そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

文字の大きさ
37 / 160
足るを知らない、欲

x36

しおりを挟む
今日は楽しみにしていたスタバデートだった。
忙しい彼の時間は纏っては取れず、合間合間のように会って過ごしていた。
その都度、高そうなカフェやレストランを指定する櫂に今回は侑梨が提案した。
両親のいない侑梨はそれなりに節制して生きていた。
櫂は、お金持ちとの付き合いもある仕事だ。
2人のライフスタイルは違うのだ。
コーヒー一杯の値段が半分の侑梨のスタイルも受け入れてほしかった。大人の人は恥ずかしいのかな?と不安になる。…大丈夫…7年ぶりに出会ったのはチェーンコーヒー店だった。大丈夫。と自分を勇気付けながらのスタバデートだった。
最初は楽しかった。
けれど、侑梨の仕事が空気を変えた。
「夫人とマウロは懇意の仲だ」
櫂の不機嫌な理由だ。
「大丈夫よ。夫人の別宅でのお仕事だから会うことはないわ」
脚を組み、腕も組んで櫂の拒絶の態度は変わらない。
「マウロが来たら?」
「夫人は良い方よ。もし、ジーノに会わなければならないようなら夫人にお願いするわ…言いにくいけれど、以前セクハラされそうになったって…」
櫂にも全部は話していない。櫂には夫人のボタンを探しに行った際にセクハラをされたことしか話してはいない。それもマイルドに。
ジーノのことを心配するけれど、もう彼とはひと月以上会ってはいないし、予定もない。彼は絶対に私のことなんて忘れているレベルの、女性なら誰でも良さそうな人だ。
櫂が時計を見る。タイムリミットだ。
こんな話のまま別れたくはない。
それは櫂も同じだろう。
「お願いだ侑梨。それだけは受け入れたくない。それより…仕事より俺の家で一緒に暮らさないか?」
突然の言葉に真っ白な侑梨から目を逸らし、少し気恥ずかしそうにし、いい返事を期待してると告げ立ち去る。

…嬉しいけど…少しもやもやする。
彼の部屋で彼を待つのは幸せだ。今も合わせる時間が少ないのだから、侑梨が合わせる方が効率もいいし、恥ずかしいけれど…櫂と一緒に暮らしたいと思う。
けれど、侑梨は大丈夫だと言っているのに、聞く耳を持たない櫂に信用されてない気分になる。
櫂と一緒に暮らしながら、高崎邸で働いたらダメかな?
自分に都合よく考えてみた。
そこで気付く。
ジーノと夫人は懇意にしている。そこで私が働けば
何かあって櫂の会社の情報が私自身から流れるかもしれない。意図的にではないにしても、そうなれば大変なことになる。7年前に経験したのに自分のバカさ加減に落ち込む。
…櫂は多分、私を心配してくれて、あんなに怒ってたんだ…櫂自身が情報流出した自分を許せずにいる。
私に同じリスクを背をわせたくなかったのだろう。
7年前は父から離れたスタッフに裏切られたと思ったこともあった。けれど相手からしたら裏切ってたのは父だった。
櫂の仕事の役に立ちたいと思った。
けれどこれは邪魔でしかない。
「私、バカな子だね」
ジーノに何度か言われた言葉を呟く。
明日、夫人にお断りに行こう。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...