ラブコメを嫌いになった俺が気づいたらラブコメしてた件。

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永岡梨紗の憂鬱

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 私の名前は永岡梨紗ながおかりさ15歳。今日は第一高校の入学式だ。

 私はこの日を待っていた。

 私は今日から所謂"高校デビュー"をする。真白のキャンパスのようだった爪にはピンク色のマニキュアを塗り、スカートを短くし、黒色のカラーコンタクトをつけ、家を出た。

 私が県外にある、第一高校に通う理由は一つ。
 遠いからだ

 私の家から駅まで十分ほど歩き、電車に二十分ほど揺られたあと、徒歩で15分もかかる。

 登下校だけで二時間近くかかる。

 なぜ遠い方がいいかって?

 そんなの決まっている。同じ中学校の人が行かないからだ。

 私は中学生の時、同じクラスの女子からいじめをうけていた。

 ☆

 私の名前は永岡梨紗。今は13歳の中学一年生。

 インキャな私でもクラスに友達が数人でき、楽しい毎日を過ごしている。

 そんな私の楽しい日常が壊れる日がやってきた。

 あれはまだ暑さが残っている秋の頃、私の下駄箱に一通の手紙が入っていた。

 差出人の名前は書いてなかったので誰だかわからないが、今日の放課後に三階の空き教室に来て欲しいとのことだ。

 授業が終わり、放課後となったので私は三階の空き教室に足を運んだ。空き教室には秋の夕暮れ時の紅い日差しが差し込んでいる。

 教室の中には一人の男がいた。その人のことは誰かわからないが、名札の色を見れば一つ上の先輩だとわかった。

「永岡さん。まずは来てくれてありがとう」

 その男は私と同じ金髪で背が高く、耳にはピアスがついていて、制服のボタンは全て外れている。

「は、はい。別に用事がなかったので大丈夫ですよ」

「永岡さんって今、付き合ってる人とかいる?」

 私は鈍感ではない。ここまで来れば大体のことはわかる。今から私はこの見ず知らずの男に告白されるのだ。

「いないですけど、それがどうかしましたか?」

「そ、そうなんだ。可愛いからいると思ってたよ」

 いると思ってるなら呼び出すなや。と思ったのは口にせず、心の中に留めておいた。

「永岡さん、俺と付き合ってください!永岡さんに一目惚れしました!」

 了承するなら手を握れということなのか、男は頭を下げながら手を前に出してきた。

 一目惚れで好きになれば相手の欠点が目につく。逆に一目惚れ以外で好きになれば相手の長所に目がつく。

 だから私は一目惚れが嫌いだ。

 だから私は嘘をついた。

「ごめんなさい。私、好きな人がいて今はその人に夢中なので、あなたとは付き合えません」

 こう言えば男は納得するだろうと思った。小学校の時から何度か同じシチュエーションに遭っているので、想定済みだ。

「そっか。永岡さんには好きな人がいるんだな。だったら仕方がないな、俺もその恋応援してるぜ!」

 男は落ち込んだと思ったら、逆に私恋を応援してきた。まあ恋なんてしていないが。

「すみません。私も先輩の新たな出会いを祈ってますからね!」

「おう!俺も呼び出して悪かったな」

 見た目によらずいい男だなと思った。この人ならすぐに私よりいい人と出会えるだろう。

 次の日、学校に行くと全てが変わっていた。

「おはようー」

 クラスにいる数人の友達は私の挨拶に反応せず、逆に蔑むような目で私を見てきた。

 そんな中、一人だけ挨拶を返してくる女子生徒がいた。

「永岡さん、おはよう」

「あ、日和ちゃん、おはよう」

 私に話しかけてきたのは中山日和なかやまひより。クラスの中心人物で、私はあまり関わらなかった。

 その日から日和を中心にするグループからのいじめが始まった。男子はいじめに加わることはなかったが、無視された。

「ちょっと可愛いからって調子になるんじゃないわよ!」

 おそらく日和は昨日告白してきた先輩のことが好きだったのだろう。それしか原因がない。

 いじめられるのはたいして苦しくなかった。私には心の拠り所があるからだ。

 それは"少年マンガ"だ。私は小学生になるまでイギリスに住んでいた。その時お母さんから、日本語の勉強になるから読んでみなと渡されたのが"少年マンガ"との出会いだった。

 "少年マンガ"に魅力はたくさんある。どんな状況でも打破する主人公。どんなピンチの時でも見捨てない仲間思いの登場人物。それぞれの正義を貫く。そして面白い。

 私は"少年マンガ"の魅力に取り憑かれた。なかでも一番惹かれたのは"主人公"だ。仲間意識が一番高く、日々成長していき、弱い人にも手を差し伸べる姿は憧れそのものだった。

 学校ではいじめられ、家に帰って"少年マンガ"を読む生活が一年ほど続いた。

 ある日私はあの空き教室に来いと日和に言われた。いつものことだからまたいじめだろうと思い行くと、空き教室には日和ふくめ五人いた。

 日和が四人に命令を出す。

「そいつをそこに寝かせて押さえておけ」

 私は抵抗しても無駄だと思い、自分から六つ並べられた机の上に寝た。

 両手、両足を抑えられ、日和が頭の方に来た。

「今からその"気持ち悪い目"を黒色にしてやるよ」

 日和の手には黒色の油性ペンが握られていた。
 そのペン先がだんだんと大きくなっていく。

 今までいじめは我慢していたがこれだけは嫌だった。

 私の個性がなくなってしまうと思った。

「や、やめて、だれか助けてー!」

 私は必死に叫ぶが三階の空き教室なので、誰かに聞こえることはなかった。

 私は抵抗するが、抑えられて動けなかった。

「黙ってたら片目だけにしといてやるよけどどうする?」

 日和は笑っていた。

 私の右手を抑えている女が日和に話しかけた。

「中山さん、本当にこんなことしていいの?バレたら推薦取り消しされちゃうよ」

 日和の顔を見ると笑顔から苦虫を潰したような顔になっていた。

「確かにそうだな。お前ら今日は帰るぞ!」

 日和が教室から出ていくと、他の四人もそれに続いた。

 右手を抑えていた女は残っていた。

「ごめんね梨紗ちゃん。助けられなくて」 

 そう言い残し、女も出て行った。

 あの女、否あの少女は私がいじめられる前まで一番仲良くしていたクラスメイトだった。

 いじめなんてそんなもんだ。自分が標的にならない為にはいじめる側になるか傍観者を貫かなければならない。助かると次のターゲットは自分になるとわかっているから誰も助けない。

 先生は見ているだけもいじめと一緒と言うが、綺麗事に過ぎない。

 助ける人がいるとすれば、それは"少年マンガ"の主人公だけだ。

 この日以降、私は学校には行かなくなった。所謂不登校だ。お母さんたちは心配してくれたが、高校から通うと言ったら少し安心してくれた。

 学校側も私がいじめられていたのはわかっていたらしく、日和を中心とした何人かは停学処分となった。

 ☆

 だから私は第一高校に入学した。幸いなことにあの中学校の生徒は一人もいなかった。

 入学式が終わり、各クラスで自己紹介の時間となった。

 私たちの担任は背が低い女の先生となった。

 私はあの日以降、女子と話したりする事が苦手となり、つい敬語で話してしまう。だから最初は男子にすべきと考えたが、それはそれでハードルが高いので女子にすることにした。

 私の右の席に座っている男子はいかにもヨウキャというかんじの男子で話かけにくい。

 左側に座っている男子は陰のオーラを放っている。

 もし最初に男子と話すのならこの人にしようと思った。

 ☆

「それでは一通り自己紹介が終わりましたが下校する前に、二組のクラス委員を男女一人づつ決めないといけませーん。やりたい人は挙手してくださーい」

 自己紹介も終わり、下校だと思ったがクラス委員を決めるらしい。

 私やこの左に座っている男子のような陰の者には無縁の話だから帰らせて欲しいと思った。

 すると左側から声が聞こえた。

「ぼく、やります」

 私は驚いた。クラス委員のような役はカーストトップに君臨する陽の者がやると思っていた。

 彼の方を見ると前の席の男子と会話をしていた。

「なんでクラス委員になったんだ?めんどくさがって、やらないと思ってたのに。そんな柄じゃないだろ」

「高校デビューってやつだよ。今日からそんな柄になったんだ」

「けど髪の毛染めてないし、イケメンにもなってないぞ」

「創也、外見が変わるのは三流だぞ。内面だけが変わるのが一流なんだ」

「それ絶対に嘘だろ。聞いたことすらないぞ」

「クラス委員になって早々私語をしないでください」

「はい。すみませんでした」

 どうやら彼も"高校デビュー"をしたらしい。それは外面ではなく内面で。

「二組のクラス委員は西谷君と矢島さんに決まりましたー。今日はもう終わりでーす。みなさーん気をつけて下校してくださーい」

 解散となり、クラスのみんなは近くの席の人と話し始めている。おそらく第一高校は色々な中学校の人が集まっているからだろう。

 私も誰かと話そうと思ったが、一人でいる女子は誰もいなかった。

 だから私は今も一人でいる左の彼に話しかけた。

 確か自己紹介の時に西谷なんとか、って言ってたような。

「西谷君ちょっといいかな?」

「西谷君に相談したいことがあるんだけど、ちょっとだけ時間もらえるかな?」

 私は勇気をふり絞って話しかけた。話すきっかけが欲しかったので''相談''という形にしておいた。

「ごめん永岡さん。先約があるから明日でもいいかな?」

 が、あっさりと断られた。

「私こそ、ごめんね西谷君の予定も気にせずに聞いちゃって」

「そんなことないよ。これからも隣の席同士、気軽に話しかけてくれると嬉しいな」

 西谷君ってもしかしてナンパ師かなにかなのかな?

「あ、ありがとう。じゃあ明日からよ、よろしくな!」

 私は"高校デビュー"をすると決めた時にあることを決めた。

 それは"少年マンガ"の主人公のがよく使う言葉を使うこと。そうすれば自然と友達ができると考えたからだ。

 だが実際に言ってみるととても恥ずかしい。

 私は思わずその場から走り去ってしまった。

「え?ちょ、待って……」

 西谷君は何か言ってるようだが、私はなりふり構わず遠くまで走った。

「永岡さん!廊下は走っちゃダメですよ」

 私に注意してきたのは若月先生だった。

「すみません。ちょっと急いで帰らないといけないので」

 私はとっさに嘘をついた。

「嘘はダメですよ。鞄持ってないのにどうやって帰るんですか?」

 私の嘘は簡単に見破られた。見破られたというより私に落ち度があった。

「なにか悩んでいることがあるんですか?あったら私にいつでも相談してください。"絶対"になんとかしますから」

 私は"絶対"という言葉に惹かれた。この人の言う"絶対"は他の人とは違うと思った。

 だから私は相談しようと思った。中学時代は私は先生に相談のようなことを一切しなかった。

 これも"高校デビュー"の一環としてやってみよう。

「先生、相談したいことがあるんですけど、いま時間ありますか?」

「ありますよ。それじゃあ職員室で話をしましょうか」

 その後職員室に行き、私は中学時代にいじめられていたこと、友達が欲しいことを話した。

「わかりました。では明日の朝もう一度ここに来てください。その時までに解決策を用意しときます」

 そう言った若月先生は職員室を出て行った。

 することがなくなった私は帰ることにした。

 ☆

「失礼します。若月先生はいらっしゃいますか?」

 次の朝、私は言われた通り職員室に行った。

「永岡さん、待ってましたよ」

 若月先生が手を振ってきた。

「それで私はどうすればいいのでしょうか」

「『今日の放課後に図書準備室に行けば悩みを解決する"適任"が待ってるよ』って校長先生が言ってたから、行ってみてね」

 なんで校長先生が出てきたのだろう。まあ"適任"がいるのなら行ってみようかな。

 授業が四限まで終わり、昼休みとなった。

「永岡さん。昨日言ってた話したいことって今からでもいいかな?」

 そういえば昨日西谷君に話したいことがあるって言ってたんだ。

「あ、その件ならもう大丈夫です。若月先生に聞いたら''適任''がいると教えてもらったので。色々とすみません」

 "少年マンガ"のセリフを使おうと意識していたら男子にまで敬語になってしまった。

 西谷君は前の席の男子と食堂に行ってしまった。

 この高校には昼ごはんの選択肢が食堂しかないのが欠点だ。

 ぼっちの私には不親切だ。

 そんなことわわ考えながら私は一人で食堂に行き、一人で食べ、一人で教室に帰ってきた。

 ☆

 五、六限の授業を終え放課後となったので私は図書準備室に行こうとし、教室を出た。

 出るまでは良かったが、肝心の図書準備室がどこにあるかわからない。

 仕方なく、歩いて探すことにした。

 歩き始めて少しした時、西谷君と矢島さん?が反対側を歩いている。

 もしかしたら図書準備室の場所を知っているかもと思い私は話しかけとうとしたが、喉で言葉が詰まってしまった。

 ここで諦めるわけにはいかないと思い、私は矢島さん?に話しかけることにした。

「あ、あの、矢島さん。と、図書室の場所って知ってますか?」

 図書準備室とはいいづらいので図書室を探しているということにしておいた。

「永岡さんも図書室の場所知りたいの?実は私たちも図書室の場所探してるんだ。だから一緒に探さない?」

 どうやら名前はあっていたらしい。クラス委員になっていたから覚えていてよかった。

「あ、西谷君もいたんだ。二人がいいって言うならよ、よろしく頼むぜ!」

 今度はしっかりと言えた。西谷君相手ならもう言えそうだ。

 ☆

「なんで永岡さんは図書室を探してるの?」

 西谷君に質問されたが流石に"適任"と待ち合わせをしているとは言いづらいので"適任"は伏せておくことにした。

「実は人と会う約束をしていて、待ち合わせ場所が図書室の近くだから、だ、だぜ!」

 今回もしっかりと言うことができたが、西谷君は困ったような顔をしている。

 私はここでチャレンジすることにした。目標は女子にタメ口で話すこと。あわよくば主人公のセリフも使うこと。

「や、矢島さんたちはなんで図書室を探してるんですか?」

 失敗した。やっぱり私には無理なのだろうか……

「永岡さんに似たような感じかな。私たちも待ち合わせしてるんだ」

 看板が見えてきたので図書室に着くようだ。

「永岡さん、また明日。私たち準備室の方で待ち合わせしてたから」

 え?西谷君たちも準備室に用があるの……

「わ、私も準備室で待ち合わせをし、してるぜ!」

 西谷くん相手ならもう余裕で使えるようになったがまた西谷君は困ったような顔をしている。

「そっか、じゃあ一緒に行こうか」

 結局、私たち三人で図書準備室に行くこととなった。

 扉の前まで着いたので、西谷君がノックをすることになった。

 コンコンコンコン

 どうやら西谷君はノックを四回するらしい。

「どうぞ。早く入ってきて」

 準備室の中から男の人の声が聞こえてきた。その声はどこかで聞いたことがあるが、誰の声かはわからない。

「「「失礼します」」」

 図書準備室の中はその名の通り本が沢山置いてあった。本棚の中に綺麗に収納されているものや、隅の方に無造作に置かれているものまで様々だ。

 部屋の中央には長机とパイプ椅子があり、一人だけ座っている人がいた。

「遅いよ二人とも。僕の方が早いだなんて思ってなかったよ。それと、横にいる君は永岡さんかな?」

 声の主は校長先生だった。どうやら''適任''とは校長先生のことだった。

 けれどもこの一言に私は疑問を持った。

 ''なんで西谷君と矢島さんの事を''遅い''だなんていうの?''

「それで相談者はどこにいるの?もしかして栄輔伯父さん?」

 西谷君の発言の意味が私にはさっぱりわからない。

「どこって、宏樹の横にいるじゃないか」

 校長先生のその一言で私は全てがわかった。

 若月先生から伝えられた''適任''というのは校長先生ではなく、西谷君と矢島さんだと。

「もしかして永岡さんが相談者?」
「もしかして西谷君と矢島さんが相談の''適任''ってことですか?」

 どうやら西谷君もわかったらしい。もう憶測から確信に変わった。

「その顔を見ると説明しなくても良さそうだね。じゃあ僕は出て行くから、後は若い人どうしでごゆっくり」

 校長先生はその一言を残し、私と西谷君の間を抜けて部屋から出て行った。

「ねえ宏樹、どういうこと?」

 矢島さんはまだこの状況を理解できていないらしい。

「つまりだな、俺たちの"初めての相談者"は永岡さんだ」
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