恋文配達人

ときしろ めぐみ

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 しばらくすると下校を促す放送委員のアナウンスが音楽とともに廊下の方から聞こえた。伝子はトイレから出て、洗面所でくしゃくしゃになった顔を洗い、教室に戻った。すると、真穂が窓際にたたずみ、開けた窓から入ってくる風に黒髪を遊ばせて待っていた。差しこむ夕日に逆光になっていて真穂の表情はよく分からないが、苦い薬を飲まされた時のような顔でちょっとすまなそうにしているようだった。
「ごめんね、伝子」
 突然真穂が謝る。
「え……? な、なんで真穂ちゃんが謝るの? 真穂ちゃんは何も悪いことしてないよ」
 と、さっきまで泣いていたのを悟られないようにわざと明るくふるまう。
「ううん、とりあえず謝らせて。……実はね……」
「実は?」
 教室に飾られた花が風でかすかに揺れる。
「実は、ボールぶつけたの私なんだ」
「え……?」
 真穂はそう告白した瞬間、さっきまでの神妙な態度を一変させ、いつもの軽い口調に戻した。
「いやー、なかなか裕二のところに出て行かないからさぁ、体育館で練習していたバレー部から一個拝借してつい投げちゃった。ごめんね、ケガはない?」
 そう言って真穂は伝子に近寄り、やわらかで、ややくせっ毛の伝子の髪をくしゃくしゃしながらナデナデする。
「じゃ……じゃあ、一部始終見てたんですか?」
 真穂は人間を化かして楽しんでいるキツネのような顔になり、
「うん、一部始終。いやー、なかなかいいもの見せてもらったよ」
 伝子はそれを聞いて一瞬あっけにとられるが、すぐに涙の貯水槽があふれそうになる。
「ひ……ひどいです! うぅ……真穂ちゃんなんか、真穂ちゃんなんか大嫌いですーーーっ!」
 伝子は涙声でそう叫ぶと、机の横に下げていた鞄をひっつかんで一目散に教室を後にした。
「あ……ちょっと待ってよ、伝子」
 教室に一人残される真穂。頬を指でかきながら、「ちょ~っとやりすぎちゃったかな?」とつぶやいた。しかし、大して反省はしていないようだった。
「フフ……本当のお楽しみは、これから、これから」
 真穂は意味深な笑みを浮かべ、校門に向かい走っていく伝子の小さな姿を窓から眺めていた。
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