追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第八章 メロビクス戦争2

第176話 グンマー・オア・トリート!

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「グンマー・おあ・とりーと」

「は?」

 同じ言葉を繰り返すルーナに、フォーワ辺境伯は困惑した。

(これは何かの合言葉であろうか……。グンマーとは、何だ……?)

 グンマーはシメイ伯爵領の方言である。
 グは、『強い』、『大きい』を意味する。
 ンマーは、『うわー!』、『すげー!』といった、感嘆を意味する。

 だが、フォーワ辺境伯は、当然知らない。
 意味のない言葉にしか、聞こえないのだ。

 困惑したフォーワ辺境伯が、マカロン男爵を見ると、すぐに目の前の女性を紹介した。

「こちらは、ルーナ・ブラケット殿です。アンジェロ王子の魔法の師であり、冒険者パーティー『王国の牙』のメンバーでいらっしゃる。ルーナ殿、こちらはフォーワ辺境伯です」

「よろしく。フォーワ辺境伯。私はルーナ・ブラケット。付け加えるとアンジェロの婚約者」

「おお! ご高名はかねがね伺っております!」

「グンマー・おあ・とりーと」

「え……」

 フォーワ辺境伯の困惑は続く。


 *


 俺の天幕に黒丸師匠が入ってきた。

「アンジェロ少年。フォーワ辺境伯が到着したのである」

「来ましたか!」

 フォーワ辺境伯は、メロビクス王大国南西部の雄と言われる人物だ。
 北西部を抑えるギュイーズ侯爵は、既に我々に味方しているので、フォーワ辺境伯が味方してくれれば、西部が丸ごとこちらサイドになる。

 じいが交渉をしてくれて、既に不戦の約束は取り付けてあるから、味方してくれる可能性は高いと見ているが……。

「打ち合わせ通り、マカロン男爵が野営地を案内しているのである」

「最後はグンマークロコダイルの所ですね?」

「そうである。タカサキたちを見せて、ビビらすのである」

 ルーナ先生と黒丸師匠の希望で、見学ツアーの最後はグンマークロコダイル……。
 ビビるかな?
 多少なりともビビってくれれば、後々の交渉がやりやすい。

 俺と黒丸師匠は、野営地の隅、グンマークロコダイルがいる場所へ向かった。

 現在、グンマークロコダイルは四匹いる。
 王都に置いてきた一匹のグンマークロコダイルが合流して、合計四匹になったのだ。
 四匹目は、メスで名前はミドリ。

 ルーナ先生に名前を付けろと言われて、俺が名付けた。
 群馬県出身の美人声優さんが、みどり市出身なのでミドリ。

 オス三匹に囲まれて、絶賛姫プレイ中のグンマークロコダイルだ。

 俺と黒丸師匠が、グンマークロコダイルたちがいる場所に近づくとルーナ先生とマカロン男爵がいた。
 そして、もう一人の男性、多分フォーワ辺境伯だろう。

 ルーナ先生は、ミドリを両手で掲げフォーワ辺境伯に何か言っている。
 何をしているのだろう?

「グンマー・おあ・とりーと。グンマーか、とりーとか、どちらか選ぶ」

「で、では! グンマー!」

 フォーワ辺境伯が『グンマー』と言うと、ルーナ先生はかがみ込んだ。
 フォーワ辺境伯の股間にミドリを近づけると、ミドリが――。

「ガブ♪」

「んんんんがーーーーーー!」

「「あ」」

 俺と黒丸師匠は、呆気にとられた。
 ルーナ先生は、グンマークロコダイルのミドリをフォーワ辺境伯の股間にかみつかせたのだ。
 股間を押さえてうずくまるフォーワ辺境伯。

 俺がこの前ハロウィーンを教えたら、やりたがっていたのだが……。

 今のは、違うぞ!
 ダメだろう!

 ルーナ先生は、ゲラゲラ笑っている。
 フォーワ辺境伯は、顔が真っ赤だ。

「ちょっ! ルーナ殿! かまれましたぞ!」

「大丈夫。ミドリはメス。メスの甘噛み。良かったね」

「良くは、ありませんぞ! 痛いです!」

「じゃあ、ヒール」

 フォーワ辺境伯が、柔らかい緑色の光に包まれた。
 ミドリに噛まれた痛さは、消えただろうが、来客にこれは不味い!

 俺は慌てて割って入る。

「ルーナ先生! 違うから! トリック・オア・トリート! お菓子をもらうのですよ!」

「誰もお菓子をくれないからアレンジした」

 他の人にもやったのか?
 そりゃ、みんなノーリアクションだろう。
 異世界では、ハロウィーンなんて誰もわからないよ。

「グンマー・おあ・とりーと!」

「ルーナ先生!」

 また、ルーナ先生が、フォーワ辺境伯に無茶ぶりした。
 ルーナ先生は、気に入るとしつこい。

「グンマー・おあ・とりーと!」

「えっと……。じゃあ、今度は、ト……トリート?」

「ふん!」

「ふおおお!」

 ルーナ先生が、ミドリを振り回してケツバットをフォーワ辺境伯に食らわした。
 悶絶するフォーワ辺境伯。

「ルーナ先生! ダメですって! なんで、トリートで、ケツバットなの! そこ、黒丸師匠! 笑わない! フォーワ辺境伯も返事をしない!」

「いや……ルーナ殿が楽しそうだったので、つい……」

「フォーワ辺境伯は良い人。気に入った」

 何この状況……。
 ルーナ先生も変なアレンジするなよ……。


 *


 フォーワ辺境伯との会談は、思いのほか順調だった。
 フォーワ辺境伯は、参戦を約束してくれた。

「それでは、よろしくお願いします!」

「お任せを! このフォーワ! アンジェロ王子のお役に立ちましょうぞ!」

 フォーワ辺境伯は、グースに乗って帰っていた。

「ま、まあ、結果的にビビらせたのである。交渉は成功であるな!」

「そうだ。そうだ」

 黒丸師匠が無理矢理なフォローをし、ルーナ先生が尻馬に乗る。

 グンマー・おあ・とりーとってなんだよ……。
 股間にかみかれるか、ケツバットの二択なんて理不尽過ぎるだろう。

 これ以上、犠牲者が出る前に、ルーナ先生の興味を違う方向へ向けよう。

 もうすぐ、十二月だから……そうだ!

「ルーナ先生。クリスマスというお祭りの話しをしましょう……。俺が前にいた世界では、十二月二十四日に、チキンを食べて、恋人が共に夜を過ごすのです」

 自分で話していて何だが……。
 日本のクリスマスは、何か間違っている気がした。

「サンタクロースという人がいて――」

「ふーん。サンダーさん」

「サンタです!」


 *


 フォーワ辺境伯は、無事に領地に帰った。
 戦況有利なフリージア王国軍のアンジェロ王子と友好的な関係を築き、アンジェロの婚約者であり、エルフの有力者でもあるルーナ・ブラケットに気に入られるという金星を拾ったのである。

「やれやれ、疲れた一日だったが、実りの多い一日だった」

 その晩、フォーワ辺境伯は、ぐっすりと眠れた。
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