追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

文字の大きさ
82 / 358
第五章 メロビクス戦争

第82話 なぜかゲロッパ

しおりを挟む
 ハジメ・マツバヤシ伯爵は、後方に陣を構えていた。

「やれやれ、子供扱いしたと思ったら、今度は一丁前の大人扱いか。勝手だねえ~」

 ハジメ・マツバヤシは、伯爵位を得ているとはいえ、まだ五才の子供である。
 メロビクス王大国軍司令官の将軍シャルル・マルテは、ハジメ・マツバヤシに告げた。

「子供ながら貴族家当主としての出陣、誠に天晴れ! しかし、今回の戦は、安全な後方で観戦をされよ」

「ああ、わかった。そうさせて貰うよ。気遣いありがとう」

 ハジメ・マツバヤシは、シャルル・マルテ将軍の言いつけに素直に従った。
 元々、この戦に反対していた事もある上に、彼が率いているのは護衛の騎士十人とお付きの女魔法使いミオだけ。
 前線で活躍するには、戦力不足だと考えていた。

(まあ、僕は剣も魔法も使えない。戦闘能力ゼロだからね。後方でミオのお尻を撫で回していれば良いさ)

 ハジメ・マツバヤシとしては、『今回の出陣は、お付き合い』、『伯爵家当主としての義務』で出陣してきたに過ぎない。
 前線で働く気は、さらさらなかった。

 ところが昨日、敵の襲撃があってから状況が変わった。
 シャルル・マルテ将軍に呼び出され大天幕に出頭すると、将軍や軍幹部たちは渋い表情をしていた。

「ハジメ・マツバヤシ殿に、兵糧の手配を命じる」

「は?」

 突然の命令にポカンとするハジメ・マツバヤシ。
 シャルル・マルテ将軍の傍らに控える副官が、咳払いをして補足説明を始めた。

 昨日の敵の襲撃で、かなりの兵糧を失った事。
 兵糧は数日分しかない事。
 近隣の村から兵糧を徴発する事。
 本国から兵糧を輸送する事。

「ハジメ・マツバヤシ殿が管理をしていらっしゃる王領の農地からも、至急兵糧を輸送していただきたいのです」

 ハジメ・マツバヤシは、呆れていた。

(万を超える軍で他国に侵略をして、『兵糧を失いました。テヘ、ペロ!』は、ねえだろう!)

 ハジメ・マツバヤシは、かなりイラッとしていたが、気持ちを抑えて副官に問うた。

「兵糧の追加ね。いいよ……。わかったけどさ……。襲撃で兵糧を失うって、警備の兵士は何をやっていたの?」

「それが……空から攻撃を受けたと……」

「はあ? 空から?」

 ハジメ・マツバヤシは、日本からの転生者である。
 当然、飛行機やミサイルなど、空から攻撃できる兵器は知っている。

 しかし、この異世界には、空から攻撃できる兵器は存在しない。
 正確には、アンジェロが異世界飛行機グースを飛ばすまでは、存在していなかった。

 グースが攻撃をしていた時、ハジメ・マツバヤシは天幕の中で女魔法使いミオの尻を撫で回していたのだ。
 グースを見ていないので、敵が空から攻撃したという話を、はなから信じていなかった。

「空飛ぶ魔物でも出たの? ワイバーンとかさ」

「いえ。魔物は出ておりません。兵士の報告によれば、空飛ぶ魔道具に乗った敵兵士が攻撃してきたと……」

「へえ。それは斬新な報告だねえ。いや、僕も空を飛んでみたいなあー。その兵士は酒でも飲んでたの?」

「いえ。敵が空飛ぶ道具を開発したようです。今も空を飛んでおります」

「……マジで?」

 副官は天幕の外にハジメ・マツバヤシを連れ出し、空を指さした。
 そこには上空から、メロビクス王大国軍を監視・偵察している一機のグースが飛んでいた。

「マジだった!」

 ハジメ・マツバヤシは、異世界に転生して初めて感嘆の声を上げた。

 ――日本より、地球より、遙かに科学力が劣る異世界。
 ――日本より、地球より、遙かに文明が劣る異世界。

 ハジメ・マツバヤシは転生して以来そのように考え、この異世界を、この異世界に住む人々を見下していた。

 自分は物を教えてやる優位な立場で、この異世界には見るべき物は何もない。
 そんな認識でいた為、まさかこの異世界で飛行機が飛んでいるとは想像し得なかったのだ。

(あれは飛行機……。いや、ハンググライダーか? しかし、プロペラはついているから、飛行機になるのか……。構造自体は簡単そうに見えるな……)

 ハジメ・マツバヤシは、呆けた顔で飛行機を眺める副官に、軽い調子で提案をした。

「ねえ。アレを買えないかな? 買ってパクれば良いじゃん!」

「えっ!? 買う!?」

「うん。我が国は大国でしょ? だったら出入りしている商人も沢山いるでしょう? 商人の中には、色々なコネを持っている商人もいるだろうから、ひょっとしたら空飛ぶアレを買えるかもしれないよ」

「なるほど……。ニアランド王国やフリージア王国にコネのある商人に当たってみろと……。それで、ぱ、ぱくるとは?」

「パクるっていうのは、そっくり真似して、同じ物を作る事だよ。何も無い状態から空飛ぶアレを作るのは大変でしょ? けど、現物があれば、かなり違うんじゃない?」

 副官はヒゲを右手でいじりながら、ハジメ・マツバヤシの言葉を考えた。
 空飛ぶアレは、おそらく魔道具であろう。
 現物があれば、魔道具士が模倣出来る可能性はある。

 副官は姿勢を正し、ハジメ・マツバヤシに頭を下げた。

「確かにそうですね……。ご助言かたじけなく。あの、それで兵糧の方は?」

「ああ。了解したよ。早馬を出すよ。けど、輸送の途中で敵に襲われたらシャレにならないから。迎えの兵士は出してよね」

「それはもちろんです!」

「じゃあ、僕は自分の天幕に戻るよ」

 ハジメ・マツバヤシは、大天幕を後にした。

 自分の天幕に戻ると、顔見知りの商人ゲロッパが来ていた。
 天幕の中に招き入れ、自身は椅子に腰掛ける。

「やあ、ゲロッパ。相変わらず、でっぷり太っているね。元気?」

「元気にしております。マツバヤシ様……恐れ入りますが、お人払いを……」

「人払い? 何? 内緒話?」

「はい……」

「ふーん……。良いけど、ミオはダメだよ。ミオは僕のお付きだからね。じゃあ、他の人は天幕から出て」

 護衛の騎士たちが天幕の外に出た。
 天幕の中は、ハジメ・マツバヤシ、お付きの女魔法使いミオ、商人ゲロッパだけになった。

 商人ゲロッパは懐から、書状を取り出した。

「こちらは、フリージア王国宰相エノー伯爵様からの密書でございます」

「へえ……。どういう事かな?」

 商人ゲロッパはひざまずいて、密書を差し出しているが、ハジメ・マツバヤシは警戒して受け取らずにいた。

 隣に控えている女魔法使いミオも、思わず息をのんだ。

 今まさに戦おうとしている敵陣営の宰相からの密書。
 それが届いた。
 取り扱いに気をつけなければならない。

 空気を察して、商人ゲロッパが説明を始めた。

「私はフリージア王国とも商売をさせていただいておりまして、宰相エノー様とも懇意にさせていただいております」

「そう。それで?」

「今回の戦で一儲けできないかと考えまして、昨晩、宰相エノー様を訪ねたのでございます。すると、エノー様が『メロビクス王大国軍の有力者に知り合いはいないか?』と問われたのでございます」

「それで、僕の名前を出したの?」

「左様でございます。宰相エノー様は、メロビクス王大国に渡りをつけたいとおっしゃいました」

「……わかった。じゃあ、密書を見ようか」

 女魔法使いミオが商人ゲロッパから密書を受け取り、ハジメ・マツバヤシに手渡した。
 羊皮紙を四つ折りにした密書を開き読む。

 密書には、以下の内容が書かれていた。


 ・フリージア王国は、ニアランド王国との盟約に基づいて参戦したが、メロビクス王大国と積極的に戦う意思はない。

 ・この戦の後、停戦ないし、和平を結びたい。

 ・よろしき時、よろしき場所で、会って話したい。


 ハジメ・マツバヤシは面白そうな顔をした。
 そもそも、ハジメ・マツバヤシは、この戦には反対していたのだ。
 戦を仕掛けるにしても、自身が手掛けている農業改革が一段落してからにして欲しい。

 戦争相手二カ国のうち少なくともフリージア王国は、継戦の意思はない。
 ならば、一戦して、さっさと和平なりなんなりを結んで、自分の屋敷に帰りたい。
 そんな事を、考えていた。

「ミオも読むかい?」

「いえ。私には分かりかねると思いますので……。政治的な事は、ご容赦を」

「うん、分かった。ミオには、ベッドの中の事だけ相談するよ」

「!」

 ハジメ・マツバヤシは、しばらくアゴに手をやり考えてから、商人ゲロッパに告げた。

「エノーさんには、わかったと伝えてよ。僕で良ければ、いつでも会うよ」

「はっ! 必ず宰相エノー様にお伝えいたします。それでは、失礼をいたします」

「うん。よろしくね」

 商人ゲロッパが出て行くと、ハジメ・マツバヤシは護衛の騎士たちに指示を出した。

「フリージア王国と宰相エノー伯爵について情報を集めて。どんな些細な事も報告してね」
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...