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第七章 新たな住人
第120話 フリージア王国情報部準備室長
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――アルドギスル第二王子領の領都アルドポリスにあるミート商会。
リス族のパイロットであるベートは、コーゼン男爵にアンジェロからの手紙を渡すと領主館に帰っていった。
キャランフィールドへの帰り便を飛ばさなくてはならないのだ。
コーゼン男爵は、一人で執務を続ける。
『フリージア王国情報部準備室長』
じい、こと、ルイス・コーゼン男爵の肩書きである。
緊迫した国際情勢を受けて、国王、第二王子アルドギスル、第三王子アンジェロ、三者の合意によって、フリージア王国情報部の設立が決まった。
情報部とは、わかりやすく言えばスパイ組織――諜報機関である。
これまでは、各国にあるフリージア王国大使館や大店の商人からの情報が主であったが、速報性に難があり、集まる情報に偏りがあった。
そこで、フリージア王国として欲しい情報を、素早く、的確に得る為に、情報部が設立されることとなったのだ。
各国を渡り歩き情報収集をした経験のあるルイス・コーゼン男爵が、情報部立ち上げの任にあたる。
なお、コーゼン男爵は、アンジェロ第三王子の側近と準備室長を兼務している。
「情報部立ち上げまではやりましょう。しかし、その後は、他の方に情報部をお願いしますじゃ」
コーゼン男爵としては、『自分はあくまでアンジェロ様の側近』と考え、期間限定の仕事として引き受けたのであった。
コーゼン男爵がいるミート商会は、情報活動の為のダミー商会、スパイ活動の為の隠れ蓑である。
ミート商会の支店を各国に作り、情報収集の拠点とするのだ。
ここアルドギスル領アルドポリスのミート商会は、対メロビクス王大国、対ニアランド王国の情報収集の総本部なのだ。
とは言え、立ち上げたばかりの情報部に人員は少ない。
現場で情報収集する情報部員は、エルフ奪還作戦で成果を出した流浪の民エルキュール族を雇った。
エルキュール族は、大陸北西部から中央部に住む一族で特定の領土を持たない。
表の顔は、吟遊詩人や踊り子等の芸事を生業とする放浪の部族である。
しかし、この部族は裏の顔はスパイ。
諜報が一族先祖伝来の特殊技術なのだ。
コーゼン男爵、いや、コーゼン準備室長は、ミート商会アルドポリス店の三階で一人書類に埋もれているのであった。
「ふう……アンジェロ様からの手紙を読むかのう」
コーゼン男爵は、執務机でアンジェロからの手紙を開封し、素早く一読した。
「ふむ……エリザ女王国で鉄製品が値崩れ……。これは気になる情報じゃ!」
コーゼン男爵は、メロビクス戦役開戦前の鉄鉱石の事を思い出していた。
(ウォーカー船長から、メロビクス王大国が鉄鉱石を買っていると情報があった……)
徐々に思考が深まる。
また、メロビクス王大国が戦の準備をしているのではないか?
準備が整ったので、鉄製品が値崩れしたのではないか?
コーゼン男爵は、自分の推論に身震いする。
「確証じゃ……。メロビクス王大国中枢の情報が欲しい……。ええい! 情報部員は何をしておるのじゃ! いつになったら情報を持ち帰るのじゃ!」
コーゼン男爵が、腹立ち紛れの言葉を口にすると、誰もいないはずの部屋の隅で返事をする者がいた。
「もう、来ている……」
「ぬっ!? いつの間に!?」
窓際に男が立っていた。
身長は、およそ180センチ。
体格はガッチリとした筋肉質で、年齢は四十才程度。
黒髪短髪で、顔立ちは高倉健に似ている。
コーゼン男爵は、緊張しながら尋ねた。
「エルキュール族の者か?」
「そうだ……。トラントだ……」
トラントと名乗った男は、窓際からゆっくりと部屋の中央に移動した。
その動きは一分の隙も無い。
トラント――メロビクス王大国の一部の地域では、数字の30を意味する。
13でも31でもなく、30である。
(なんとも無愛想……いや、無表情な男じゃわい)
コーゼン男爵は立ち上がり、トラントの周りを歩きながら値踏みするように観察した。
コーゼン男爵がトラントの背後に回ると、トラントは静かに、しかし有無を言わせぬ口調でコーゼン男爵に告げた。
「俺の背後に立つな……」
「むっ! さすがはプロじゃ……。承知したぞ!」
急いでトラントの正面に移動するコーゼン男爵。
「前にも立つな……」
「どうすれば良いのじゃ! 話が出来んじゃろうが!」
トラント――一分の隙も無い男である。
結局、二人は、コーゼン男爵の執務机を挟んで座り。
トラントが窓の方を向き、コーゼン男爵に横顔を見せる体勢で落ち着いた。
「では、トラント。報告を聞こう」
「メロビクスの軍備が落ち着き、出兵でもめている……」
「何!? それは確か!?」
「プロは余計なことを話さない……」
「いや、話せ!」
トラント――一分の隙も無い男である。
「……」
「早う話さんか!」
トラントは懐から、羊皮紙を取り出しコーゼンに投げ渡した。
「必要な情報は、そこに書いてある……」
「お……おい! ちょっと待つのじゃ!」
そう言うと、トラントは煙のように消え、部屋からいなくなった。
(魔法……? 怪しげな術を使う男じゃ……)
コーゼン男爵は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、トラントが残した羊皮紙を開いた。
そこには、メロビクス王大国王宮の内情が記載されていた。
・フリージア王国へ復讐戦を挑むべしとの声が、王宮内で大きくなっている。
・先の戦いで戦死したシャルル・マルテ将軍の父、ミトラル宰相が急先鋒である。
・中央軍は、地方派遣軍の再編と徴兵によって、縮小規模ではあるが再建されつつあり。
・地方貴族からも、復讐戦賛同の声が上がっている。
・新中央軍と地方貴族有志連合で、復讐戦が行われそうである。
・鉄製武器の配布が、新中央軍と地方貴族に行われた。
・秋の収穫後から冬が危ない。
「むう……メロビクス王大国とは再戦か……」
フリージア王国とメロビクス王大国の外交交渉は進んでいない。
戦闘は起きていないが、和平条約や休戦条約も結ばれていないのだ。
「ニアランド王国がどうでるか? メロビクス王大国と歩調を合わせて、攻めかかってくるかのう……」
コーゼン男爵の想像は、嫌な未来であった。
その嫌な未来を飲み下すように、コーゼン男爵は、机の上に置かれた水を飲み干す。
そして、コーゼン男爵は、ふと浮かんだ疑問を口にした。
「はて、料金はどこに振り込むのじゃろうか?」
コーゼン男爵の問いに答える者はいなかった。
リス族のパイロットであるベートは、コーゼン男爵にアンジェロからの手紙を渡すと領主館に帰っていった。
キャランフィールドへの帰り便を飛ばさなくてはならないのだ。
コーゼン男爵は、一人で執務を続ける。
『フリージア王国情報部準備室長』
じい、こと、ルイス・コーゼン男爵の肩書きである。
緊迫した国際情勢を受けて、国王、第二王子アルドギスル、第三王子アンジェロ、三者の合意によって、フリージア王国情報部の設立が決まった。
情報部とは、わかりやすく言えばスパイ組織――諜報機関である。
これまでは、各国にあるフリージア王国大使館や大店の商人からの情報が主であったが、速報性に難があり、集まる情報に偏りがあった。
そこで、フリージア王国として欲しい情報を、素早く、的確に得る為に、情報部が設立されることとなったのだ。
各国を渡り歩き情報収集をした経験のあるルイス・コーゼン男爵が、情報部立ち上げの任にあたる。
なお、コーゼン男爵は、アンジェロ第三王子の側近と準備室長を兼務している。
「情報部立ち上げまではやりましょう。しかし、その後は、他の方に情報部をお願いしますじゃ」
コーゼン男爵としては、『自分はあくまでアンジェロ様の側近』と考え、期間限定の仕事として引き受けたのであった。
コーゼン男爵がいるミート商会は、情報活動の為のダミー商会、スパイ活動の為の隠れ蓑である。
ミート商会の支店を各国に作り、情報収集の拠点とするのだ。
ここアルドギスル領アルドポリスのミート商会は、対メロビクス王大国、対ニアランド王国の情報収集の総本部なのだ。
とは言え、立ち上げたばかりの情報部に人員は少ない。
現場で情報収集する情報部員は、エルフ奪還作戦で成果を出した流浪の民エルキュール族を雇った。
エルキュール族は、大陸北西部から中央部に住む一族で特定の領土を持たない。
表の顔は、吟遊詩人や踊り子等の芸事を生業とする放浪の部族である。
しかし、この部族は裏の顔はスパイ。
諜報が一族先祖伝来の特殊技術なのだ。
コーゼン男爵、いや、コーゼン準備室長は、ミート商会アルドポリス店の三階で一人書類に埋もれているのであった。
「ふう……アンジェロ様からの手紙を読むかのう」
コーゼン男爵は、執務机でアンジェロからの手紙を開封し、素早く一読した。
「ふむ……エリザ女王国で鉄製品が値崩れ……。これは気になる情報じゃ!」
コーゼン男爵は、メロビクス戦役開戦前の鉄鉱石の事を思い出していた。
(ウォーカー船長から、メロビクス王大国が鉄鉱石を買っていると情報があった……)
徐々に思考が深まる。
また、メロビクス王大国が戦の準備をしているのではないか?
準備が整ったので、鉄製品が値崩れしたのではないか?
コーゼン男爵は、自分の推論に身震いする。
「確証じゃ……。メロビクス王大国中枢の情報が欲しい……。ええい! 情報部員は何をしておるのじゃ! いつになったら情報を持ち帰るのじゃ!」
コーゼン男爵が、腹立ち紛れの言葉を口にすると、誰もいないはずの部屋の隅で返事をする者がいた。
「もう、来ている……」
「ぬっ!? いつの間に!?」
窓際に男が立っていた。
身長は、およそ180センチ。
体格はガッチリとした筋肉質で、年齢は四十才程度。
黒髪短髪で、顔立ちは高倉健に似ている。
コーゼン男爵は、緊張しながら尋ねた。
「エルキュール族の者か?」
「そうだ……。トラントだ……」
トラントと名乗った男は、窓際からゆっくりと部屋の中央に移動した。
その動きは一分の隙も無い。
トラント――メロビクス王大国の一部の地域では、数字の30を意味する。
13でも31でもなく、30である。
(なんとも無愛想……いや、無表情な男じゃわい)
コーゼン男爵は立ち上がり、トラントの周りを歩きながら値踏みするように観察した。
コーゼン男爵がトラントの背後に回ると、トラントは静かに、しかし有無を言わせぬ口調でコーゼン男爵に告げた。
「俺の背後に立つな……」
「むっ! さすがはプロじゃ……。承知したぞ!」
急いでトラントの正面に移動するコーゼン男爵。
「前にも立つな……」
「どうすれば良いのじゃ! 話が出来んじゃろうが!」
トラント――一分の隙も無い男である。
結局、二人は、コーゼン男爵の執務机を挟んで座り。
トラントが窓の方を向き、コーゼン男爵に横顔を見せる体勢で落ち着いた。
「では、トラント。報告を聞こう」
「メロビクスの軍備が落ち着き、出兵でもめている……」
「何!? それは確か!?」
「プロは余計なことを話さない……」
「いや、話せ!」
トラント――一分の隙も無い男である。
「……」
「早う話さんか!」
トラントは懐から、羊皮紙を取り出しコーゼンに投げ渡した。
「必要な情報は、そこに書いてある……」
「お……おい! ちょっと待つのじゃ!」
そう言うと、トラントは煙のように消え、部屋からいなくなった。
(魔法……? 怪しげな術を使う男じゃ……)
コーゼン男爵は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、トラントが残した羊皮紙を開いた。
そこには、メロビクス王大国王宮の内情が記載されていた。
・フリージア王国へ復讐戦を挑むべしとの声が、王宮内で大きくなっている。
・先の戦いで戦死したシャルル・マルテ将軍の父、ミトラル宰相が急先鋒である。
・中央軍は、地方派遣軍の再編と徴兵によって、縮小規模ではあるが再建されつつあり。
・地方貴族からも、復讐戦賛同の声が上がっている。
・新中央軍と地方貴族有志連合で、復讐戦が行われそうである。
・鉄製武器の配布が、新中央軍と地方貴族に行われた。
・秋の収穫後から冬が危ない。
「むう……メロビクス王大国とは再戦か……」
フリージア王国とメロビクス王大国の外交交渉は進んでいない。
戦闘は起きていないが、和平条約や休戦条約も結ばれていないのだ。
「ニアランド王国がどうでるか? メロビクス王大国と歩調を合わせて、攻めかかってくるかのう……」
コーゼン男爵の想像は、嫌な未来であった。
その嫌な未来を飲み下すように、コーゼン男爵は、机の上に置かれた水を飲み干す。
そして、コーゼン男爵は、ふと浮かんだ疑問を口にした。
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