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第九章 グンマー連合王国
第250話 黒丸とルーナの報告(九章最終話)
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俺が執務室で書類仕事をしていると、ルーナ先生と黒丸師匠が帰ってきた。
帰ってきたが……。
「その素っ裸の男二人は?」
「お土産」
「遠慮なく受け取るのである」
ルーナ先生と黒丸師匠は、縄で縛った全裸の男二人を引きずっていた。
なぜか局部が赤く腫れていて、『カユイ! カユイ!』と悲鳴を上げている。
お土産といわれてもなあ……。
BL趣味はないぞ。
俺が顔をしかめると、ルーナ先生と黒丸師匠がゲラゲラ笑い出した。
「アンジェロ、顔が面白い」
「そんなに裸の男は嫌であるか?」
「嫌に決まっているでしょう!」
「じゃあ、早く、私と結婚する」
「そうであるな。ルーナに添い寝してもらうである」
まったく、俺の師匠二人は、ろくなことを言わない。
「こいつらは、奴隷狩りをしていた連中である。サソリ固めの刑にして尋問したのである」
「サソリ固めの刑が、何なのかは聞かないでおきます……」
どうせ、ロクデモナイことなのだ。
聞けば、耳が腐る。
俺は兵士を呼んで全裸の男二人を引き渡した。
こいつらは、とりあえず牢屋だ。
「アンジェロ少年。あいつらは、じい殿に取り調べてもらうのであるが……」
黒丸師匠が、真面目な表情になり、眉根を寄せた。
何だろう?
「あいつらは変なことを言うのである。それで、先にアンジェロ少年の所にきたのである」
「変なこと?」
「アンジェロ少年は、カクメイを知っているであるか?」
黒丸師匠が、発音しづらそうに『カクメイ』と日本語を話した。
これは……!
「ええ。わかりますよ。革命は、俺が転生する前の世界にあった言葉です」
「やはりであるか! あいつらは、それである!」
「えっ!? どういうことですか!?」
突然の革命騒ぎに驚く。
トランプの大貧民のことだろうか?
黒丸師匠とルーナ先生が、事情説明をしてくれた。
この場合の革命とは――。
「それは、左翼とか、共産主義ってヤツですね」
「左の翼であるか?」
「ぎょーさんしゅぎ?」
「ぎょーさんではありません。共産です」
「それは、どんな物であるか?」
黒丸師匠に質問されたが、上手く答えられない。
前世の話だが、俺が生まれる前に共産主義国は、崩壊しているのだ。
だから、教科書で習ったことや、動画サイトの歴史まとめ動画で見た程度の知識しかない。
ゆっくりソ連崩壊とか、その類いだ。
それでも、何とか前世の知識を整理して説明を試みてみた。
「えーと、俺がいた世界で過去にあった政治体制ですね」
「ふむ……。過去にあったということは、古い政治体制なのであるか?」
「そう……ですね……。正確には、俺が転生する前でも、いくつか共産主義国が残っていましたけど……。上手くいってなかったですね」
「欠陥のある政治制度であるか?」
「そうですね……。これは転生前の世界で祖父から聞いた話なのですが――」
俺は転生前の日本で、祖父から聞いた話をルーナ先生と黒丸師匠に披露した。
祖父は、共産主義国に旅行する機会があったそうだ。
ところが、ホテルでも、お店でも、サービスが悪く、店員の態度が最悪だったらしい。
「買い物をしてお釣りを渡す時に、投げるそうです」
「投げる? コインを?」
「なぜであるか? 普通に渡せば良いのである?」
ルーナ先生と黒丸師匠は、俺の話を不思議がっている。
この異世界のサービスレベルは、日本ほどではない。
それでも、お店のおばちゃんは笑顔で『いらっしゃい!』と言うし、買い物をすれば『ありがとう』とか『また、頼むぜ!』とか、最低限の挨拶は交す。
恐らく日本人が、この異世界に旅行したとしても、困らないレベル、気分を害さないレベルで、接客やサービスが行われている。
だから、『お釣りを投げて寄越す』、共産主義のサービスレベルは、想像がつかないのだろう。
俺も経験したわけではないので、あくまで想像だが……。
「祖父いわく『競争がないから、サービスが悪くなる。客を客と思わなくなる』そうです」
「えっ……? お客さんは、お客さん……」
「ルーナのいう通りである。客は、客である」
「いや! ですから!」
説明が非常に難しい。
俺は大雑把な説明を行う事にした。
・私有財産がない。
・一生懸命働いても、ダラダラ働いても給料は一緒。
・商会は国営のみ。
・国が生産計画や商売の計画を立てる。
俺が説明をする度に、ルーナ先生と黒丸師匠の困惑はひどくなっていった。
「よくわからない。アンジェロの説明によれば、ぎょーさんしゅぎでは、働いたら負けってこと?」
「ルーナ先生。働かないと、国によって強制的に働かされます。シベリア送りとか」
「シベリア?」
「北の方にあるとても寒い地方です。そこで鉱山を掘ったり、森を切り開いたり、キツイ仕事をさせられます」
「んー。アンジェロが北部王領に追放されたのと、ちょっと似ている」
「ぐわははは! アンジェロ少年は、シベリア送りのぎょーさん主義者である!」
黒丸師匠が訳の分からないところで、ツボにはまって笑い出した。
はあ……。
スターリンとか、同志とか、ネット上のネタの一つだったからな。
まさか、異世界で共産主義に出会うとは……。
黒丸師匠が、やっと笑い終わった。
「それで、アンジェロ少年。彼らは、労働者の国を作ると言っていたのであるが?」
「ええ。共産主義の建前としては、労働者――つまり農民などの平民ですね。労働者の代表が政治を動かすそうです。だから、労働者の国だという訳です」
「建前であるか?」
「ええ。建前です」
最初に共産主義を考えた人が、どう思ったのかは知らない。
だが、二十世紀に現れた共産主義国では、独裁が行われた。
秘密警察や密告が横行した国もあったそうだ。
まあ、全部、まとめ動画の知識だけれど。
「じゃあ、実際の所は、どうであるか?」
「実際は、幹部……えーと、共産主義運動を主導した人たちが、権力もお金も握ります。幹部が政治を動かし、全ての物事を決めます。労働者の国ではないですね」
「ふむ……。まあ、そんなことだろうと思ったのである。王政と同じであるな」
「いえ。王政よりも悪いです」
「なぜであるか?」
共産主義には、権力を独占する根拠がないのだ。
建前上は、労働者の代表だからとか、イロイロあるのだろうけれど。
実際は、一部の幹部や代表者による独裁政治だ。
王政や貴族制も、一種の独裁ではあるが、そこには『血統』という根拠がある。
根拠があるから、王や貴族は自分の権力を維持するにあたって無理をする必要がない。
共産主義で個人の独裁をやるには、根拠がない。
だって、本来、国のトップは労働者の代表なのだから、入れかわりがあって当然だ。
本来は個人で独裁は出来ないし、権力を子供に譲り渡すこともおかしいのだ。
だから、共産主義において個人が独裁政治を行うと、民衆を締め付ける。
自分の権力を守る為に、政敵を処刑し、自分の悪口を民衆に言わせないように情報統制を行う。
「――らしいです」
俺の説明が終わると、ルーナ先生が顔をしかめた。
「タチが悪い」
心底嫌そうだ。
黒丸師匠は、腕を組み考えている。
結構、真面目なのだ。
「それは……王政の方が良いのである。貴族や民衆から支持を得られない王は、やがて退場するのである。暴政をしけば、反乱もあり得るのである」
「そうですね。王政では、ある程度の新陳代謝はありますから……」
黒丸師匠の話に同意しつつ、俺は違うことを考えていた。
恐らく、間違っていないだろう。
「ただ、一つハッキリしたことがあります。転生者がいますね。ミスルに!」
「やはり、そうであるか」
「ええ。共産主義革命を起こそうとしているのは、転生者でしょう」
共産主義が登場するのは、産業革命が起った後だ。
都市部に工場が作られるようになり、工場労働者が現れる。
そこで産まれるのが、共産主義思想だ。
この異世界では、都市部の労働者はそれほど多くない。
大規模な工場はなく、ホレックのおっちゃんがやっているような個人商店レベルの『工房』だ。
そんな世界に、突然、共産主義だの、革命だの、不自然すぎる。
転生者が、共産主義思想を持ち込んだ。
――と考える方が自然だ。
転生者と聞いて、ルーナ先生が殺気をみなぎらせた。
「転生者……ハジメマツバヤシ……エルフの敵!」
「まだ、どんなヤツか、わからないですけどね」
まだまだ、安定しそうにない。
俺は、まだ見ぬ転生者を思った。
どんなヤツなのだろうか?
だが、俺の国に手を出してくれば、容赦はしない。
俺は、この世界で守らなくちゃならない物が、沢山あるのだから。
帰ってきたが……。
「その素っ裸の男二人は?」
「お土産」
「遠慮なく受け取るのである」
ルーナ先生と黒丸師匠は、縄で縛った全裸の男二人を引きずっていた。
なぜか局部が赤く腫れていて、『カユイ! カユイ!』と悲鳴を上げている。
お土産といわれてもなあ……。
BL趣味はないぞ。
俺が顔をしかめると、ルーナ先生と黒丸師匠がゲラゲラ笑い出した。
「アンジェロ、顔が面白い」
「そんなに裸の男は嫌であるか?」
「嫌に決まっているでしょう!」
「じゃあ、早く、私と結婚する」
「そうであるな。ルーナに添い寝してもらうである」
まったく、俺の師匠二人は、ろくなことを言わない。
「こいつらは、奴隷狩りをしていた連中である。サソリ固めの刑にして尋問したのである」
「サソリ固めの刑が、何なのかは聞かないでおきます……」
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聞けば、耳が腐る。
俺は兵士を呼んで全裸の男二人を引き渡した。
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何だろう?
「あいつらは変なことを言うのである。それで、先にアンジェロ少年の所にきたのである」
「変なこと?」
「アンジェロ少年は、カクメイを知っているであるか?」
黒丸師匠が、発音しづらそうに『カクメイ』と日本語を話した。
これは……!
「ええ。わかりますよ。革命は、俺が転生する前の世界にあった言葉です」
「やはりであるか! あいつらは、それである!」
「えっ!? どういうことですか!?」
突然の革命騒ぎに驚く。
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この場合の革命とは――。
「それは、左翼とか、共産主義ってヤツですね」
「左の翼であるか?」
「ぎょーさんしゅぎ?」
「ぎょーさんではありません。共産です」
「それは、どんな物であるか?」
黒丸師匠に質問されたが、上手く答えられない。
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だから、教科書で習ったことや、動画サイトの歴史まとめ動画で見た程度の知識しかない。
ゆっくりソ連崩壊とか、その類いだ。
それでも、何とか前世の知識を整理して説明を試みてみた。
「えーと、俺がいた世界で過去にあった政治体制ですね」
「ふむ……。過去にあったということは、古い政治体制なのであるか?」
「そう……ですね……。正確には、俺が転生する前でも、いくつか共産主義国が残っていましたけど……。上手くいってなかったですね」
「欠陥のある政治制度であるか?」
「そうですね……。これは転生前の世界で祖父から聞いた話なのですが――」
俺は転生前の日本で、祖父から聞いた話をルーナ先生と黒丸師匠に披露した。
祖父は、共産主義国に旅行する機会があったそうだ。
ところが、ホテルでも、お店でも、サービスが悪く、店員の態度が最悪だったらしい。
「買い物をしてお釣りを渡す時に、投げるそうです」
「投げる? コインを?」
「なぜであるか? 普通に渡せば良いのである?」
ルーナ先生と黒丸師匠は、俺の話を不思議がっている。
この異世界のサービスレベルは、日本ほどではない。
それでも、お店のおばちゃんは笑顔で『いらっしゃい!』と言うし、買い物をすれば『ありがとう』とか『また、頼むぜ!』とか、最低限の挨拶は交す。
恐らく日本人が、この異世界に旅行したとしても、困らないレベル、気分を害さないレベルで、接客やサービスが行われている。
だから、『お釣りを投げて寄越す』、共産主義のサービスレベルは、想像がつかないのだろう。
俺も経験したわけではないので、あくまで想像だが……。
「祖父いわく『競争がないから、サービスが悪くなる。客を客と思わなくなる』そうです」
「えっ……? お客さんは、お客さん……」
「ルーナのいう通りである。客は、客である」
「いや! ですから!」
説明が非常に難しい。
俺は大雑把な説明を行う事にした。
・私有財産がない。
・一生懸命働いても、ダラダラ働いても給料は一緒。
・商会は国営のみ。
・国が生産計画や商売の計画を立てる。
俺が説明をする度に、ルーナ先生と黒丸師匠の困惑はひどくなっていった。
「よくわからない。アンジェロの説明によれば、ぎょーさんしゅぎでは、働いたら負けってこと?」
「ルーナ先生。働かないと、国によって強制的に働かされます。シベリア送りとか」
「シベリア?」
「北の方にあるとても寒い地方です。そこで鉱山を掘ったり、森を切り開いたり、キツイ仕事をさせられます」
「んー。アンジェロが北部王領に追放されたのと、ちょっと似ている」
「ぐわははは! アンジェロ少年は、シベリア送りのぎょーさん主義者である!」
黒丸師匠が訳の分からないところで、ツボにはまって笑い出した。
はあ……。
スターリンとか、同志とか、ネット上のネタの一つだったからな。
まさか、異世界で共産主義に出会うとは……。
黒丸師匠が、やっと笑い終わった。
「それで、アンジェロ少年。彼らは、労働者の国を作ると言っていたのであるが?」
「ええ。共産主義の建前としては、労働者――つまり農民などの平民ですね。労働者の代表が政治を動かすそうです。だから、労働者の国だという訳です」
「建前であるか?」
「ええ。建前です」
最初に共産主義を考えた人が、どう思ったのかは知らない。
だが、二十世紀に現れた共産主義国では、独裁が行われた。
秘密警察や密告が横行した国もあったそうだ。
まあ、全部、まとめ動画の知識だけれど。
「じゃあ、実際の所は、どうであるか?」
「実際は、幹部……えーと、共産主義運動を主導した人たちが、権力もお金も握ります。幹部が政治を動かし、全ての物事を決めます。労働者の国ではないですね」
「ふむ……。まあ、そんなことだろうと思ったのである。王政と同じであるな」
「いえ。王政よりも悪いです」
「なぜであるか?」
共産主義には、権力を独占する根拠がないのだ。
建前上は、労働者の代表だからとか、イロイロあるのだろうけれど。
実際は、一部の幹部や代表者による独裁政治だ。
王政や貴族制も、一種の独裁ではあるが、そこには『血統』という根拠がある。
根拠があるから、王や貴族は自分の権力を維持するにあたって無理をする必要がない。
共産主義で個人の独裁をやるには、根拠がない。
だって、本来、国のトップは労働者の代表なのだから、入れかわりがあって当然だ。
本来は個人で独裁は出来ないし、権力を子供に譲り渡すこともおかしいのだ。
だから、共産主義において個人が独裁政治を行うと、民衆を締め付ける。
自分の権力を守る為に、政敵を処刑し、自分の悪口を民衆に言わせないように情報統制を行う。
「――らしいです」
俺の説明が終わると、ルーナ先生が顔をしかめた。
「タチが悪い」
心底嫌そうだ。
黒丸師匠は、腕を組み考えている。
結構、真面目なのだ。
「それは……王政の方が良いのである。貴族や民衆から支持を得られない王は、やがて退場するのである。暴政をしけば、反乱もあり得るのである」
「そうですね。王政では、ある程度の新陳代謝はありますから……」
黒丸師匠の話に同意しつつ、俺は違うことを考えていた。
恐らく、間違っていないだろう。
「ただ、一つハッキリしたことがあります。転生者がいますね。ミスルに!」
「やはり、そうであるか」
「ええ。共産主義革命を起こそうとしているのは、転生者でしょう」
共産主義が登場するのは、産業革命が起った後だ。
都市部に工場が作られるようになり、工場労働者が現れる。
そこで産まれるのが、共産主義思想だ。
この異世界では、都市部の労働者はそれほど多くない。
大規模な工場はなく、ホレックのおっちゃんがやっているような個人商店レベルの『工房』だ。
そんな世界に、突然、共産主義だの、革命だの、不自然すぎる。
転生者が、共産主義思想を持ち込んだ。
――と考える方が自然だ。
転生者と聞いて、ルーナ先生が殺気をみなぎらせた。
「転生者……ハジメマツバヤシ……エルフの敵!」
「まだ、どんなヤツか、わからないですけどね」
まだまだ、安定しそうにない。
俺は、まだ見ぬ転生者を思った。
どんなヤツなのだろうか?
だが、俺の国に手を出してくれば、容赦はしない。
俺は、この世界で守らなくちゃならない物が、沢山あるのだから。
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