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第五章 メロビクス戦争
第75話 ハジメ・マツバヤシの部屋
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アンジェロ領からハジメ・マツバヤシの屋敷にゲートをつなげ移動する。
奴隷にされていたエルフたちの救出は成功した。
犠牲者なし、負傷者なし。
このまま撤収しても100点満点だが……。
家主のハジメ・マツバヤシと近習は不在だ。
ここは更なる加点を狙う!
ゲートを抜けた先は、エルフたちが監禁されていた先ほどの地下牢だ。
「あー、良かった! お帰りになった!」
「お待ちしておりました」
工作員として忍び込んでいた料理人と顔の分からない案内人が待っていた。
「すまんが、もう少し協力してくれ」
料理人の方は早く撤収したそうだが、案内人の方は冷静に交渉をしてきた。
「追加のご依頼でしょうか? 追加報酬をお願い出来ますでしょうか?」
「わかった。追加報酬を支払う」
「では、やりましょう」
「……わかりました」
案内人は淡々と、料理人の方は渋々と引き受けてくれた。
「アンジェロ。こんな所へ戻って、何をする?」
ルーナ先生が、不快そうに問う。
「ハジメ・マツバヤシは不在です。彼は転生者の可能性が高い。なら、少し家捜しをして情報収集しようかと」
「なるほど」
俺の説明を聞いて、じいはうなずく。
獣人三人は、臭いがキツイのか顔をしかめている。
サラが頭巾の上から鼻をつまみつぶやく。
「なんでも良いから、早く片付けて帰ろう……」
「そうだな。ハジメ・マツバヤシの部屋はわかるか? 書斎とか、仕事部屋とか」
「それならハジメ・マツバヤシが、いつもいる部屋があります」
「案内してくれ」
料理人がハジメ・マツバヤシの部屋を知っていた。
太った料理人の後を続く。
「よく部屋を知っていたな?」
「はい。料理人は、ハジメ・マツバヤシ様に呼び出される事が多いですから」
「呼び出される? 料理人がか?」
「ジャガイモとか、トマトとか、新しい作物の料理法で指示を貰うのです。我々の料理法では、ご不満みたいで……」
「なるほどね」
ハジメ・マツバヤシの気持ちはわかる。
この異世界では、料理方法のバリエーションがあまりない。
料理人任せにしたら、せっかくの地球作物を残念料理にされてしまう。
俺の所は、俺も料理するし、美食に執念を燃やし地球料理に理解のあるルーナ先生がいる。
恵まれているな。
階段を駆け上がり、廊下を走る。
途中で出会った兵士は、白狼族のサラが軽い腹パンを見舞って沈黙させた。
みんなマンブリ草の呪いで腹痛だ。
お気の毒です。
「この部屋です。中に入っても驚かないでくださいね」
ハジメ・マツバヤシの部屋は、三階の一番奥の部屋だった。
料理人は驚くなと言うが、何があるのだろう?
扉を開けて、中に突入する。
「は……」
「えっ……」
「ここは……」
ハジメ・マツバヤシの部屋の異様さに、俺たちは言葉を失った。
部屋は広く、壁一面にムチや手錠がつるされている。
天井の太い梁からは、沢山のロープが垂れ下がり、丸テーブルの上に木製の張り型や金属製の浣腸器が無造作に置かれている。
この部屋はまるで――。
「拷問部屋?」
違いますよ、ルーナ先生。
この部屋は趣味人の部屋です。
「アンジェロ……この部屋は臭う……」
「なんまら酷い臭いだあ」
「血と汗と体液が混じり合った臭い……。我らは廊下で見張っております……」
獣人三人が心底嫌そうな顔をして、部屋に入るのを嫌った。
「わかった。そうしてくれ……。はあ~」
俺はこの部屋で行われていたであろう事を想像して深いため息をついた。
ハジメ・マツバヤシは、俺と同じ日本からの転生者だと思う。だから、ほんの少し同族意識、仲間意識があったのだが……。
(まあ、ある意味……転生した人生をエンジョイしているって事か……)
俺には、無理だ。
エルフを奴隷にして強制使役していると聞いた時から、嫌な感じがしていた。
その上、こんな凌辱部屋まで用意してエルフたちをいたぶっていたのかと思うと……。
なんだかなあ。
友達には、なれそうにない。
「あの……ハジメ・マツバヤシ伯爵は、この部屋で――」
「言わなくてよろしい! それより部屋の中を探して! 見かけない珍しい物や金目の物を回収する!」
料理人が話そうとするのを遮り指示を出す。
この部屋でエルフに対して何が行われていたか?
ルーナ先生が知ったら、またぶち切れて暴走してしまう。
今は捜し物に集中したい。
じいが持ち帰った作物は、地球世界の作物だった。
メロビクス王大国の農業改革は、ハジメ・マツバヤシが仕掛けたと聞く。
あの作物もハジメ・マツバヤシの仕掛けだろう。
とすると……。
方法はわからないが、ハジメ・マツバヤシは地球世界の物品を入手出来る。
このハジメ・マツバヤシの屋敷にも地球世界の物品があるかもしれない。
だが、この部屋には、なさそうだ。
「奥に扉が二つありますな」
じいが奥にある扉を開ける。
「ふむ。左は書斎。右は寝室ですじゃ」
書斎がクサイな。
「俺、じい、ルーナ先生で書斎を見よう」
「では、わたしたちは寝室を」
「頼んだ」
案内人と料理人に寝室を任せて、俺、じい、ルーナ先生で書斎に入る。
書斎は、窓際に品の良い木製のデスクが一つ。
壁際に本棚があるが、置いてある本は少ない。
「日本語だ!」
本棚で日本語タイトルの本を見つけた。
タイトルは、『農業初心者読本』、『ビニールハウス栽培』、『酪農経営』など農業関連本が多い。
「アンジェロ。こちらは、本ではなく資料を綴じた物だな。メロビクス王大国各地の情報が記されている」
隣からルーナ先生が教えてくれた。
ルーナ先生は、こちらの世界の文字で書かれた本をチェックしている。
「この本は農業に関する本ですね……。メロビクス王大国各地の情報を整理して、農業改革を広げるのかな……」
「五才とは思えない。それに、アンジェロが手にしている本は、日本語で書かれているのだろう? ハジメ・マツバヤシは、転生者で確定」
「そうですね」
「アンジェロ様。これを!」
デスクの引き出しをひっくり返していたじいが、引き出しの中から小さめの紙袋を見つけた。
「種だな!」
紙袋は、ホームセンターで見かける野菜の種が入った紙袋だ。
大根、白菜、ネギ……ハジメ・マツバヤシは、鍋が好きなのか?
他の種類もある。
これはいただこう。
やはりハジメ・マツバヤシは、日本の物品を取り寄せる事が出来るのだ。
「他には何かないか?」
「あとは……特にありません。空です」
「そうか」
扉から案内係が顔を出した。
相変わらず表情はうかがい知れないが、声は緊迫している。
「よろしいですか? そろそろ、撤収を!」
屋敷の人が腹痛で動けないとしても、長居するのはリスクが伴う。
さっさと撤収しよう。
俺のアイテムボックスに片端から本と種を放り込む。
「寝室の方は?」
「これを! 隠してありました!」
案内係から金貨の入った袋を受け取る。
「上出来ですじゃ。これで屋敷に火をかければ、盗賊の仕業と思ってくれるかもしれません」
「では、火をかける!」
俺とルーナ先生で火魔法を発動し、ハジメ・マツバヤシの部屋に火をかける。
しばらくすれば、大騒ぎになるだろう。
火をかけて騒ぎに乗じて、盗賊が金品や高価な本を持ち去り、美しいエルフ奴隷も連れ去った。
じいが考えたストーリーだ。
ハジメ・マツバヤシが、そんな風に考えてくれる事を祈ろう。
ゲートをアンジェロ領につないで、俺たちはハジメ・マツバヤシ邸から撤収した。
奴隷にされていたエルフたちの救出は成功した。
犠牲者なし、負傷者なし。
このまま撤収しても100点満点だが……。
家主のハジメ・マツバヤシと近習は不在だ。
ここは更なる加点を狙う!
ゲートを抜けた先は、エルフたちが監禁されていた先ほどの地下牢だ。
「あー、良かった! お帰りになった!」
「お待ちしておりました」
工作員として忍び込んでいた料理人と顔の分からない案内人が待っていた。
「すまんが、もう少し協力してくれ」
料理人の方は早く撤収したそうだが、案内人の方は冷静に交渉をしてきた。
「追加のご依頼でしょうか? 追加報酬をお願い出来ますでしょうか?」
「わかった。追加報酬を支払う」
「では、やりましょう」
「……わかりました」
案内人は淡々と、料理人の方は渋々と引き受けてくれた。
「アンジェロ。こんな所へ戻って、何をする?」
ルーナ先生が、不快そうに問う。
「ハジメ・マツバヤシは不在です。彼は転生者の可能性が高い。なら、少し家捜しをして情報収集しようかと」
「なるほど」
俺の説明を聞いて、じいはうなずく。
獣人三人は、臭いがキツイのか顔をしかめている。
サラが頭巾の上から鼻をつまみつぶやく。
「なんでも良いから、早く片付けて帰ろう……」
「そうだな。ハジメ・マツバヤシの部屋はわかるか? 書斎とか、仕事部屋とか」
「それならハジメ・マツバヤシが、いつもいる部屋があります」
「案内してくれ」
料理人がハジメ・マツバヤシの部屋を知っていた。
太った料理人の後を続く。
「よく部屋を知っていたな?」
「はい。料理人は、ハジメ・マツバヤシ様に呼び出される事が多いですから」
「呼び出される? 料理人がか?」
「ジャガイモとか、トマトとか、新しい作物の料理法で指示を貰うのです。我々の料理法では、ご不満みたいで……」
「なるほどね」
ハジメ・マツバヤシの気持ちはわかる。
この異世界では、料理方法のバリエーションがあまりない。
料理人任せにしたら、せっかくの地球作物を残念料理にされてしまう。
俺の所は、俺も料理するし、美食に執念を燃やし地球料理に理解のあるルーナ先生がいる。
恵まれているな。
階段を駆け上がり、廊下を走る。
途中で出会った兵士は、白狼族のサラが軽い腹パンを見舞って沈黙させた。
みんなマンブリ草の呪いで腹痛だ。
お気の毒です。
「この部屋です。中に入っても驚かないでくださいね」
ハジメ・マツバヤシの部屋は、三階の一番奥の部屋だった。
料理人は驚くなと言うが、何があるのだろう?
扉を開けて、中に突入する。
「は……」
「えっ……」
「ここは……」
ハジメ・マツバヤシの部屋の異様さに、俺たちは言葉を失った。
部屋は広く、壁一面にムチや手錠がつるされている。
天井の太い梁からは、沢山のロープが垂れ下がり、丸テーブルの上に木製の張り型や金属製の浣腸器が無造作に置かれている。
この部屋はまるで――。
「拷問部屋?」
違いますよ、ルーナ先生。
この部屋は趣味人の部屋です。
「アンジェロ……この部屋は臭う……」
「なんまら酷い臭いだあ」
「血と汗と体液が混じり合った臭い……。我らは廊下で見張っております……」
獣人三人が心底嫌そうな顔をして、部屋に入るのを嫌った。
「わかった。そうしてくれ……。はあ~」
俺はこの部屋で行われていたであろう事を想像して深いため息をついた。
ハジメ・マツバヤシは、俺と同じ日本からの転生者だと思う。だから、ほんの少し同族意識、仲間意識があったのだが……。
(まあ、ある意味……転生した人生をエンジョイしているって事か……)
俺には、無理だ。
エルフを奴隷にして強制使役していると聞いた時から、嫌な感じがしていた。
その上、こんな凌辱部屋まで用意してエルフたちをいたぶっていたのかと思うと……。
なんだかなあ。
友達には、なれそうにない。
「あの……ハジメ・マツバヤシ伯爵は、この部屋で――」
「言わなくてよろしい! それより部屋の中を探して! 見かけない珍しい物や金目の物を回収する!」
料理人が話そうとするのを遮り指示を出す。
この部屋でエルフに対して何が行われていたか?
ルーナ先生が知ったら、またぶち切れて暴走してしまう。
今は捜し物に集中したい。
じいが持ち帰った作物は、地球世界の作物だった。
メロビクス王大国の農業改革は、ハジメ・マツバヤシが仕掛けたと聞く。
あの作物もハジメ・マツバヤシの仕掛けだろう。
とすると……。
方法はわからないが、ハジメ・マツバヤシは地球世界の物品を入手出来る。
このハジメ・マツバヤシの屋敷にも地球世界の物品があるかもしれない。
だが、この部屋には、なさそうだ。
「奥に扉が二つありますな」
じいが奥にある扉を開ける。
「ふむ。左は書斎。右は寝室ですじゃ」
書斎がクサイな。
「俺、じい、ルーナ先生で書斎を見よう」
「では、わたしたちは寝室を」
「頼んだ」
案内人と料理人に寝室を任せて、俺、じい、ルーナ先生で書斎に入る。
書斎は、窓際に品の良い木製のデスクが一つ。
壁際に本棚があるが、置いてある本は少ない。
「日本語だ!」
本棚で日本語タイトルの本を見つけた。
タイトルは、『農業初心者読本』、『ビニールハウス栽培』、『酪農経営』など農業関連本が多い。
「アンジェロ。こちらは、本ではなく資料を綴じた物だな。メロビクス王大国各地の情報が記されている」
隣からルーナ先生が教えてくれた。
ルーナ先生は、こちらの世界の文字で書かれた本をチェックしている。
「この本は農業に関する本ですね……。メロビクス王大国各地の情報を整理して、農業改革を広げるのかな……」
「五才とは思えない。それに、アンジェロが手にしている本は、日本語で書かれているのだろう? ハジメ・マツバヤシは、転生者で確定」
「そうですね」
「アンジェロ様。これを!」
デスクの引き出しをひっくり返していたじいが、引き出しの中から小さめの紙袋を見つけた。
「種だな!」
紙袋は、ホームセンターで見かける野菜の種が入った紙袋だ。
大根、白菜、ネギ……ハジメ・マツバヤシは、鍋が好きなのか?
他の種類もある。
これはいただこう。
やはりハジメ・マツバヤシは、日本の物品を取り寄せる事が出来るのだ。
「他には何かないか?」
「あとは……特にありません。空です」
「そうか」
扉から案内係が顔を出した。
相変わらず表情はうかがい知れないが、声は緊迫している。
「よろしいですか? そろそろ、撤収を!」
屋敷の人が腹痛で動けないとしても、長居するのはリスクが伴う。
さっさと撤収しよう。
俺のアイテムボックスに片端から本と種を放り込む。
「寝室の方は?」
「これを! 隠してありました!」
案内係から金貨の入った袋を受け取る。
「上出来ですじゃ。これで屋敷に火をかければ、盗賊の仕業と思ってくれるかもしれません」
「では、火をかける!」
俺とルーナ先生で火魔法を発動し、ハジメ・マツバヤシの部屋に火をかける。
しばらくすれば、大騒ぎになるだろう。
火をかけて騒ぎに乗じて、盗賊が金品や高価な本を持ち去り、美しいエルフ奴隷も連れ去った。
じいが考えたストーリーだ。
ハジメ・マツバヤシが、そんな風に考えてくれる事を祈ろう。
ゲートをアンジェロ領につないで、俺たちはハジメ・マツバヤシ邸から撤収した。
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