そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知れば、戻れない

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まだマウロのことを知っている訳ではないが、
彼の笑顔ほど信用ならないものはない。
シーツのまま後ずさる。
「さすがに僕も、少々悪さが過ぎたからね」
本当だよ。と答え朝から赤ワインを注ぐ。
もうすぐお昼ではあるけれど。
そう言われると、今度は悪さの内容を知りたくなる。
顔に出ていたのか、マウロは何ともなしに答えた。
「君の服とバックを捨てて、それでも僕の車に乗らなかったから、数時間、雨の中歩き続ける君を放っていたのさ」
あの服やバックは高崎夫人ではなくマウロなの⁈
「女性と愉しんだ後、車で通りかかって君がずぶ濡れで雨の中捨てられている壊れた傘みたいになっててビックリしたよ」
微笑みながら語るマウロに悪びれる様子はない。きっとこの状態で車を止めてくれたことは奇跡に違いない。
「で、さすがにこれだけ弱ってる女性を抱くのは…ね」
ワインをもう一杯注ぐ。由梨にも勧めるが被りを振る。
さっき自分で言ったよね?熱があるからって。
「君が病人なのは理解しているんだけど、ずぶ濡れで、そのまま眠ったから化粧も髪も…」
マウロが苦笑する。
…それは…なんとなく…気付いてました。
全身がベタベタするし気持ち悪い。
でもお風呂に入る気力はない…
「だから僕が罪滅ぼしにお風呂に入れてあげるよ」
それはダメ。完全にダメ。
そう言っているのに、マウロは私を抱えてようとする。
私の抵抗なんてものともしない。
フロントに友人がいるから連絡するし、それなら最悪このままでいい。そう言っているのに意外と粘る。
「本当に何もしないよ。言っただろ?病人にこれ以上ひどいことはしないよ」
身体を見られることが十分、酷いことだとなぜわからないのか。
マウロとは話が通じない。
ダメだ。また気が遠くなりそうだ。 でもここで気を失えば間違いなく最悪な未来が訪れてしまう。
侑梨、どうにか踏ん張れ!
ふぅとため息をつきマウロが手を離した。
助かった…と思った、その矢先、 
「バカな子だね」  
頑ななユーリが悪いんだよ、とマウロは侑梨の唇を唇で塞いだ。
突然すぎて理解できない。どうしたらここでキスの流れになるのか。嫌だ!押しのけようと胸元を叩くが
びくともしない。
唇を舐められ、閉じたままにしていた唇を舌でこじ開けられ。口腔内に舌が入ってくる感触に鳥肌が立つ。
やっ、息ができない…
顔を固定され何度も啄む。
歯列をなぞられ、侑梨の舌を探し出し絡ませる。
唾液が混ざり合い、先ほどのワインの味が仄かに
感じますます羞恥心が加速した
んっ…と無意識に喘ぎ声がでる。
やだ、やだ、涙が流れるがマウロは無関心だ。
一度離れた時に呼吸を整えようとするが、
そこからまた深く絡ませられる。
意識が朦朧として…明らかに酸素が足りない。 
もがく腕も力が抜けて抵抗できない。
あっ…ん…

侑梨は意識を失った。
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