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第五章 メロビクス戦争
第74話 エルフ奪還作戦
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転移魔法でメロビクス王大国の王領まで移動した。
時間は、夜の九時頃。
この世界は電灯が無いせいか、みんな早寝早起きだ。
移動した先は王領の街外れだが、しんと静まり返っている。
言葉は発さずにハンドサインで指示を送る。
『サラ、ボイチェフ、キューは、辺りを警戒』
『『『了解!』』』
獣人は夜目が効くし、人族より耳が良い。
見張りは三人に任せれば、間違いないだろう。
大きな木のそばで、潜入している工作員を待つ。
今日は三日月なので、ほどよい暗さが俺たちを闇に隠してくれる。
突然後ろから小声が発せられた。
合言葉だ。
「……ミーと」
いつの間にか工作員が俺たちの後ろに来ていたらしい。
獣人三人が見張っていた筈だが……。見張りをすり抜けたのか。凄腕だ。
じいが小声で合言葉を返す。
「……コウモン」
工作員の顔はよく見えない。
夜の暗さのせいなのか……。
いや、微弱に魔力の発動を感じる。
何か魔道具か魔法を使って、顔を見えづらくしているのだろう。
顔のわからない工作員は、声の感じから恐らく女だ。
低い小さな声で話を続けた。
「……お待ちしておりました。……既に手筈は整っております。……ご移動をお願いします」
俺は街の中に入った事がないので、ここから先は転移魔法が使えない。
俺たちは、静かに徒歩で移動を開始した。
工作員は裏道や人気の無い農道を、まったく足音を立てずに素早く歩く。
俺たちも、そっと音を立てないように後に続く。
緊張して足音に気を付けているせいか、時間の経過まで気が回らない。
二十分? いや三十分は歩いただろうか?
俺たちは一本の路地で立ち止まった。
路地から顔を出すと大きな屋敷が見えた。
工作員がそっと囁く。
「……あの屋敷にエルフ達が捕らわれています」
「デカいな……」
これから潜入するのは、豪奢な貴族屋敷だ。
魔法で作ったと思われる高い石壁に囲まれ、太い門柱の前に金属鎧を着た門番が二人立っている。
「ハジメ・マツバヤシの屋敷です」
「報告は聞いている。ハジメ・マツバヤシは?」
「不在です。近習を伴って、メロビクス王大国軍に従軍しています」
「よしっ!」
後ろからルーナ先生が聞いて来た。
「アンジェロ。どうする? 門を爆破するか?」
ルーナ先生は過激だ。
というより暴れたいのだろうな。
だけれども今回は隠密作戦で行こうと思っているし、その為の段取りも組んである。
「大丈夫です。しばらく待てば中から門が開きます」
「門が開く? 門番がいるが?」
「彼らも、いなくなります」
「んん? どういう事だ?」
「まあ、もう少し待って下さい。ほら、門番の様子を見て下さい」
「門番……。何かモジモジしている」
首をかしげるルーナ先生の横で、俺とじいは顔を見合わせてニヤニヤした。
二人の門番は落ち着きなく足踏みをしたり、腹を抑えたりしている。
俺たちは、そんな門番の様子を路地裏からジッと覗き見た。
やがて二人の門番が苦しそうに声を上げた。
「だ……、ダメだ! もう、無理! 我慢できない! おい! 後は頼む!」
「ふ、ふざけるな! 俺だって我慢しているんだ! いや……、もう限界だ!」
「あわわわ! あ、あとは任せた!」
「し、知るか! 俺が先だ!」
門番二人は、大慌てで屋敷の中に消えて行った。
白狼族のサラが俺の頭の上から不思議そうに顔をのぞかせた。
「あいつら一体どうしたんだ?」
「ふふ。ちょっと細工をね!」
「じゃあ、行くか? 門をボイチェフに壊させるか?」
「まあ、もうちょっと待って」
路地裏で十分くらい待っていると、屋敷から太った男が出て来た。
屋敷に料理人として潜入した工作員だ。
料理人は門を開き手招きをしている。
「ほら! 開いた! 行くよ!」
俺たちは門へ駆け出した。
門の所で工作員の料理人と合流する。
「ミーと!」
「コウモン!」
この合言葉どうにかならないかな。
「お待たせしました! ご案内いたします!」
エルフ奴隷が監禁されている場所へと料理人が案内を始めた。
屋敷の中ではそこかしこから唸り声が聞こえる。
「これは一体どうした事だ?」
ルーナ先生が料理人に歩きながら聞いた。
料理人はポケットから茶色い草を取り出した。
「この煮汁を晩ご飯のスープに混ぜておきました」
「それは……マンブリ草か!?」
「はい。マンブリ草です。ご存知の通りマンブリ草の煮汁は、お通じが悪い時に飲む薬でございます。しかし、量が多くなりますと……」
「腹を下す。マンブリの呪い」
「その通りでございます。今やこの屋敷の人間はマンブリの呪いで身動きがとれません」
そう。あちこちから聞こえる唸り声は、腹痛にもだえ苦しむ声なのだ。
きっとこの屋敷のトイレは、ラッシュアワー状態だろう。
「アンジェロは悪辣。この屋敷の人たちに、ちょっと同情する」
「頭脳の勝利と言って欲しいですね」
「あ。でも、一人騎士がいる」
腹を抑えヨロヨロと廊下を歩く騎士が現れた。
上半身は金属鎧なのに、下は布製のズボンだけで、内またで歩いている。
「く、苦しい……。き、貴様ら……」
こちらに気が付いたらしいが、声に全く力が入っていない。
なんか面白いから少しからかっておこう。
「腹に力が入ってないですよ! さあ、大きな声でもう一度! やれば出来る!」
元熱血テニス選手の真似をして、両手を握りしめて騎士を煽ってみた。
騎士の顔は赤くなったり、青くなったりで、気の毒な事この上ない。
「う、うるさい……。大声を出したら、も、漏れる……」
その時、俺の横から白い影がスッと前に飛び出した。
白狼族のサラだ。
高速移動からの腹パンが騎士の下腹部に見事に決まった。
「ほいっ!」
「うぬおおおおおお!」
騎士はこの世の終わりが来たような声を上げて、どこかに走り去って行った。
たぶんトイレだ。
いや、間違いなくトイレだろう。
「サラ……。腹はかわいそうだよ……」
「いや~。つい……ね!」
料理人が地下へと続く階段を降り始めた。
「この先の地下牢にエルフ奴隷達は捕らわれております。さっ! お早く!」
石で出来た階段を地下へと降りる。
石の廊下に沿って鉄格子をはめた牢が沢山並び、牢の中にエルフがいた。
ルーナ先生が牢に駆け寄る。
「助けに来た! もう安心! え……」
そこには腹痛に悶える美しいエルフ達がいた。
俺たちはしばし無言で立ち止まった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
じいが口を開いた。
「じょ、状況から察するに……。どうやらマンブリ草の煮汁が入ったスープを、捕らわれていたエルフたちも飲んでしまったようですじゃ」
「申し訳ございません。どうやら手違いがあったようです」
料理人が申し訳なさそうに頭を下げた。
手違い……。うん、それなら仕方ない。仕方ないよな……。
薬草と魔法に詳しいルーナ先生が、すかさず解説を入れる。
「マンブリの呪いは、回復魔法が効かない。お腹からマンブリ草の煮汁が出るのを待つしかない」
つまりエルフたちは、出し続けるしか選択肢が無いと……。
ありがとうございました。もう、おなかいっぱいです。
俺はパンパンと手を叩いてみんなに指示を出す
「さあ! エルフの皆さんを牢から出して、ここから転移魔法でアンジェロ領に飛ぶよ!」
料理人が盗みだして来たカギで牢を開けた。
しかし、エルフたちは、腹が痛くて一人では歩けない。
みんなで手分けしてエルフに肩を貸して移動させ、なんとか転移魔法のゲートをくぐらせた。
ボイチェフはエルフを三人担ぎ上げている。
連れて来て良かった。
転移して早々に美しいエルフ女性が額に脂汗を浮かべて、必死に懇願して来た。
「お願い! トイレに行かせて!」
「ダメ! お腹は触らないで!」
「もう、無理! 無理無理無理無理無理無理無理!」
こうして多少の手違いはあったが、エルフ奪還作戦は成功した。
じいと立てた計画通り密かに、素早く、エルフたちを奪還したのだった。
ただ、計画に『手違い』があったせいでルーナ先生から少しせめられた。
「アンジェロは悪辣。あんな趣味があるとは思わなかった」
「趣味じゃありません! あくまで手違いです!」
「夫婦になっても、ああいったプレイは遠慮したい」
「ご安心下さい。そういう趣味はないです」
「少し残念」
最近、ルーナ先生の冗談がきわどくなっている。
俺はルーナ先生の冗談をスルーして、みんなに指示を出す。
「さあ、戻るぞ! ハジメ・マツバヤシの屋敷だ!」
時間は、夜の九時頃。
この世界は電灯が無いせいか、みんな早寝早起きだ。
移動した先は王領の街外れだが、しんと静まり返っている。
言葉は発さずにハンドサインで指示を送る。
『サラ、ボイチェフ、キューは、辺りを警戒』
『『『了解!』』』
獣人は夜目が効くし、人族より耳が良い。
見張りは三人に任せれば、間違いないだろう。
大きな木のそばで、潜入している工作員を待つ。
今日は三日月なので、ほどよい暗さが俺たちを闇に隠してくれる。
突然後ろから小声が発せられた。
合言葉だ。
「……ミーと」
いつの間にか工作員が俺たちの後ろに来ていたらしい。
獣人三人が見張っていた筈だが……。見張りをすり抜けたのか。凄腕だ。
じいが小声で合言葉を返す。
「……コウモン」
工作員の顔はよく見えない。
夜の暗さのせいなのか……。
いや、微弱に魔力の発動を感じる。
何か魔道具か魔法を使って、顔を見えづらくしているのだろう。
顔のわからない工作員は、声の感じから恐らく女だ。
低い小さな声で話を続けた。
「……お待ちしておりました。……既に手筈は整っております。……ご移動をお願いします」
俺は街の中に入った事がないので、ここから先は転移魔法が使えない。
俺たちは、静かに徒歩で移動を開始した。
工作員は裏道や人気の無い農道を、まったく足音を立てずに素早く歩く。
俺たちも、そっと音を立てないように後に続く。
緊張して足音に気を付けているせいか、時間の経過まで気が回らない。
二十分? いや三十分は歩いただろうか?
俺たちは一本の路地で立ち止まった。
路地から顔を出すと大きな屋敷が見えた。
工作員がそっと囁く。
「……あの屋敷にエルフ達が捕らわれています」
「デカいな……」
これから潜入するのは、豪奢な貴族屋敷だ。
魔法で作ったと思われる高い石壁に囲まれ、太い門柱の前に金属鎧を着た門番が二人立っている。
「ハジメ・マツバヤシの屋敷です」
「報告は聞いている。ハジメ・マツバヤシは?」
「不在です。近習を伴って、メロビクス王大国軍に従軍しています」
「よしっ!」
後ろからルーナ先生が聞いて来た。
「アンジェロ。どうする? 門を爆破するか?」
ルーナ先生は過激だ。
というより暴れたいのだろうな。
だけれども今回は隠密作戦で行こうと思っているし、その為の段取りも組んである。
「大丈夫です。しばらく待てば中から門が開きます」
「門が開く? 門番がいるが?」
「彼らも、いなくなります」
「んん? どういう事だ?」
「まあ、もう少し待って下さい。ほら、門番の様子を見て下さい」
「門番……。何かモジモジしている」
首をかしげるルーナ先生の横で、俺とじいは顔を見合わせてニヤニヤした。
二人の門番は落ち着きなく足踏みをしたり、腹を抑えたりしている。
俺たちは、そんな門番の様子を路地裏からジッと覗き見た。
やがて二人の門番が苦しそうに声を上げた。
「だ……、ダメだ! もう、無理! 我慢できない! おい! 後は頼む!」
「ふ、ふざけるな! 俺だって我慢しているんだ! いや……、もう限界だ!」
「あわわわ! あ、あとは任せた!」
「し、知るか! 俺が先だ!」
門番二人は、大慌てで屋敷の中に消えて行った。
白狼族のサラが俺の頭の上から不思議そうに顔をのぞかせた。
「あいつら一体どうしたんだ?」
「ふふ。ちょっと細工をね!」
「じゃあ、行くか? 門をボイチェフに壊させるか?」
「まあ、もうちょっと待って」
路地裏で十分くらい待っていると、屋敷から太った男が出て来た。
屋敷に料理人として潜入した工作員だ。
料理人は門を開き手招きをしている。
「ほら! 開いた! 行くよ!」
俺たちは門へ駆け出した。
門の所で工作員の料理人と合流する。
「ミーと!」
「コウモン!」
この合言葉どうにかならないかな。
「お待たせしました! ご案内いたします!」
エルフ奴隷が監禁されている場所へと料理人が案内を始めた。
屋敷の中ではそこかしこから唸り声が聞こえる。
「これは一体どうした事だ?」
ルーナ先生が料理人に歩きながら聞いた。
料理人はポケットから茶色い草を取り出した。
「この煮汁を晩ご飯のスープに混ぜておきました」
「それは……マンブリ草か!?」
「はい。マンブリ草です。ご存知の通りマンブリ草の煮汁は、お通じが悪い時に飲む薬でございます。しかし、量が多くなりますと……」
「腹を下す。マンブリの呪い」
「その通りでございます。今やこの屋敷の人間はマンブリの呪いで身動きがとれません」
そう。あちこちから聞こえる唸り声は、腹痛にもだえ苦しむ声なのだ。
きっとこの屋敷のトイレは、ラッシュアワー状態だろう。
「アンジェロは悪辣。この屋敷の人たちに、ちょっと同情する」
「頭脳の勝利と言って欲しいですね」
「あ。でも、一人騎士がいる」
腹を抑えヨロヨロと廊下を歩く騎士が現れた。
上半身は金属鎧なのに、下は布製のズボンだけで、内またで歩いている。
「く、苦しい……。き、貴様ら……」
こちらに気が付いたらしいが、声に全く力が入っていない。
なんか面白いから少しからかっておこう。
「腹に力が入ってないですよ! さあ、大きな声でもう一度! やれば出来る!」
元熱血テニス選手の真似をして、両手を握りしめて騎士を煽ってみた。
騎士の顔は赤くなったり、青くなったりで、気の毒な事この上ない。
「う、うるさい……。大声を出したら、も、漏れる……」
その時、俺の横から白い影がスッと前に飛び出した。
白狼族のサラだ。
高速移動からの腹パンが騎士の下腹部に見事に決まった。
「ほいっ!」
「うぬおおおおおお!」
騎士はこの世の終わりが来たような声を上げて、どこかに走り去って行った。
たぶんトイレだ。
いや、間違いなくトイレだろう。
「サラ……。腹はかわいそうだよ……」
「いや~。つい……ね!」
料理人が地下へと続く階段を降り始めた。
「この先の地下牢にエルフ奴隷達は捕らわれております。さっ! お早く!」
石で出来た階段を地下へと降りる。
石の廊下に沿って鉄格子をはめた牢が沢山並び、牢の中にエルフがいた。
ルーナ先生が牢に駆け寄る。
「助けに来た! もう安心! え……」
そこには腹痛に悶える美しいエルフ達がいた。
俺たちはしばし無言で立ち止まった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
じいが口を開いた。
「じょ、状況から察するに……。どうやらマンブリ草の煮汁が入ったスープを、捕らわれていたエルフたちも飲んでしまったようですじゃ」
「申し訳ございません。どうやら手違いがあったようです」
料理人が申し訳なさそうに頭を下げた。
手違い……。うん、それなら仕方ない。仕方ないよな……。
薬草と魔法に詳しいルーナ先生が、すかさず解説を入れる。
「マンブリの呪いは、回復魔法が効かない。お腹からマンブリ草の煮汁が出るのを待つしかない」
つまりエルフたちは、出し続けるしか選択肢が無いと……。
ありがとうございました。もう、おなかいっぱいです。
俺はパンパンと手を叩いてみんなに指示を出す
「さあ! エルフの皆さんを牢から出して、ここから転移魔法でアンジェロ領に飛ぶよ!」
料理人が盗みだして来たカギで牢を開けた。
しかし、エルフたちは、腹が痛くて一人では歩けない。
みんなで手分けしてエルフに肩を貸して移動させ、なんとか転移魔法のゲートをくぐらせた。
ボイチェフはエルフを三人担ぎ上げている。
連れて来て良かった。
転移して早々に美しいエルフ女性が額に脂汗を浮かべて、必死に懇願して来た。
「お願い! トイレに行かせて!」
「ダメ! お腹は触らないで!」
「もう、無理! 無理無理無理無理無理無理無理!」
こうして多少の手違いはあったが、エルフ奪還作戦は成功した。
じいと立てた計画通り密かに、素早く、エルフたちを奪還したのだった。
ただ、計画に『手違い』があったせいでルーナ先生から少しせめられた。
「アンジェロは悪辣。あんな趣味があるとは思わなかった」
「趣味じゃありません! あくまで手違いです!」
「夫婦になっても、ああいったプレイは遠慮したい」
「ご安心下さい。そういう趣味はないです」
「少し残念」
最近、ルーナ先生の冗談がきわどくなっている。
俺はルーナ先生の冗談をスルーして、みんなに指示を出す。
「さあ、戻るぞ! ハジメ・マツバヤシの屋敷だ!」
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