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第一章 王子への転生と冒険者修行
第3話 魔法の手ほどき(雑)
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こちらの世界に生まれ変わって、だいたい二ヶ月位たったかな?
目は開いたけれど、まだボンヤリと見えている感じだ。
言葉はまだ話せなくて、『うー』とか『あー』しか言えない。
たぶん口の周りの筋肉や発声する器官が成長出来ていないのだろう。
まあ、生後二か月の赤ん坊では止むなしだ。
「アンジェロ王子様、お話を読みますね~」
俺の世話をする侍女だ。
ベビーベッドで横になる俺の隣に座り、絵本を読み聞かせ始めた。
悪いけど、その絵本はもう何度も聞かされて飽きてしまったよ。
「むかーし、むかし、ある所に~、きれいなお姫様がいました~」
はいはい……。
まあ、でも、女神ミネルヴァ様が言葉を分かるようにしてくれて大助かりだ。
周りの人間の話しを聞く事で、情報収集がかなり進んだ。
ここには、結構人が来る。
『王子様のご尊顔を拝見いたしたく』
とか言ってさ。
俺の名前は、アンジェロになった。
フリージア王国と言う国の王子様に転生したらしい。
アンジェロ・フリージアが、転生した俺の新しい名前だ。
四月一日生まれの男の子だ。
「王子様、ちょっと隣の部屋に行って来ますね~」
侍女は事あるごとに俺を子ども扱いする。
確かに俺は赤ん坊の格好をしているけど、中身は二十二才の大人なんだよなぁ。
幼児プレイの趣味はないので、まったく嬉しくない。
ふて寝するか。
『巧良輔。起きているか?』
む? この感じ! 言葉が心に直接響くこの感じは、女神ミネルヴァ様!
おお! ベッドサイドに黄金のフクロウがいる。
生まれてすぐの時に魔力を貰って以来だから二か月ぶりだな。
『ミネルヴァ様ですね! どうも! お久しぶりです!』
『うむ。元気そうだな』
『はい。元気です。そうそう、この世界での名前が決まりました。アンジェロです。アンジェロ・フリージアになりました』
『うむ。良き名だな。では、アンジェロ・フリージアよ。体内を駆け巡る魔力の流れは感じられるようになったかな?』
女神ミネルヴァ様からの課題『体内の魔力の流れを感じる』。
こればっかりやっていたよ。
何せ暇だからね。
出歩く事も出来ないし。
『はい。わかるようになりました。熱いお茶を飲むと喉を熱い物が通過して行くのがわかりますよね。あれに近い感じですよね?』
『ほう、その感じを掴んだか。なかなか筋が良いぞ。全身わかるか? 指先までわかるか?』
『わかります! わかります! 意識を集中すると全身に熱い物が流れている感覚があります! 足の指の先まで感じます!』
『よろしい。では、何か魔法を教えよう。とは言え君は……、まだ赤子だからな……。火炎放射とか戦闘系の魔法はまずいよな……。氷結地獄……。いやいや、城が凍るな……。うーむ……』
一体どんな魔法を教えるつもりなんですかね!
火炎魔法で激しく戦うベイビーとか、ちょっと遠慮したいわ。
城を壊すような魔法も遠慮したい。
こちらの希望としては……。
『何か移動する魔法はありませんか?』
『移動?』
『このベビーベッドにおしめを付けて一日中横になっているんですよ! もう、うんざりです! 外に出歩きたいですが、まだ立つ事が出来ないので、もう不便で、不便で、仕方がありません』
『なるほど。それで移動できる魔法が希望なのだな。よろしい。それでは、飛行の魔法を教えよう』
『お願いします!』
やった! これでベッド生活から脱出できる!
『飛行の魔法は簡単だぞ。体内の魔力を下に吹き付けるのだ。それで体が浮く』
『……説明それだけですか?』
『……簡単だろう?』
すんげー大雑把な教え方だな。
まあ、理屈っぽい教え方やバーッとみたいな超感覚派よりも良いけど。
ホントに女神ズは大丈夫なのか?
この世界の行く末が不安だな。
じゃあ、やってみますか。
魔力を下に……。
ンゴーーーーーーーーーーーーーー!
ゴン!
『うお! 痛い! て、天井にぶつかったじゃないですか!』
『気を付けろ! 一気に魔力を放出するな! 魔力のコントロールがキモだ!』
先に言ってくれよ!
ジェットエンジンのイメージで魔力を放出しちまったじゃないか!
『か、体が痛い……』
『まったく、まだ首も座っていないじゃないか。ほら、回復魔法をかけておくぞ』
『あ、ありがとうございます』
あー、体の痛みが引いた。
じゃあ、もう一回だ。
今度は……、ドライヤー弱位から始めてみるか。
ブオーーーーーー!
おっ! 体が少し浮いた!
もうちょい強目か。
じゃあ、ドライヤー強位で魔力放出!
ブオオーーーーーーーーー!
おお! 浮いた! 大人目線くらいの高さになったぞ!
『なかなかうまいぞ! アンジェロ!』
『これ楽しいですね♪』
放出する魔力を強くしたり弱くしたりする事で、上下に動ける。
遊園地のアトラクションみたいで楽しい!
『じゃあ、その状態から移動するぞ。下に魔力を吹きつけた状態のまま横方向にも魔力を放出しろ』
『2方向ですね。ちょっと難しいな……、こうかな?』
ブオオーーーーーーーーー!
ブオーーーーーーン! オーン! オーン!
『うまいぞ! そうだ! 部屋の中を一周してみろ。そうそう! そうだ!』
『ハハ! これ楽しい!』
『おっと! 誰か来た! では、またな、アンジェロ』
『えっ!? ああ、またです! ありがとうございました!』
「きゃああああー! 王子様が! 王子様が! 宙に浮いている!」
あ、侍女が戻って来た!
まあ、いいや。
ドアが開いているからお散歩……っと。
「誰か~! 誰か~! 王子様が空を飛んでいます~!」
「何を騒いで……、えっ!? えええええええええええ!?」
いやあ~大騒ぎになっているな~。
愉快! 愉快!
「何事ですか!」
「王子様が空を飛んで……」
「えぇ? あれ~ええええ!? うーん……」
なんか女官長がぶっ倒れていたな。
いつも威張っているから良い気味だな。
まあ、生後二か月の赤ん坊が空を飛んでいたら驚くわな。
じゃあ、ここからは鬼ごっこタイムで。
皆さん僕と遊んで下さいね~。
ブオオーーーーーーーーー!
「王子様! お待ちください!」
「アンジェロ様お待ちを~」
何か凄い人数が追いかけて来ているぞ。
さあ、逃げろ、逃げろ!
ブオオーーーーーーーーー!
「アンジェロ様~! そちらはいけません!」
「そちらは謁見の間です! ダメです~!」
「国王陛下と重臣の皆様方が会議を……、あー!」
えっ? 何? 会議?
あ……まずかったかな……。
何か偉そうな人ばっかりの部屋に入っちゃったな。
「なっ!」
「こ! これは!」
「赤ん坊が空を飛んでいる!」
ははは。偉いさんたちも驚いているね。
クルクル回って見せますか!
「一体どうなっておるのか!」
「はい! アンジェロ王子様が突然空を飛び始めまして、慌てて追いかけましたのですが追いつけず……」
「謁見の間はダメだと申し上げたのですが……」
「赤ん坊にわかる訳がないであろう!」
あら? 侍女達が怒られ出したね。
それはちょっと気の毒だ。
じゃあ、王様の所に着地して終わりにしますか。
赤ん坊が王様に会いに来たと言う事で丸く収まらないかな。
「国王陛下! アンジェロ王子様が!」
「おお! 父王様にお会いに来られたのか!」
王様の膝の上に着地成功!
ここで赤ちゃんスマイル!
許して貰えないかな?
「ダー! ダー!」
「うむ。アンジェロ、父であるぞ。父は王としての務めの最中じゃ。ここに来てはならんぞ」
「ダー!」
「うむ、うむ。良い子じゃ!」
どうやら大丈夫そうだな。
「あり得ない……、あり得ない……、あり得ない……」
「む? 宮廷魔導士よ。いかがいたした? 何をブツブツと……、アンジェロに何かあったか? 申してみよ」
「お、恐れながら申し上げます。ただいまアンジェロ王子様は飛行の魔法をお使いになっておりました。その証拠にアンジェロ王子様から膨大な魔力の放出を感知いたしました」
「そう……、そうであるな……、信じがたい事ではあるが……」
「あり得ません! あり得ませんぞ! 飛行魔法は非常に高度な魔法です。飛行魔法の使い手は、この世に数えるほどしかおりません。その飛行魔法を使って赤ん坊が父親に会いに来るなど……」
え? そうなの?
俺は女神ミネルヴァ様に教わってすぐ使えたけど……。
あ! 俺の魔力量が普通の人よりバカみたいに多いからか……。
「む! むうう……。確かにのう。そちは? 飛行魔法は?」
「無理です。飛行魔法は使えません」
「……すると、アンジェロの魔法の才は?」
「私など足元にも及ばぬ程です。恐らくは……、ああ……、歴史に名を残す偉大な魔法使いになりましょう……」
「そうか! それは喜ばしいの!」
「ああ! ああ! それに比べて私は! なんとちっぽけな! なんと才能のない魔法使いである事か!」
「いや! そちは優秀な魔法使いであるぞ! 余はそちを頼って……」
「辞めます!」
「え!?」
「自信がなくなりました。辞めさせて下さい! ふうううううううう……」
「ああ! これ! 待つのじゃ! 誰か宮廷魔導士を止めよ! 止めよ!」
あ……やっちまったかもしれない。
すまぬ……。すまぬ……。
*
フリージア王国では、王子アンジェロが飛行魔法で王宮を飛び回った事が大騒ぎになった。
夜になり、アンジェロの父であるフリージア王国国王レッドボット三世は、重臣のエノー伯爵を私室に呼び寄せた。
「いかがであったか? 宮廷魔導士は?」
「はい……。それが私邸に書き置きがございまして……」
「書き置き?」
「は……。書き置きには、『魔導士として自信がなくなりました。旅に出ます。探さないで下さい』とございまして……」
「うーん……」
レッドボット三世は、頭を抱えてしまった。
宮廷魔導士は、魔法使いの中でも一握りのエリートだけがなれる。
普通の魔法使いよりも上、と言う意味で敬意を込めて『魔導士』と呼ばれる。
平時は王族や大貴族に魔法の手ほどきをし、戦となれば魔法使いを束ね戦場で攻撃魔法や回復魔法を行使する。
優秀な魔法使いは気位も高く、高額な支度金も用意せねばならない。
気軽に『はい、次!』と宮廷魔導士を雇える訳ではないのだ。
「やむを得ん。代わりの宮廷魔導士をすぐに探そう。手配をいたせ」
「しかし、あのアンジェロ様に魔法の手ほどきをするとなると……、相当の……」
「手練れでなければ務まらんな……。金がかかってもかまわん」
「ははっ」
「しかし……」
「は?」
「アンジェロは……、次の王には……、なれんよな?」
「それは……難しいかと……」
「そうさの。第三王子だものな……」
フリージア王国は長子相続のお国柄である。
アンジェロに王位継承権はあれど、第三王子。
何らかの理由で第一王子、第二王子が王位を継げなくなった時のみ王位につく事が出来る立場であった。
「おしい! おしいのう! アンジェロの魔法の才は歴史に名を残す程と言うではないか! 三人いる息子の中では一番才がある!」
エノー伯爵はジッと黙って国王レッドボット三世の様子をうかがっていた。
(これはまずい……)
エノー伯爵は外交を担当する貴族で、隣国ニアランド王国と懇意にしている。
第一王子――アンジェロの異母兄――の母親は隣国ニアランド王国の王族出身で、エノー伯爵は第一王子の後ろ盾になっていた。
エノー伯爵はおもむろに威圧するように話し出した。
「国王陛下、王位継承は第一王子になさりませ。長子継承がこの国、フリージア王国のならわしでございますぞ」
「む……、むう」
「それに第一王子は隣国ニアランド王国の血を引いております。アンジェロ様は……、憚りながら申し上げますがお母上様が平民のご出身……。アンジェロ様が王位を継いでは、ニアランド王国が黙っておりますまい」
「うーん……」
「それにまだアンジェロ様は、生まれて二か月の赤ん坊です」
「そ、そうじゃの。王位をどうこう言うには早すぎるの」
「ご賢察恐れ入ります、陛下」
エノー伯爵は深く頭を下げニヤリと笑った。
国王レッドボット三世に、その笑みは見えなかった。
目は開いたけれど、まだボンヤリと見えている感じだ。
言葉はまだ話せなくて、『うー』とか『あー』しか言えない。
たぶん口の周りの筋肉や発声する器官が成長出来ていないのだろう。
まあ、生後二か月の赤ん坊では止むなしだ。
「アンジェロ王子様、お話を読みますね~」
俺の世話をする侍女だ。
ベビーベッドで横になる俺の隣に座り、絵本を読み聞かせ始めた。
悪いけど、その絵本はもう何度も聞かされて飽きてしまったよ。
「むかーし、むかし、ある所に~、きれいなお姫様がいました~」
はいはい……。
まあ、でも、女神ミネルヴァ様が言葉を分かるようにしてくれて大助かりだ。
周りの人間の話しを聞く事で、情報収集がかなり進んだ。
ここには、結構人が来る。
『王子様のご尊顔を拝見いたしたく』
とか言ってさ。
俺の名前は、アンジェロになった。
フリージア王国と言う国の王子様に転生したらしい。
アンジェロ・フリージアが、転生した俺の新しい名前だ。
四月一日生まれの男の子だ。
「王子様、ちょっと隣の部屋に行って来ますね~」
侍女は事あるごとに俺を子ども扱いする。
確かに俺は赤ん坊の格好をしているけど、中身は二十二才の大人なんだよなぁ。
幼児プレイの趣味はないので、まったく嬉しくない。
ふて寝するか。
『巧良輔。起きているか?』
む? この感じ! 言葉が心に直接響くこの感じは、女神ミネルヴァ様!
おお! ベッドサイドに黄金のフクロウがいる。
生まれてすぐの時に魔力を貰って以来だから二か月ぶりだな。
『ミネルヴァ様ですね! どうも! お久しぶりです!』
『うむ。元気そうだな』
『はい。元気です。そうそう、この世界での名前が決まりました。アンジェロです。アンジェロ・フリージアになりました』
『うむ。良き名だな。では、アンジェロ・フリージアよ。体内を駆け巡る魔力の流れは感じられるようになったかな?』
女神ミネルヴァ様からの課題『体内の魔力の流れを感じる』。
こればっかりやっていたよ。
何せ暇だからね。
出歩く事も出来ないし。
『はい。わかるようになりました。熱いお茶を飲むと喉を熱い物が通過して行くのがわかりますよね。あれに近い感じですよね?』
『ほう、その感じを掴んだか。なかなか筋が良いぞ。全身わかるか? 指先までわかるか?』
『わかります! わかります! 意識を集中すると全身に熱い物が流れている感覚があります! 足の指の先まで感じます!』
『よろしい。では、何か魔法を教えよう。とは言え君は……、まだ赤子だからな……。火炎放射とか戦闘系の魔法はまずいよな……。氷結地獄……。いやいや、城が凍るな……。うーむ……』
一体どんな魔法を教えるつもりなんですかね!
火炎魔法で激しく戦うベイビーとか、ちょっと遠慮したいわ。
城を壊すような魔法も遠慮したい。
こちらの希望としては……。
『何か移動する魔法はありませんか?』
『移動?』
『このベビーベッドにおしめを付けて一日中横になっているんですよ! もう、うんざりです! 外に出歩きたいですが、まだ立つ事が出来ないので、もう不便で、不便で、仕方がありません』
『なるほど。それで移動できる魔法が希望なのだな。よろしい。それでは、飛行の魔法を教えよう』
『お願いします!』
やった! これでベッド生活から脱出できる!
『飛行の魔法は簡単だぞ。体内の魔力を下に吹き付けるのだ。それで体が浮く』
『……説明それだけですか?』
『……簡単だろう?』
すんげー大雑把な教え方だな。
まあ、理屈っぽい教え方やバーッとみたいな超感覚派よりも良いけど。
ホントに女神ズは大丈夫なのか?
この世界の行く末が不安だな。
じゃあ、やってみますか。
魔力を下に……。
ンゴーーーーーーーーーーーーーー!
ゴン!
『うお! 痛い! て、天井にぶつかったじゃないですか!』
『気を付けろ! 一気に魔力を放出するな! 魔力のコントロールがキモだ!』
先に言ってくれよ!
ジェットエンジンのイメージで魔力を放出しちまったじゃないか!
『か、体が痛い……』
『まったく、まだ首も座っていないじゃないか。ほら、回復魔法をかけておくぞ』
『あ、ありがとうございます』
あー、体の痛みが引いた。
じゃあ、もう一回だ。
今度は……、ドライヤー弱位から始めてみるか。
ブオーーーーーー!
おっ! 体が少し浮いた!
もうちょい強目か。
じゃあ、ドライヤー強位で魔力放出!
ブオオーーーーーーーーー!
おお! 浮いた! 大人目線くらいの高さになったぞ!
『なかなかうまいぞ! アンジェロ!』
『これ楽しいですね♪』
放出する魔力を強くしたり弱くしたりする事で、上下に動ける。
遊園地のアトラクションみたいで楽しい!
『じゃあ、その状態から移動するぞ。下に魔力を吹きつけた状態のまま横方向にも魔力を放出しろ』
『2方向ですね。ちょっと難しいな……、こうかな?』
ブオオーーーーーーーーー!
ブオーーーーーーン! オーン! オーン!
『うまいぞ! そうだ! 部屋の中を一周してみろ。そうそう! そうだ!』
『ハハ! これ楽しい!』
『おっと! 誰か来た! では、またな、アンジェロ』
『えっ!? ああ、またです! ありがとうございました!』
「きゃああああー! 王子様が! 王子様が! 宙に浮いている!」
あ、侍女が戻って来た!
まあ、いいや。
ドアが開いているからお散歩……っと。
「誰か~! 誰か~! 王子様が空を飛んでいます~!」
「何を騒いで……、えっ!? えええええええええええ!?」
いやあ~大騒ぎになっているな~。
愉快! 愉快!
「何事ですか!」
「王子様が空を飛んで……」
「えぇ? あれ~ええええ!? うーん……」
なんか女官長がぶっ倒れていたな。
いつも威張っているから良い気味だな。
まあ、生後二か月の赤ん坊が空を飛んでいたら驚くわな。
じゃあ、ここからは鬼ごっこタイムで。
皆さん僕と遊んで下さいね~。
ブオオーーーーーーーーー!
「王子様! お待ちください!」
「アンジェロ様お待ちを~」
何か凄い人数が追いかけて来ているぞ。
さあ、逃げろ、逃げろ!
ブオオーーーーーーーーー!
「アンジェロ様~! そちらはいけません!」
「そちらは謁見の間です! ダメです~!」
「国王陛下と重臣の皆様方が会議を……、あー!」
えっ? 何? 会議?
あ……まずかったかな……。
何か偉そうな人ばっかりの部屋に入っちゃったな。
「なっ!」
「こ! これは!」
「赤ん坊が空を飛んでいる!」
ははは。偉いさんたちも驚いているね。
クルクル回って見せますか!
「一体どうなっておるのか!」
「はい! アンジェロ王子様が突然空を飛び始めまして、慌てて追いかけましたのですが追いつけず……」
「謁見の間はダメだと申し上げたのですが……」
「赤ん坊にわかる訳がないであろう!」
あら? 侍女達が怒られ出したね。
それはちょっと気の毒だ。
じゃあ、王様の所に着地して終わりにしますか。
赤ん坊が王様に会いに来たと言う事で丸く収まらないかな。
「国王陛下! アンジェロ王子様が!」
「おお! 父王様にお会いに来られたのか!」
王様の膝の上に着地成功!
ここで赤ちゃんスマイル!
許して貰えないかな?
「ダー! ダー!」
「うむ。アンジェロ、父であるぞ。父は王としての務めの最中じゃ。ここに来てはならんぞ」
「ダー!」
「うむ、うむ。良い子じゃ!」
どうやら大丈夫そうだな。
「あり得ない……、あり得ない……、あり得ない……」
「む? 宮廷魔導士よ。いかがいたした? 何をブツブツと……、アンジェロに何かあったか? 申してみよ」
「お、恐れながら申し上げます。ただいまアンジェロ王子様は飛行の魔法をお使いになっておりました。その証拠にアンジェロ王子様から膨大な魔力の放出を感知いたしました」
「そう……、そうであるな……、信じがたい事ではあるが……」
「あり得ません! あり得ませんぞ! 飛行魔法は非常に高度な魔法です。飛行魔法の使い手は、この世に数えるほどしかおりません。その飛行魔法を使って赤ん坊が父親に会いに来るなど……」
え? そうなの?
俺は女神ミネルヴァ様に教わってすぐ使えたけど……。
あ! 俺の魔力量が普通の人よりバカみたいに多いからか……。
「む! むうう……。確かにのう。そちは? 飛行魔法は?」
「無理です。飛行魔法は使えません」
「……すると、アンジェロの魔法の才は?」
「私など足元にも及ばぬ程です。恐らくは……、ああ……、歴史に名を残す偉大な魔法使いになりましょう……」
「そうか! それは喜ばしいの!」
「ああ! ああ! それに比べて私は! なんとちっぽけな! なんと才能のない魔法使いである事か!」
「いや! そちは優秀な魔法使いであるぞ! 余はそちを頼って……」
「辞めます!」
「え!?」
「自信がなくなりました。辞めさせて下さい! ふうううううううう……」
「ああ! これ! 待つのじゃ! 誰か宮廷魔導士を止めよ! 止めよ!」
あ……やっちまったかもしれない。
すまぬ……。すまぬ……。
*
フリージア王国では、王子アンジェロが飛行魔法で王宮を飛び回った事が大騒ぎになった。
夜になり、アンジェロの父であるフリージア王国国王レッドボット三世は、重臣のエノー伯爵を私室に呼び寄せた。
「いかがであったか? 宮廷魔導士は?」
「はい……。それが私邸に書き置きがございまして……」
「書き置き?」
「は……。書き置きには、『魔導士として自信がなくなりました。旅に出ます。探さないで下さい』とございまして……」
「うーん……」
レッドボット三世は、頭を抱えてしまった。
宮廷魔導士は、魔法使いの中でも一握りのエリートだけがなれる。
普通の魔法使いよりも上、と言う意味で敬意を込めて『魔導士』と呼ばれる。
平時は王族や大貴族に魔法の手ほどきをし、戦となれば魔法使いを束ね戦場で攻撃魔法や回復魔法を行使する。
優秀な魔法使いは気位も高く、高額な支度金も用意せねばならない。
気軽に『はい、次!』と宮廷魔導士を雇える訳ではないのだ。
「やむを得ん。代わりの宮廷魔導士をすぐに探そう。手配をいたせ」
「しかし、あのアンジェロ様に魔法の手ほどきをするとなると……、相当の……」
「手練れでなければ務まらんな……。金がかかってもかまわん」
「ははっ」
「しかし……」
「は?」
「アンジェロは……、次の王には……、なれんよな?」
「それは……難しいかと……」
「そうさの。第三王子だものな……」
フリージア王国は長子相続のお国柄である。
アンジェロに王位継承権はあれど、第三王子。
何らかの理由で第一王子、第二王子が王位を継げなくなった時のみ王位につく事が出来る立場であった。
「おしい! おしいのう! アンジェロの魔法の才は歴史に名を残す程と言うではないか! 三人いる息子の中では一番才がある!」
エノー伯爵はジッと黙って国王レッドボット三世の様子をうかがっていた。
(これはまずい……)
エノー伯爵は外交を担当する貴族で、隣国ニアランド王国と懇意にしている。
第一王子――アンジェロの異母兄――の母親は隣国ニアランド王国の王族出身で、エノー伯爵は第一王子の後ろ盾になっていた。
エノー伯爵はおもむろに威圧するように話し出した。
「国王陛下、王位継承は第一王子になさりませ。長子継承がこの国、フリージア王国のならわしでございますぞ」
「む……、むう」
「それに第一王子は隣国ニアランド王国の血を引いております。アンジェロ様は……、憚りながら申し上げますがお母上様が平民のご出身……。アンジェロ様が王位を継いでは、ニアランド王国が黙っておりますまい」
「うーん……」
「それにまだアンジェロ様は、生まれて二か月の赤ん坊です」
「そ、そうじゃの。王位をどうこう言うには早すぎるの」
「ご賢察恐れ入ります、陛下」
エノー伯爵は深く頭を下げニヤリと笑った。
国王レッドボット三世に、その笑みは見えなかった。
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*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
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ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
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