そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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未知と既知の其間

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『今から行く』
という櫂からのメールに驚き思わず開いた。
端的なそれだけの内容だった。
どうしたのだろう?
何があったのだろうか?
遂に侑梨を切るため踏ん切りをつけたいのだろうかと
狐疑してしまう。
だが続けて『愛している』とメールが来る。
本当は自分が櫂に会いに行かなければならないし、
そう伝えた。
返事もしないどころか、メールも開かない侑梨を待ってくれた。
そんな侑梨を迎えに来てくれる。
櫂に会いたい。
夫人に伝えよう。
櫂が迎えに来てくれたら、ここを去ろうと。
ジーノと比べるなんて絶対にない。
私は櫂が好きだし、ここを出ればジーノと会うことはなくなるだろう。


「そういう約束だったものね……」
櫂が迎えに来たら出ていく旨を伝えると、
夫人は寂しそうに承諾した。
「けれどお願い。わたくしはもうジーノとは縁を解消したの。だからここにいつでも帰ってきて?わたくしは貴方を娘の様に思っているのよ」
侑梨自身も夫人を理想の母の様に感じてしまっている。
「ありがとうございます」
「──でも心配だわ。三島さんが貴方を許すかしら?
ジーノに抱かれて悦びを知った貴方を」
夫人は性に対して侑梨の常識とは違う。
こんな言い方をするのは侑梨を蔑めたいさげしわけではないと思いたい。
「彼に抱かれてから……1人で?快楽を知った貴方の身体はもう一度、あの快楽を欲しているでしょう?」
夫人のこういう所は嫌いだ。
性に対しての常識が離れ過ぎている。
「──夫人。私は性的な話は苦手です。やめてください」
毅然と言わなければ。
夫人とは感覚が違いすぎる。
黙った夫人が侑梨にゆっくりと近づく。
後退りしたいが、なんだか動けない。
侑梨にゆっくりと抱きつく。
「本当に『苦手』かしら?」
なんだか夫人がなまめかしい。
「や」
侑梨のスキニーパンツの上から秘部を擦る。
「ヤダ!」
咄嗟に夫人を突き飛ばしてしまった。
呼吸が乱れ、軽いパニック状態だ。
「あら、残念──だけどジーノとの時は感じてたわよね?」
「彼の長い指が貴方の愛液で濡れてた」
……何を言ってるの?
「舌と舌を擦り合わせるようにキスをして……貴方はそれだけでイッてしまう」
なんなの?なんなのよ?
「貴方の脚が彼の肩にかけられて揺れているあの姿……後ろから奥を突かれながら同時に乳首を責められた時の貴方の表情──興奮したわ」
夫人が微笑む。
悪夢のような……夢であって欲しいと全力で願う。
「あの部屋、カメラがあるのよ」
身体に力が入らず、思わずしゃがみ込む。
「万が一、三島さんが貴方の言葉を信じ貴方を許してもあの映像を見たら……」
「やめて‼︎ お願いだから‼︎」
夫人は困ったように微笑む。
目の前が真っ暗だ。
「消して……お願い……」
土下座をするように頭を下げる。
「ごめんなさい。あのデータはジーノに預けてしまったの」
彼も貴方に会えない間寂しいかと思って。
それに……彼も1人で時に必要でしょう?
と夫人が微笑む。
なんなのこの人。
生きている世界が違いすぎる。
泣いている場合ではない。
データを早く処分しなければ──
「ジーノは今、どこにいるの?」
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