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第八章 メロビクス戦争2

第138話 その変なポーズは止めてくれ!

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 ――十月中旬。

 王都で大規模な会議が開催された。
 議題は、メロビクス王大国とニアランド王国を相手にした防衛戦だ。

 増産されたグースがフリージア王国内を飛び回り、各領地貴族を王都へ運び、フリージア王国の貴族や軍関係者が一堂に会した。

 俺は席に座り、隣の席に座るじいと話をして、会議の開始を待つ。

「壮観だな」

「はい。これだけの貴族が王都に集まるのは、国王陛下の戴冠式以来です」

「グースを増産した甲斐があったな」

 二人乗りのグースは、合計三十機。
 六人乗りのグース改――ブラックホークは、合計三機。

 三十三機が飛び回ってくれた。

「じい。顔を合わせて話すのは、意味があるよね?」

「もちろんですじゃ! 意思統一や漏れなく情報を伝達できるのですから、大きな意味があります」

「そう言ってもらえて嬉しいよ」

 この異世界では、連絡方法が手紙と伝言に限られる。
 顔を合わせて打ち合わせが出来るのは大きいだろう。

 会場の大広間に□型に机が配置され、席につく貴族だけで百を超える。
 俺たちの後ろには、護衛役のルーナ先生と黒丸師匠が目を光らせている。

「フリージアは中堅国なのに、貴族が沢山いる」

「末端の騎士爵も呼ばれているのである。総力戦であるな」

 黒丸師匠の言う通り、まさに、総力戦だ。
 大まかな情報が伝わっているのか、顔色の悪い貴族が多い。
 また、メロビクス、ニアランドとやり合わなければならないのだから、仕方がない。
 彼らを責められない。

 最後に父上が入室、一段高い場所にしつらえられた玉座につき、侍従長が宣言した。

「それでは、これより御前会議を開始いたします!」

 会議が始まった。
 まず、情報部からの説明だ。

「我々が得た情報によりますとメロビクス王大国とニアランド王国が、我が国への侵略を企図しております」

 情報部長は、中年の随分と太った男だった。
 話しぶりは丁寧で落ち着いた語り口だ。

「両国は、同時に五カ所を攻略する作戦を立て、着々と準備を進めております」

 壁につるされた地図には、攻撃予測地点が赤丸で記されている。
 北から南へ順番に、情報部長が指示棒で叩く。

「まず、アンジェロ殿下のご領地キャランフィールド。アルドギスル殿下のご領地アルドポリス。ここ王都。南のシメイ伯爵領。そしてアンジェロ殿下のご領地となった商業都市ザムザ」

 会場がざわつく。

「五カ所同時!」
「むう……さすがは大国……」
「情報に間違いはないのか?」
「そうだな。いくら何でも五カ所は……」

 貴族たちが不安を口にし、中には情報の精度に疑問を呈する声も上がる。
 情報部長が両手を上げ下げし、静まるようジェスチャーした。

「両国の作戦計画は、複数の情報を入手して確認が取れております。みなさん! 五カ所同時攻撃と聞いて、信じられない気持ちでしょうが、情報に間違いございません! 領主貴族の軍勢も加わり、数を揃えてくるようです」

 俺もアリーさんの祖父ギュイーズ侯爵から手紙で報せを受けた。
 情報部には内容を伝えてある。
 情報部長が言うことに間違いはない。

 情報部長から説明が終わると、軍部の参謀が話を引き継いだ。

「それでは、どのように防衛をするか、皆様のご意見を伺いたく存じます。フリ-ジア王国存亡の危機でありますから、爵位や役職にかかわらずご発言ください。活発な議論をお願いいたします」

 参謀は発言を促したが、だれも発言をしない。
 お通夜の会場のように静まりかえっている。

 意見がまったく出ないことに、参謀が焦り出す。

「ど……どなたか……ご意見は!?」

 まずいな……。
 みんな、もっと……何か色々言うと思ったのだが……。

 俺は西の国境に近い弱小貴族の顔を見る。
 まさか、メロビクス王大国に寝返ろうと考えていないよな?

 じいが小声で教えてくれた。

「何か言えば自分が、敵の矢面に立つことになりますからな……」

「じい?」

「メロビクスは大国ですじゃ」

「大軍の相手は、誰もやりたくないって事か……」

「はい。それも防衛戦であれば、新たに得られる領地もなく。活躍しても、得られる物が少のうございますじゃ」

「……」

 そうか……そりゃ、フリージア王国貴族のモチベーションも上がらないよね。
 だから、誰も発言しない。
 困ったな。

 すると一人、スッと手を上げた。
 アルドギスル兄上だ。

「いやいや……。誰も何も言わないようだから、僕が発言しても良いかな?」

 進行役の軍参謀が、すがるようにアルドギスル兄上に発言を促す。

「ア、アルドギスル殿下! どうぞ! ご発言ください!」

「僕たちフリージア王国が、考えるべきことは一つしかないさ。王国最大の戦力をどういかすか……」

 アルドギスル兄上が、もったいぶった顔で一度口を閉じた。
 次の瞬間、アルドギスル兄上は、立ち上がると左手を頭の後ろへ、右手を真っ直ぐ俺の方へ伸ばし変なポーズになった。

「つまり! アーンジェロ! 君たち『王国の牙』を、どういかすかさ!」

 会場中の目が俺に注がれた。
 アルドギスル兄上は、得意満面だ。

 正直、ぞわっとした。

 わかった!
 わかったから!
 アルドギスル兄上!
 その変なポーズは止めてくれ!


 *


 アンジェロ領キャランフィールドでは、ウォーカー船長とアリー・ギュイーズが面会していた。

「アリー様。どうかキャランフィールドより避難して下さい。私が安全な場所にお連れいたします」

「……」

「ギュイーズ侯爵からの手紙にも、『避難するように』とございましたよね? キャランフィールドの港に、敵艦隊が近づく前に脱出いたしませんと!」

 ウォーカー船長は、アリー・ギュイーズを急かす。
 ウォーカー船長の船『愛しのマリールー号』は快速を誇るが、港を敵船に抑えられては身動きのとりようがない。

 彼は一刻も早く、アリー・ギュイーズを連れて脱出をしたかった。

 しかし、アリー・ギュイーズは、首を横に振る。

「ウォーカー船長。私はどこへも行きませんわ」

「アリー様!」

「私はアンジェロ様に嫁ぐのですよ? その私が逃げ出してどうするのですか?」

 アリー・ギュイーズは、やんわりとした口調ながら、はっきりと逃亡を拒否した。

「いや、しかし、ギュイーズ侯爵から――」

「おじいさまの手紙には、『可能なら安全な場所に身を隠せ』とありましたわ。必ず逃げろとは、おっしゃってはいないでしょう?」

「それは……そうかもしれませんが……」

「キャランフィールドが、私の家です!」

 ウォーカー船長は、アリー・ギュイーズの説得をあきらめた。
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