そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知れば、知られる

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「顔色が悪いね。それに指先も冷たい」
動揺している間にも、マウロは無遠慮に触れてくる。
彼は先日の一瞬で、あの部屋に訪れたスタッフが
目の前にいる侑梨だと分かっているのだろうか?
「また僕の部屋に来たら暖めてあげるよ?」
マウロは侑梨の耳元で囁く。
体が凍りつく。あの時、私はマウロを叩いてしまった。 そして今回は何もされてないのに(否、されたけど)思いっきり睨んでしまった。
謝罪したいけど…人の目がある。ここで思わせぶりなことを言えば野次馬たちにエサを与えることになる。
「侑梨!」
突如、櫂さんが人の枠から飛び出した。
何を言っていいのか分からない状態だが、、それよりも周りの温度が一気に下がった。 
あれほど群がっていた野次馬たちが関わりたくないとばかりに去っていく。
「三島櫂。君は僕にとって天使なのか悪魔なのか分からないね」
野次馬にマウロも辟易していたようだ。
「マウロ・ジーノ。貴方は私にとって悪魔でしかありませんがね」
櫂さんは明らかな敵意を剥き出していた。
「彼女を離してもらえませんか?」
未だにマウロに抱きついた状態なのを思い出す。
香水が強く香る。
「彼女は君のモノなのかい?」 
マウロの腕に余計に力が入る。違う!櫂さん、私を助けなくていいの!離れようと力を込めるがびくともしない。
「ええ、私のです」
一瞬、聞き間違いかと思った。
動かせない身体から瞳だけを櫂さんに向けるが、彼とは
目が合わない。
彼はマウロから一刻も目を離してはいけないかとように睨みつける。けれどマウロは穏やかな顔のままだ。
こんなにも力の差を感じる戦いに侑梨は苛立ちを覚えた。
「離していただけませんか?」
冷たく言葉で突き放す。
マウロも意表を突かれたような表情をした。
女がすべて貴方を好きになるとか思わないで欲しい。
緩んだ腕を解き、シワを伸ばすようにドレスをわざとらしくはたき、櫂さんの方へゆっくりと向かう。
大体、この力の差も元は父の会社を買収したマウログループあってのことだ。元の土台が違うのに櫂さんに上から目線は腹が立つ。
「へぇ」
マウロはまだ微笑みを崩さない。
「でもユーリ。君は僕のものでもあるんだよ。僕のデザインしたそのドレスよく似合ってるよ」
高崎夫人の言葉を思い出す。
「彼は最高よ」「このドレスはシンデレラのガラスの靴」「パーティを楽しんで」
先ほどまで感謝していた高崎夫人への心が冷たく冷えていく。唇を噛み締め冷静になれと自分へ言い聞かす。
大丈夫。櫂さんはこのドレスを高崎夫人に借りたことを知っている。誤解されることはないはず。
小さく振り向くと落ち着いた瞳の彼がいた。
けれど、そこにマウロが口を開いた。
「そうそう。あの時のシーツに君の口紅がついてたんだ…ユーリ、快感を誤魔化すために咥えてたの?」
「なっ!」
声にならない叫びをあげた。
あの時のことを思い出し、一気に身体が赤くなる。
マロウは楽しそうに優雅に微笑む。
ハッと櫂さんの方を見るも彼を遮るように赤が遮った。
先程櫂さんと一緒にいた女性が、私と櫂さんの間に立っていたのだ。
女性は私を一瞥して、視線をマウロへ移した。
「今日はこちらの非礼をお許しください。けれど、近いうちに立場が逆転するかも知れませんわよ?」
行きましょうと、櫂さんに腕を絡める彼女に彼も従った。
「三島のパートナーの矢賀沙織は公私共のパートナーだと聞くよ?」
僕の部屋にくる?
マウロが微笑んだ。
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