追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

文字の大きさ
316 / 358
第十一章 文明開化

第316話 尻に敷かれる俺の人生

しおりを挟む
 フォーワ辺境伯から側室の話があったと告げると、アリーさんの雰囲気が一変した。
 六月なのに部屋の中は、零下の寒さだ。

 おかしいな。
 アリーさんは魔法使いじゃないのに。

「それがしは、冒険者ギルドの様子を見てくるのである!」

 黒丸師匠が、逃げ出した!

「しまった! 情報部との打ち合わせの時間でした。では、これで!」

 じいも、逃げ出した!

「あー、お腹が空いた! みんなのお昼を作ってくる!」

 ルーナ先生も、逃げ出した!

「ちょっと! みんな! あ~!」

 なんという逃げ足の速さ!
 部屋に残されたのは、俺とアリーさんだけ……。

 いや! 他にもいた!
 アリーさんの護衛の猫族が、自由気ままに部屋のあちこちでごろ寝している。

 ――さてはオマエらが、どこかで聞きつけて、アリーさんにチクったな!

 俺が猫族の一人をにらむと、猫族が一斉に非難の鳴き声を上げた。

「にゃ~!」
「にゃ~!」
「にゃ~!」
「にゃ~!」
「にゃ~!」

「わかった! わかった! ちゃんと話すから!」

 俺は、フォーワ辺境伯の話を、アリーさんに報告し始めた。
 浮気したわけでもないのに、なんで俺がこんなに追い詰められるの?


 *


 スターリンがヴィスに討ち取られたことで、俺は戦争の終結を宣言した。

 俺とじいは、ドクロザワで後処理の指示を出しながら、次々と軍を解散させる。

 軍は大飯ぐらいだ。

 毎日の食事。
 兵士に払う給料。
 兵士の娯楽となる酒などの嗜好品。
 矢など消耗した武器の補充。
 騎馬隊の軍馬が食べる糧秣。
 魔道具に使う魔石。
 などなど……。

 早く軍を解散させないと、俺は破産してしまう。

 治安維持に必要な最低限の戦力を除いて、各地から馳せ参じてくれた騎士・兵士の皆さんには、順次お帰りをいただいている。

 ありがとう!
 君たちの勇姿を忘れない!

 俺は、次々と友軍が故郷へ帰っていくのを見送った。

 そんな中、俺の大天幕にギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯が、帰郷する挨拶にやって来た。
 二人は旧メロビクス王大国貴族たちを、よくまとめてくれている。
 俺の強力な与党だ。

 形式的な挨拶と事務的な確認が終ると、二人から『軽便鉄道を買い取りたい』と申し出があった。

「軽便鉄道ですか……。売れなくもないですが、高いですよ?」

「婿殿。もちろん、それ相応の対価は支払うよ」

「まあ、最新鋭の設備ですからな。仕方ないでしょう。それと、あの飛行機……。そろそろ我らにも配備していただきたい」

「そうだな。婿殿。兄君のアルドギスル陛下は、専用のグースをお持ちと聞くが?」

「あれはレンタルです。買えば高いですよ? ミスリルを使っていますし、羽根はワイバーンの翼ですから」

「「それでも欲しい!」」

 ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯は、この戦争の勝ち組だ。

 二人とも小麦などの食料をかき集めて、軍に売却し莫大な利益を上げた。
 ギュイーズ侯爵など、領都の港で食料を荷揚げして、軽便鉄道で内陸部まで輸送したのだ。

 軽便鉄道と異世界飛行機グースを買い上げても、二人の財布は余裕だろう。

「婿殿。そういえば、シメイ伯爵も飛行機を欲しがっていたぞ」

「シメイ伯爵が?」

「彼の領地は山間部なので、空から領内の見回りが出来れば便利だと言っていた」

「なるほど」

 シメイ伯爵も勝ち組だ。
 あそこは領民が出稼ぎ感覚で参陣してくれるし、戦いにも慣れている。
 何気に頼もしい。

 襲いかかってきた敵兵を、料理をしていたおばちゃんたちが、鍋の蓋でぶっ叩きノックアウトしているのを見た。

 南部騎士団とあだ名されたのは、伊達ではない。

 シメイ伯爵は、領地から木材と魔物の肉を運び入れて一稼ぎした。
 木材は陣地構築や士官や兵士の仮宿舎を建てる為、大量に必要とされたのだ。

 馬型の魔物が牽引する大型の馬車が、次々にシメイ街道を下って前線に木材を運ぶ光景は、なかなか壮観だった。

 それに魔物の肉が、兵士たちに大人気だった。
 シメイ伯爵自ら鉄板焼きの屋台を出して、商売していたからな。
 チャリチャリ稼いで、武闘派に見えてしっかりしたオヤジだ。

「それと、婿殿。奥向きの話を、よいかな?」

「奥向きですか?」

「うむ」

 話題が変わり、ギュイーズ侯爵がフォーワ辺境伯に目配せした。
 フォーワ辺境伯が、しゃっちょこばる。

「えー……、ゴホン! アンジェロ総長陛下にお願いがございます。我がフォーワ辺境伯家から、側室をお召し上げ下さい」

「側室ですか……?」

 ギュイーズ侯爵を見ると、無表情にうなずいた。
 ギュイーズ侯爵は、俺の婚約者であるアリーさんの祖父だ。

 俺の後ろに控えていたじいが、話に割って入った。

「突然のお話で、アンジェロ様も困惑しておいでです。もう少し詳しい事情をお聞かせ下さい」

「うむ……。実はですな……」

 フォーワ辺境伯が、長々と事情を話した。
 要約すると――。

 ・派閥内(寄親寄子)から、婚姻政策を求められている。

 ・旧メロビクス王大国貴族の気持ちを考えるとギュイーズ侯爵とのバランスを取った方が良い。

 ・自分も総長(俺)と親戚になりたい。

 ――と、いう理由だ。

 なるほどな。
 アルドギスル兄上と俺は異母兄弟。
 ギュイーズ侯爵と俺は、将来義理の祖父と孫。
 有力者であるフォーワ辺境伯が、俺と縁を結びたいと思うのは当然のことか……。

 それに北部――つまりギュイーズ侯爵派閥の力が突出してしまうのは、南部――フォーワ辺境伯派閥としては、面白くないのだろう。

 じいも納得したようだ。
 話を進める方向でフォーワ辺境伯に確認をし始めた。

「それでしたら一度検討をいたしましょう。しかし、フォーワ辺境伯殿に年頃の娘はおらんでしょう?」

「ええ。ですので、分家から年頃の娘を養子にとろうかと」

「なるほど。それなら側室で釣り合いがとれますな。ギュイーズ侯爵殿は、よろしいので?」

「まあ、側室なら構わんよ」

 大人同士で、ドンドン話が進んでいる。
 俺も希望を伝えておこう。

「フォーワ辺境伯。出来るだけ優秀な子を寄越して下さい」

 俺の婚約者はみんな優秀だ。
 アリーさんは、政治家、行政官として活躍し、ルーナ先生は魔法、白狼族のサラは特殊部隊を率いている。

 出来れば内政寄りの人材が欲しい。

 だが、俺の希望を聞いたフォーワ辺境伯は、キョトンとしている。

「優秀……ですか? アンジェロ陛下の側室の話ですが?」

「ええ。側室の話をしていますが?」

「あの……、下世話な申しようで恐縮ですが……。普通は、美しい娘がよいとか、胸が大きい娘がよいとか、そういう希望が出てくるモノですが?」

「そうなのですか? ウチの婚約者は優秀で、みんな働き者ですよ。後宮のお飾りはいりません。実戦型を送って下さい」

「……」

 どうやら俺の希望は、一般的な側室探しからは乖離していたようだ。
 それに俺の婚約者は三人とも美人だからな。
 美人は間に合っている。

 こうして、ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯は領地へ帰っていった。


 *


「――という訳です」

 俺は、側室取りの経緯を正直にアリーさんに話した。
 特に『美人は間に合っている』という俺の気持ちを強調して伝えたのだ。

「美人とは誰のことですの?」

「もちろんアリーさんですよ! 僕の女神!」

「まあ!」

 片膝をついた芝居がかったポーズで、クサイセリフを決めたのが功を奏した。
 アリーさんの笑顔が、パッと明るくなった。

 後ろで猫族が『ニャー! ニャー!』と冷やかしているが無視だ。

「事情はわかりました。正式な回答は、まだ、ですのね?」

「そうです。アリーさんが嫌なら断りますよ?」

「いえ。フォーワ辺境伯様のご希望通りに、側室を受け入れて下さい。国内貴族のバランスを考えると、受け入れた方がよろしいでしょう。今は安定が必要ですわ」

 アリーさんの顔が政治家の顔に変わった。
 こういう所は、さすが大物貴族の出身だ。

「ただし、私との結婚式の後にしていただきたいですわ」

「もちろん!」

「それから人族の正室は、私だけにするとお約束ください」

「なるほど……」

 ああ、それで急に俺のことを『あなた』と呼び出したのか。
 アリーさんは、グンマー連合王国における自分の立場を、確立させたいのだ。

 俺が現在の婚約者と結婚すると――。

 ・人族の正室:アリーさん
 ・エルフの正室:ルーナ先生
 ・獣人の正室:サラ

 ――となる。

「それは……。別種族の正室はいても構わないが、同種族である人族の正室は自分一人にしないと争いが起る……。ということですか?」

 アリーさんは、ニコリと笑った。

「理解のある婚約者を得て、私は幸せ者ですわ」

 こうしてフォーワ辺境伯から側室を娶る件は、アリーさんのお許しが出た。
 俺は尻に敷かれる人生を送るのだなと理解したのだった。
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...