そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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紛擾雑駁の了知

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私は櫂が好き。
だから、ジーノの為には動けない。
「私はそのパーティには行かないわ」
「行かなければ澤城企画との契約は無効よ」
ジーノの為にはきっと夫人が必要なはず。
夫人の螺子を探す。
「貴方しかジーノを助けられない‼︎」
「いいえ。わたくしは助けない」
侑梨の声は届かない。
「第一、貴方には喜ぶことだと思うのだけれど?澤城企画が奪われた地位を得る絶好のチャンス。わたくしが再びジーノを選べば澤城企画は再び窮地に立たされる」
──そうだ。櫂にとって絶好のチャンスだ。
「もし──貴方の望みの為にジーノを助けて、貴方は三島さんに言えるの?その裏切りを」
ペンギンに夫人が触れる。まるで囚われたみたいだ。
「彼は絶対に貴方を許せないわ。どんなに貴方を愛していても許せない。彼は凛子さんの呪いから抜け出せない」
「……母の?」
聞いてはいけないと、頭で警鐘が鳴っている。
櫂が侑梨に教えないこと。
きっと聞けば今のままではいられない。
そんな気がするのに止まらない。
「母と櫂になんの関係が?」
「アダムとイヴが楽園エデンを追い出された原因はイヴが林檎を食べたから。女はいつも魅惑的なものに弱い。貴方は後悔すると分かっていてもその林檎に手を出すのね」
夫人は微笑む。
どう言えばいいかしら?
夫人は困ったように首を傾げる。
「凛子さんの裏切りが澤城修司を自殺に追いやったからよ」
「凛子さんの娘、ジーノ、澤城企画、裏切り、すべての欠片が7年前と同じ場所に立てば櫂は貴方を許せない」
夫人の矢継ぎ早な説明について行けない。
母が父を自殺に追いやった?
「けれど、父が亡くなった時、母はもう亡くなっていたわ」
父の死の半年前だ。
「そう。貴方のお母様は不慮の事故で亡くなった。けれどその前から夫を子を裏切っていた。そして最後に夫の大事な会社まで大好きな彼に渡したの」
〈大好きな彼に…会社を渡した〉
身体中がゾクゾクする、頭の中に答えが出ているが、
答えたくない。
それを見越すように夫人がペンギンを優しく撫でる。
「そう。ジーノよ」
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