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あえかなる夜の知覚
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菖蒲邸には門松や国旗などが飾られている。
侑梨は今、ここで暮らしている。
携帯もあるし、監視されている訳でもない。
けれど、ここから出られない。
どこかで櫂に会うかもしれないと思うと怖くて出られない。携帯も電源を入れられない。
夫人は毎日のようにここへ来てくれる。
夫人の怖さを知っているはずなのに、どうしてか
嫌いという感情が湧かない。
嫌厭というよりも畏怖が近い。
それなのに、日々穏やかに接されると心を開きそうになる。
目の前には小さな七輪が個々に設けられ串に刺された蓬団子が焼かれ、焼き海苔と甘いお醤油も添えられ刷毛で塗るようになっている。
お抹茶の碗を持ち、お団子が焼けるのを待つ。
数日前のことが嘘なような静寂が侑梨を一層、
夫人に依存させる。
ここにいれば、何も考えなくてもいい。
本当はわかっている。
ここにいれば、いつか取り返しがつかなくなる。
「夫人は何故、私を置いてくれるのですか?」
ただ、愉しんでいるのはわかっているが、聞いてみたかった。
「わたくしは貴方を気に入っているのよ。いつだったかしら?貴方を私の側で育てたいと思ったことがあるの。
その夢が叶うのなら素敵ね」
だからいつまでもいて頂戴。と微笑む。
侑梨の何を気に入っているのだろうか?
夫人ほどの人なら数多の人や価値観を見てきただろうに──ジーノも数多の女性と関係を持っただろう。
侑梨と感覚の違う2人はきっと侑梨の悩みなど分からないかもしれない。
使用人の女性が夫人に耳打ちする。
「あら。無作法ね」
微笑む夫人が立ち上がる。
「所用が出来てしまったわ。今日はこれで失礼するわね」
ぼんやりと夫人を見つめている侑梨は、どこか母親に去られる子供のようだ。
「──貴方の1番の味方はわたくしよ。それを忘れないでね。愛しているわ」
夫人が去り、1人になれば思ってしまう。
──櫂は今どうしているだろう。
「侑梨様、友人と仰る方がお会いになりたいと訪ねていらっしゃいますがどう致しましょう?」
『様』はやめてほしい。
侑梨はただの居候だ。
友人?ここにいるのは誰も知らない筈だ。
「……どなたですか?」
「二条様です」
雪子がここへ?
どうして知っているのだろう。
会いたいが怖い。
侑梨は監禁されている訳でもないし、携帯もある。
侑梨から連絡がとりたければいつでも取れる。
けれど、そうしなかった。
……雪子は必死に探してくれたのかもしれない。
こんな薄情な侑梨を。
「会いたいです」
では、お待ちをと女性は下がる。
息が苦しい。雪子にでさえ会うのが怖い。
七輪のお団子がカラカラに乾燥していく。
まるで侑梨の様だ。
「侑梨」
雪子の悲しげな笑顔を見たら、なんだか涙がでた。
侑梨は今、ここで暮らしている。
携帯もあるし、監視されている訳でもない。
けれど、ここから出られない。
どこかで櫂に会うかもしれないと思うと怖くて出られない。携帯も電源を入れられない。
夫人は毎日のようにここへ来てくれる。
夫人の怖さを知っているはずなのに、どうしてか
嫌いという感情が湧かない。
嫌厭というよりも畏怖が近い。
それなのに、日々穏やかに接されると心を開きそうになる。
目の前には小さな七輪が個々に設けられ串に刺された蓬団子が焼かれ、焼き海苔と甘いお醤油も添えられ刷毛で塗るようになっている。
お抹茶の碗を持ち、お団子が焼けるのを待つ。
数日前のことが嘘なような静寂が侑梨を一層、
夫人に依存させる。
ここにいれば、何も考えなくてもいい。
本当はわかっている。
ここにいれば、いつか取り返しがつかなくなる。
「夫人は何故、私を置いてくれるのですか?」
ただ、愉しんでいるのはわかっているが、聞いてみたかった。
「わたくしは貴方を気に入っているのよ。いつだったかしら?貴方を私の側で育てたいと思ったことがあるの。
その夢が叶うのなら素敵ね」
だからいつまでもいて頂戴。と微笑む。
侑梨の何を気に入っているのだろうか?
夫人ほどの人なら数多の人や価値観を見てきただろうに──ジーノも数多の女性と関係を持っただろう。
侑梨と感覚の違う2人はきっと侑梨の悩みなど分からないかもしれない。
使用人の女性が夫人に耳打ちする。
「あら。無作法ね」
微笑む夫人が立ち上がる。
「所用が出来てしまったわ。今日はこれで失礼するわね」
ぼんやりと夫人を見つめている侑梨は、どこか母親に去られる子供のようだ。
「──貴方の1番の味方はわたくしよ。それを忘れないでね。愛しているわ」
夫人が去り、1人になれば思ってしまう。
──櫂は今どうしているだろう。
「侑梨様、友人と仰る方がお会いになりたいと訪ねていらっしゃいますがどう致しましょう?」
『様』はやめてほしい。
侑梨はただの居候だ。
友人?ここにいるのは誰も知らない筈だ。
「……どなたですか?」
「二条様です」
雪子がここへ?
どうして知っているのだろう。
会いたいが怖い。
侑梨は監禁されている訳でもないし、携帯もある。
侑梨から連絡がとりたければいつでも取れる。
けれど、そうしなかった。
……雪子は必死に探してくれたのかもしれない。
こんな薄情な侑梨を。
「会いたいです」
では、お待ちをと女性は下がる。
息が苦しい。雪子にでさえ会うのが怖い。
七輪のお団子がカラカラに乾燥していく。
まるで侑梨の様だ。
「侑梨」
雪子の悲しげな笑顔を見たら、なんだか涙がでた。
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