
間違いだろうか？
混乱の思考回路を巡らすも、目の前にいる彼は少し緩やかにウェーブした黒髪に黒い瞳、くっきりした目鼻顔立ちの…何度かネットで探し当てた私の知るジーノ・マウロだった。言葉も出ず、ただただマウロを見つめる私をマウロも見つめる。マウロの表情はあいも変わらず余裕の微笑だ。そして一歩近づく。その一歩でお互いの距離に隙間がなくなる。
頬に手を添えられて顔を上に向けられる。
髪から滴る雫が頬に落ちる。
キスされると衝動的に力強く目を閉じた。
トントン。
扉を叩く音に、私もマウロも一瞬止まった。
「マウロ様、先程スタッフが入室いたしましたが問題はございませんか？」
廊下のスタッフの声が聞こえた。マウロはガウンを羽織り扉へと向かうが、侑梨の方が早く扉を開けた。あまりの勢いに外のスタッフが吃驚するが、失礼しますと告げ逃げるようにその場を去った。
足が震え、思うように歩けない。廊下がぐらぐらする。
この衝動はレイプされそうになったからか、マウロに会えたことか、もう訳がわからない。
エレベーターに乗り込み侑梨はしゃがみ込んだ。