追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第七章 新たな住人

第111話 代用ゴムやギヤの鍛造

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 キュラキュラ♪ キュラキュラ♪

 ご機嫌なキャタピラー音を響かせながら、ホレックのおっちゃんお手製ケッテンクラートが走る。

 女神ジュノー様、見ていらっしゃいますか?
 この異世界にケッテンクラートが誕生いたしました。
 この世界のポイントが爆上げになると良いですね。

 ホレックのおっちゃんが、ギヤチェンジすると速度が上がり、ケッテンクラートは時速五十キロくらいでキャランフィールドの街中を疾走する。

「意外とスピードが出るね」

「もっと速度を上げることも出来るが、音がうるせえんだ!」

「金属キャタピラーだから、仕方ないよ」


 キュラキュラ♪ キュラキュラ♪


 色がサファリベージュで、このケッテンクラートかわいいな。

 気になるのは前輪だ。
 黒いゴムタイヤがはまっているが、ゴムはこの異世界で見ていない。
 何の素材だろう?

「キューちゃん。前輪は何の素材?」

「ビッグスライムの外皮を加工しました」

 ビッグスライムは、フリージア王国にあまりいない。
 ベロイア地方やギガランド国で、よく出るモンスターだ。
 名前の通り大きなスライムで、サイズは普通自動車。

 中級冒険者推奨の魔物だが、倒すのは簡単だ。
 必要なのは、穂先の硬い槍とビッグスライムの突撃に堪えられる力。

 外皮を槍で貫くことが出来れば、『プシュー!』と音を立てて潰れる。
 中身を構成する液体は蒸発して、外皮と魔石だけが残る。

 しかし、槍が弱いと外皮を貫けないし、力が弱いとビッグスライムの突撃に耐えられずぺしゃんこにされてしまう。

「ビッグスライムの外皮を湯の中で熱します。すると柔らかくなって、加工しやすくなるのです。円形の型に外皮を入れて成形すれば、タイヤの出来上がりです」

「えっ!? スライム系魔物の外皮は、お湯に入れると溶けるよね?」

「ええ。沸騰した湯に入れるとダメです。沸騰する前、ブクブク泡立つ前の温度だと溶けずに柔らかくなるのです」

 それは知らなかった。
 キューちゃん、良く発見したな。

「温度管理が難しそうだね」

「そうですね。エルフの魔道具士エル・プティーオ殿に協力して頂きました」

 エル・プティーオは頭皮の薄い、エルフの割にあまりイケメンでない人だ。
 だが、名門ギルベンダ家が派遣してくれた優秀な魔道具士で、火属性の魔道具制作を得意としている。

 即製蒸留酒クイックを生産する際に使う火の魔道具は、エル・プティーオが作った。

「なるほど、クイックの時に開発した魔道具を応用したのか……」

「そうです。上手くいきました!」

 俺が感心するとキューちゃんは、ニンマリと得意げに笑った。

「魔導エンジンもエルフのファー・ブラケット殿に改良してもらいました。これまでは、魔導エンジン内にミスリル刻印が上下二カ所でしたが、上下左右四カ所にミスリル刻印を入れてあります」

「そんな事が出来るのか……」

 2ストが4ストになった感じだろうか?

「回転数はあまり変わりませんが、パワーアップしています。これまでより重い物を回転させる事が可能です」

「なるほど。ケッテンクラート向きの魔導エンジンだね」

 ケッテンクラートは、悪路を走る想定だ。
 パワーが出る魔導エンジンは、ぴったりだ。

「キューちゃん。ビッグスライム・タイヤは、タイレル用とグース用も作ってもらえるかな?」

「わかりました。タイレルは、このケ、ケーテン? のタイヤを流用します。グース用は、一月もあれば出来ます」

 六輪自動車タイレルは、木の車輪だ。
 ビッグスライム・タイヤをはけば、乗り心地は更に良くなるし、車体への負担も減るだろう。

 異世界飛行機グースもビッグスライム・タイヤにすれば、着地衝撃を少しは減らせるかもしれない。

 ビッグスライムの外皮を使った代用ゴムは、応用が利きそうな技術だ。
 あちこちで活用しよう。

 続いて色々質問したが、俺の質問が機械系になったのでホレックのおっちゃんが話を引き継いだ。

「クラッチ、ギヤ、デファレンシャル・ギヤ、キャタピラーは金属製だ。量産は無理だな。俺一人じゃ手が足らねえ」

「型に鉄を流し込むのじゃダメ?」

「鋳造じゃ強度が足りねえ。鉄は叩かねえと強度が上がらねえんだよ。特に力のかかるギヤは、絶対に鍛造だ!」

「印術じゃ無理かな?」

「ダメだな。形状が複雑すぎる。ボールベアリングは玉だから印術を使ったが、ギヤは無理だ」

 ホレックのおっちゃんが、ハンマーで鉄を叩いて職人芸で仕上げるしかないって事か。
 そりゃ時間がかかる。

 このケッテンクラートは貴重品。
 なるほど誕生日プレゼントに相応しい一品だ。

「なあ、アンジェロの兄ちゃん。鍛冶師を増やせねえか? 新しい物の開発から、農具まで俺がやっているだろ? 正直、忙しくてな……」

「あー、それはすまない。今度、人が増えるから鍛冶師がいないかチェックしてみるよ」

「頼むぜ!」

 ケッテンクラートは、キャランフィールドの外れで悪路を走る。
 デコボコ道、河原、幹が邪魔な森の中、泥状の土、速度は出なくても、きっちり悪路を走破した。

「素晴らしいね! おっちゃん、キューありがとう!」

「なーに良いって事よ!」
「喜んでもらえて何よりです!」


 キュラキュラ♪ キュラキュラ♪


 走行音を聞いているうちに、俺はある事を思いついた。

「なあ、おっちゃん……オリハルコンで戦車を作れないかな?」

「なに!? オリハルコンだと!? 詳しく話してみろ!」

「このケッテンクラートをベースにして……。こう箱を付けて――」

 俺は戦車の説明をホレックのおっちゃんにした。

 単なる思いつきだが、世界で最も硬い金属オリハルコンを使って戦車を作れば、超硬い戦車が出来るのではないか?

 防御力に関しては、地上で最強!

 だが、ホレックのおっちゃんは、イマイチ乗り気じゃない。

「うーん……悪くはねえと思うが……。火系統の魔法攻撃を受けたらどうする? オリハルコンだって金属だから、火で炙れば温度は上がるぜ? 中の人間が蒸し焼きになっちまうぞ」

「あっ……そうか……じゃあ、表面をミスリルでコーティングして、魔法耐性を付ければ?」

「ミスリルコーティングで魔法を弾く事は出来るが、ゼロになる訳じゃねえ。それに火が発する高温は打ち消せないぜ。特にブルムント地方の竜騎兵はやっかいだぞ。火を吐く竜もいるからな」

 ブルムント地方の竜騎兵は有名だ。
 乗っているのはドラゴンの中でも亜竜に分類される竜だが、それでも強力だ。

「ダメか……」

「いや、アイデアは悪くないと思うぜ! このケッテンの上にオリハルコンの盾を並べるだけでも強いぞ」

「戦線突破、突撃用の軌道車か……。歩兵主体の敵には有効かな……」

「ただ、全部をオリハルコンで作るとなると金がかかる。数を揃えられねえだろう?」

「予算との戦いか」

 何という世知辛さだ!
 異世界をオリハルコン機甲軍団で蹂躙する夢は、予算の壁に阻まれたのであった。


 キュラキュラ♪ キュラキュラ♪

 ……。


 キュラキュラ♪ キュラキュラ♪

 ……。


 キュラキュラ♪ キュラキュラ♪

 ……。


 キュラキュラ♪ キュラキュラ♪

 ……。


「ホレックのおっちゃん! 次は、シュビムワーゲンを作ってみない?」
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