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紛擾雑駁の了知
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「彼と母が…?」
座り込んだままなんだか力が入らない。
「父は知っていたの?」
「そもそもの出会いは12年前、貴方はまだ10歳かしら?」
……そう。その頃から母は変わった…。
「澤城さんと妻の凛子さんは仲良い夫婦だった。まだ澤城さんの会社が創立されたばかりでよく営業を兼ねてパーティに出席していたわ。それよりも少し前にわたくしはジーノと知り合いパトロンの関係を築いていたの」
夫人に喜びや痛みも感じされない。
ただ、過去を語る。
「当時、ジーノは25歳、凛子さんは32歳。既婚者で子どもいるけれど、わたくしには分かったわ。この女はジーノに溺れるようになるって」
手が震える。怒りなのか恐怖なのか悲しみなのか。
「だから彼女に条件を出したの」
『ジーノに一度だけ抱かれれば、大きな仕事を澤城企画に用意してあげる』
「悩んだようだけど、当時の澤城企画は厳しかったわ。彼女は条件を受け入れた。あの当時の澤城企画がうなぎ登りに成長したのもあの足掛かりがあってこそ。澤城さんは知らなかったけれどね」
「けれど、凛子さんはその一度でジーノにどんどん溺れていった。夫も、子どもでさえ彼女には必要無くなった。彼女はひたすら彼に会えるパーティを待ちわびた。
その後、何度彼と関係を持ったかは知らないわ。ただ、彼女は彼に振り向いてほしい、愛してほしい──それが全てになった」
「澤城修司は彼女が他の男を愛していると気づいても離婚をしなかった。凛子さんを愛していたから他の男には渡したくなかった。相手がジーノだと知っていたかは知らないわ。ただ、その冷めた夫婦の関係を苦々しく思っている青年がいた。三島櫂ね」
あの頃の朗らかな櫂を思いだす。
「彼は澤城企画での澤城修司を尊敬していた。彼の憧れ。すべてだった。それなのに、彼の妻は彼に冷たく、無関心。彼は澤城修司がどんなに偉大で素晴らしい人間で、どんなに彼女を愛しているかを語った。そして──それを語る時に社外秘のプロジェクトも話した……三島櫂は凛子さんとジーノの関係を知らなかった。まして澤城修司の……社長の妻に話しても問題ないと判断した」
涙が出る。でも、泣いていられない。
最後まで聞こう。
侑梨が知らなかっただけで、事実は起こり7年の間、櫂は苦しんできたのだから。
「凛子さんはジーノにその情報を渡した。愛してほしい一心で。そして彼女は自動車事故で亡くなった。その情報流出は彼女が亡くなってから問題となり、結果澤城企画は莫大な違約金と信用の失墜、買収問題に発展したわ。そして澤城修司は知ってしまう。情報の出所が凛子さんだと」
涙が溢れる。
「澤城修司の死の本当の理由はわからないわ。ただ、彼は愛した人も会社もジーノに奪われたと思った」
──だから父は自殺した──
「それが本当なら……父を殺したのは夫人、貴方の遊びが原因ではないの?」
睨むように射抜く。
「わたくしはただ、貝合わせをして遊んだだけよ。凛子さんはジーノにピッタリだと思った。そして溺れた。
彼女は彼を愛したけれど、ジーノは凛子さんに惹かれながらも冷めていた。彼女の愛はジーノにとっては呪いでしかなかった」
「7年前に父が死んだ。母もジーノも櫂もみんな不幸になった。それでも貴方はまた同じ遊びを今繰り返している。このままではまた不幸になる!止めてよ!お願いだから……止めて!」
「わたくしは螺子を巻いただけ。あとは貴方たちが好きに動けばいいわ」
この人を止めれる人はいないのだろうか?
どうしたら……
「彼がマウロ家を切れば彼は助かるの?」
彼は侑梨が愛せばマウロ家を捨てるような口振りだった。
「もう止められないわ。わたくしはジーノを切らなければならないのだから」
夫人はジーノを切りたくないように語る。
「なぜ、ジーノと突然別れを?」
夫人は微笑み立ち上がった。
「わたくしにも大切なものがあるの」
夫人の1番大切なもの?
「そうね…貴方の大切なものは何かしら?
──ではこうしましょう?」
夫人が侑梨に近づく。
「もし、ジーノがクリスマスパーティまでにマウロ家を切ることができれば表立ってはできないけれど、これからも陰ながら支えるわ。勿論、三島櫂には秘密で」
……櫂に対する罪悪感でいっぱいだが、そんなことができるのなら是非お願いしたい。
「勿論。対価は頂くわ」
侑梨の髪を耳に掛け、その耳元に唇を近づける。
「貴方はわたくしが見つけたジーノの最高の合わせ貝」
背中がゾクリと震える。
「クリスマスパーティまでに貴方がジーノに抱かれることが条件よ。それがなければ、いくらマウロ家を切ってもわたくしはジーノを手離すわ」
座り込んだままなんだか力が入らない。
「父は知っていたの?」
「そもそもの出会いは12年前、貴方はまだ10歳かしら?」
……そう。その頃から母は変わった…。
「澤城さんと妻の凛子さんは仲良い夫婦だった。まだ澤城さんの会社が創立されたばかりでよく営業を兼ねてパーティに出席していたわ。それよりも少し前にわたくしはジーノと知り合いパトロンの関係を築いていたの」
夫人に喜びや痛みも感じされない。
ただ、過去を語る。
「当時、ジーノは25歳、凛子さんは32歳。既婚者で子どもいるけれど、わたくしには分かったわ。この女はジーノに溺れるようになるって」
手が震える。怒りなのか恐怖なのか悲しみなのか。
「だから彼女に条件を出したの」
『ジーノに一度だけ抱かれれば、大きな仕事を澤城企画に用意してあげる』
「悩んだようだけど、当時の澤城企画は厳しかったわ。彼女は条件を受け入れた。あの当時の澤城企画がうなぎ登りに成長したのもあの足掛かりがあってこそ。澤城さんは知らなかったけれどね」
「けれど、凛子さんはその一度でジーノにどんどん溺れていった。夫も、子どもでさえ彼女には必要無くなった。彼女はひたすら彼に会えるパーティを待ちわびた。
その後、何度彼と関係を持ったかは知らないわ。ただ、彼女は彼に振り向いてほしい、愛してほしい──それが全てになった」
「澤城修司は彼女が他の男を愛していると気づいても離婚をしなかった。凛子さんを愛していたから他の男には渡したくなかった。相手がジーノだと知っていたかは知らないわ。ただ、その冷めた夫婦の関係を苦々しく思っている青年がいた。三島櫂ね」
あの頃の朗らかな櫂を思いだす。
「彼は澤城企画での澤城修司を尊敬していた。彼の憧れ。すべてだった。それなのに、彼の妻は彼に冷たく、無関心。彼は澤城修司がどんなに偉大で素晴らしい人間で、どんなに彼女を愛しているかを語った。そして──それを語る時に社外秘のプロジェクトも話した……三島櫂は凛子さんとジーノの関係を知らなかった。まして澤城修司の……社長の妻に話しても問題ないと判断した」
涙が出る。でも、泣いていられない。
最後まで聞こう。
侑梨が知らなかっただけで、事実は起こり7年の間、櫂は苦しんできたのだから。
「凛子さんはジーノにその情報を渡した。愛してほしい一心で。そして彼女は自動車事故で亡くなった。その情報流出は彼女が亡くなってから問題となり、結果澤城企画は莫大な違約金と信用の失墜、買収問題に発展したわ。そして澤城修司は知ってしまう。情報の出所が凛子さんだと」
涙が溢れる。
「澤城修司の死の本当の理由はわからないわ。ただ、彼は愛した人も会社もジーノに奪われたと思った」
──だから父は自殺した──
「それが本当なら……父を殺したのは夫人、貴方の遊びが原因ではないの?」
睨むように射抜く。
「わたくしはただ、貝合わせをして遊んだだけよ。凛子さんはジーノにピッタリだと思った。そして溺れた。
彼女は彼を愛したけれど、ジーノは凛子さんに惹かれながらも冷めていた。彼女の愛はジーノにとっては呪いでしかなかった」
「7年前に父が死んだ。母もジーノも櫂もみんな不幸になった。それでも貴方はまた同じ遊びを今繰り返している。このままではまた不幸になる!止めてよ!お願いだから……止めて!」
「わたくしは螺子を巻いただけ。あとは貴方たちが好きに動けばいいわ」
この人を止めれる人はいないのだろうか?
どうしたら……
「彼がマウロ家を切れば彼は助かるの?」
彼は侑梨が愛せばマウロ家を捨てるような口振りだった。
「もう止められないわ。わたくしはジーノを切らなければならないのだから」
夫人はジーノを切りたくないように語る。
「なぜ、ジーノと突然別れを?」
夫人は微笑み立ち上がった。
「わたくしにも大切なものがあるの」
夫人の1番大切なもの?
「そうね…貴方の大切なものは何かしら?
──ではこうしましょう?」
夫人が侑梨に近づく。
「もし、ジーノがクリスマスパーティまでにマウロ家を切ることができれば表立ってはできないけれど、これからも陰ながら支えるわ。勿論、三島櫂には秘密で」
……櫂に対する罪悪感でいっぱいだが、そんなことができるのなら是非お願いしたい。
「勿論。対価は頂くわ」
侑梨の髪を耳に掛け、その耳元に唇を近づける。
「貴方はわたくしが見つけたジーノの最高の合わせ貝」
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