そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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足るを知らない、欲

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侑梨の言葉に残念そうな顔を向ける。
「そう…とても、とても残念だわ…」
夫人が子供みたいに感情を露わにする。
申し訳ないという気持ちでいっぱいだ。
夫人は悪くない、寧ろ助けて貰ってばかりだ。
今回も職に悩む侑梨に手を差し伸べてくれて、
侑梨はその手を取ったのに、
結果は突き放す形になってしまった。
「でも…偶にはここへ遊びに来てくれるのでしょう?」
夫人の言葉に侑梨は苦笑する。
それを感じとり、夫人は会話を変えた。
「貴方に似合いそうなお着物を仕立てたのよ。わたくしが着付けてあげる」
夫人の強引さに、いつも以上に断れない。
「振袖のような華やかなお着物ではなく、これは小紋というの」
夫人が広げる着物は深紫にグレーを足したような色合いで無地のシンプルな着物だった。
「鮫小紋という文様でちりめんの光沢が動く時、とても綺麗なの」
暗めの帯に右脇腹辺りに貝殻が刺繍されている。
着物に着替える以前の足袋でさえ緊張してきた。
ソックスとは違い、なんだか背筋が伸びる様だ。
髪も纏められ、真珠の付の簪を飾る。
「思った通り、素敵ね」
夫人が満足そうに見つめる。
鮫小紋、貝殻の刺繍、真珠と海繋がりだ!
閃いたという表情になってしまった。
夫人は微笑んで帯の貝柄に目を落とす。
「さぁ、今から貝合わせをしましょう」
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