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鶏を買ったら……知り合いが増えた。
負けるわけにはいかない
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「まぁ、わからないならいいか。さてと、角ウサギを狩って僕達も朝食にしよう」
僕は角ウサギ二羽をさっと狩って家まで戻る。
ルパが焚火をすでに起こしており、肉を焼いていた。
「ルパは焚火を起こせたの?」
「石と石をぶつけあって火花を散らせばつく」
「火打ち石か……。でも、火の子が出る石なんてあった?」
「落ちてる石をぶつけ合ったら、火花が出た」
「そんな偶然もあるんだね」
僕は一羽の角ウサギをプルスの前に置く。もう一羽を解体して遠火で焼いた。
「ニクス、肉を食べたら戦う」
ルパは綺麗に焼けた角ウサギを僕に見せながら宣言してきた。
「うん。わかってるよ。今日は食べ過ぎないようにね」
「わかってる。今日の体調、万全。力も湧いてきてる。今日でニクスを殺して私は人里に向う。そこで皆殺しにしてから私も死ぬ」
「何でそんなに死にたいのかわからないけど、ルパに人殺しさせるわけにはいかないから、僕は死ねないな」
「ハグ……、ハグ……」
ルパは角ウサギの肉を頬張り、英気を養った。僕も焼き終わった肉を食べて活力を得る。
「うん、胡椒も合う。ほんと、角ウサギの肉が取れるようになってありがたいな。食べるたびに角と皮が取れるから、そのぶんお金も稼げるという素晴らしい魔物だよ」
「ん……」
ルパは僕に肉を差し出してきた。どうやら胡椒をふってほしいらしい。
僕はルパの持っている肉に胡椒を少しふってあげる。
「はっくしゅ……」
ルパは胡椒の匂いを嗅ぎ、大きくくしゃみをした。鼻をすすり、肉に食いつく。美味しかったらしく、尻尾を揺らす。
「美味しい?」
「ふ、普通……」
「そう、尻尾が凄い揺れてるけど、味が普通でも揺れるの?」
ルパは自分の尻尾がブンブン揺れているのを見て、すぐさま抱きかかえ、尻尾が動くのを止めた。だが、先端部分は少し動いており、制御が効かないらしい。
「尻尾がよく動いてるね~」
「こ、これは、違う。美味しいから揺れてるんじゃない。ただ、肉が食べられてありがたいだけ。そのニタニタした表情はやめろ」
「素直に美味しいと言えばいいじゃないか。何でそんなに否定するの?」
「私に気を掛けるな。同情なんていらない。情なんていつ無くなってもおかしくないんだ。そんな不確定なものは無い方が良い」
「ルパは失うのが怖いの?」
「う、うるさい。ニクスには関係ない」
「僕も失うのが怖いよ。はっきり言えば何でも怖い。でも、失うことは怖くて当たり前なんだよ。失うのが怖いから守ろうとするんだ。怖くなかったら守ろうとしない。まず、行動すら起こさない。ルパも感情を無くしたようにふるまってるけど、全然なくなってないよ」
「うるさい、うるさい。肉をさっさと食べて私と戦え。それで殺されろ」
ルパはその場に立ち上がり、昨日雨宿に置いていた骨を数本食べ、荒野に向っていった。
「さてと、油断してたら本当に殺されちゃうからな。気を引き締めて行こう」
僕はルパのいる荒野に向った。
「今日は倒す。昨日みたいな不甲斐ない姿はもう見せない」
ルパは僕に人差し指を向けている。
「角ウサギにやられそうになってたのに、凄い自信だね」
「武器が合っていなかった。そうニクスが言っただろ。だから負けそうになったんだ。でも、今回は肉弾戦。私の方が有利」
ルパは戦闘体勢に移る。体を低くして四つん這いになった。
「グラアアア!」
ルパは勢いよく飛び出してきた。飢餓状態だった時とは打って変わって思考を感じ取れる動きで、獣ではなく気持ちを持った獣族だとわかる。
「ふっ!」
ルパは僕の顔面に拳を撃ち込んできた。
「くっ!」
いつの間に移動したのかわからないほど、とてつもなく速い攻撃に僕は大きく回避するしかなかった。ただ、ルパの攻撃は止まらず、僕に回避されたとわかると身をすぐに翻して、僕の顔に蹴りを真上から入れてくる。
「くっ! 重い……」
僕はルパの蹴りを両腕で受け止めた。真上からの蹴りは地面に突き刺さるかと思うほどの威力があり、膝が折れそうになる。だが、交差した腕にはすでに縄を持っており、攻撃を受け止めた瞬間に拘束するために縄でエナの足を取ろうとする。
だが、エナは腕を蹴った反動を使い、僕からすぐさま離れる。
「一撃が凄く重いね……。獣族はみんなそうなの?」
「知らない。私は力が特段強かった」
「そうなんだ。でも力が強いだけじゃ、意味ないよね」
「当たらなきゃ、倒せない。人の頭くらいなら簡単につぶせると思う。何たって、岩でも砕けるんだから」
ルパは四つん這いの体勢にすになっている。
「なら、僕に攻撃を当てないと殺せないよ」
「わかってる。今、狙う所を決めてる」
「狙う所ね……、どこを狙っているのかな?」
「教えない」
僕達の戦いは昨日の超短期戦とは違い、長期戦になっていた。
ルパの攻撃は僕の急所を狙ってくる単調な動きでわかりやすい。だが一撃がとにかく重い。腕がきしむような蹴りに体が陥没しそうになる拳、どの攻撃も当たり所が悪ければ致命傷になりかねなかった。
僕はプルスのおかげで死なないらしいが、実際に死んだ覚えがないので、まだどうなるかわからない。
――僕は殺されるわけにはいかない。ここでやられたら、ルパが人を殺してしまったことになる。鳥籠の中に人はいないけど、きっとルパなら出て行けるだろう。通りかかった人を無差別に殺すかもしれない。そんなの、ルパだってやりたくないはずだ。今のルパは自分の生きる意味がわからなくなっているだけ。時間が経てば、生きて行く希望をもてるかもしれない。
「はああ!!」
「つっ!」
ルパは細くしなやかな足を天高く上げ、僕に踵落としを繰り出してきた。
僕は後ろに回避する。最小限の動きを意識しているが毎度当たりそうになり死を近くに感じる。
僕に回避されたルパの踵は地面に当たる。その衝撃で地面は陥没し、罅を蜘蛛の巣状に作った。
「ニクスも回避してるだけじゃ、私を捕まえられない」
「そうだね。でも、攻撃し続けるより、避けるほうが体力を消耗せずに済むんだよ」
「くっ!」
ルパは体力の減少を悟られたと知り、苦悩の表情を浮かべる。
「ルパの動き、さっきよりも鈍くなってきている。体力の限界が近いんじゃないの。毎回僕が死ぬかもしれない威力の攻撃を放って来ているんだ。相当、力んだ攻撃を繰り出してきている。疲れない訳がないよね」
「うるさい!」
ルパは体勢の崩れている状態で、攻めてきた。僕の言葉に焦りを覚えたのか踏み込みの浅い攻撃を仕掛けてくる。
「ふっ!」
僕は力の入っていない軽い拳をかわし、ルパの手首を持って力の流れている方向に引っ張った。
「なっ!」
ルパの体は宙に浮き、力を入れる場所の無い状態では身動きが取れない。
――きっと今、ルパは体勢が崩れているから、掴まれている手首を解く力も出せないだろう。このままひっくり返す。
僕はルパの手首を掴んだまま体を空中で一回転させてエナが地面に背中を付けた後、手首を縄で縛った。
「捕まえた」
「く……。また負けた……」
ルパは少々泣きそうな顔になりながら負けを認めた。
僕は角ウサギ二羽をさっと狩って家まで戻る。
ルパが焚火をすでに起こしており、肉を焼いていた。
「ルパは焚火を起こせたの?」
「石と石をぶつけあって火花を散らせばつく」
「火打ち石か……。でも、火の子が出る石なんてあった?」
「落ちてる石をぶつけ合ったら、火花が出た」
「そんな偶然もあるんだね」
僕は一羽の角ウサギをプルスの前に置く。もう一羽を解体して遠火で焼いた。
「ニクス、肉を食べたら戦う」
ルパは綺麗に焼けた角ウサギを僕に見せながら宣言してきた。
「うん。わかってるよ。今日は食べ過ぎないようにね」
「わかってる。今日の体調、万全。力も湧いてきてる。今日でニクスを殺して私は人里に向う。そこで皆殺しにしてから私も死ぬ」
「何でそんなに死にたいのかわからないけど、ルパに人殺しさせるわけにはいかないから、僕は死ねないな」
「ハグ……、ハグ……」
ルパは角ウサギの肉を頬張り、英気を養った。僕も焼き終わった肉を食べて活力を得る。
「うん、胡椒も合う。ほんと、角ウサギの肉が取れるようになってありがたいな。食べるたびに角と皮が取れるから、そのぶんお金も稼げるという素晴らしい魔物だよ」
「ん……」
ルパは僕に肉を差し出してきた。どうやら胡椒をふってほしいらしい。
僕はルパの持っている肉に胡椒を少しふってあげる。
「はっくしゅ……」
ルパは胡椒の匂いを嗅ぎ、大きくくしゃみをした。鼻をすすり、肉に食いつく。美味しかったらしく、尻尾を揺らす。
「美味しい?」
「ふ、普通……」
「そう、尻尾が凄い揺れてるけど、味が普通でも揺れるの?」
ルパは自分の尻尾がブンブン揺れているのを見て、すぐさま抱きかかえ、尻尾が動くのを止めた。だが、先端部分は少し動いており、制御が効かないらしい。
「尻尾がよく動いてるね~」
「こ、これは、違う。美味しいから揺れてるんじゃない。ただ、肉が食べられてありがたいだけ。そのニタニタした表情はやめろ」
「素直に美味しいと言えばいいじゃないか。何でそんなに否定するの?」
「私に気を掛けるな。同情なんていらない。情なんていつ無くなってもおかしくないんだ。そんな不確定なものは無い方が良い」
「ルパは失うのが怖いの?」
「う、うるさい。ニクスには関係ない」
「僕も失うのが怖いよ。はっきり言えば何でも怖い。でも、失うことは怖くて当たり前なんだよ。失うのが怖いから守ろうとするんだ。怖くなかったら守ろうとしない。まず、行動すら起こさない。ルパも感情を無くしたようにふるまってるけど、全然なくなってないよ」
「うるさい、うるさい。肉をさっさと食べて私と戦え。それで殺されろ」
ルパはその場に立ち上がり、昨日雨宿に置いていた骨を数本食べ、荒野に向っていった。
「さてと、油断してたら本当に殺されちゃうからな。気を引き締めて行こう」
僕はルパのいる荒野に向った。
「今日は倒す。昨日みたいな不甲斐ない姿はもう見せない」
ルパは僕に人差し指を向けている。
「角ウサギにやられそうになってたのに、凄い自信だね」
「武器が合っていなかった。そうニクスが言っただろ。だから負けそうになったんだ。でも、今回は肉弾戦。私の方が有利」
ルパは戦闘体勢に移る。体を低くして四つん這いになった。
「グラアアア!」
ルパは勢いよく飛び出してきた。飢餓状態だった時とは打って変わって思考を感じ取れる動きで、獣ではなく気持ちを持った獣族だとわかる。
「ふっ!」
ルパは僕の顔面に拳を撃ち込んできた。
「くっ!」
いつの間に移動したのかわからないほど、とてつもなく速い攻撃に僕は大きく回避するしかなかった。ただ、ルパの攻撃は止まらず、僕に回避されたとわかると身をすぐに翻して、僕の顔に蹴りを真上から入れてくる。
「くっ! 重い……」
僕はルパの蹴りを両腕で受け止めた。真上からの蹴りは地面に突き刺さるかと思うほどの威力があり、膝が折れそうになる。だが、交差した腕にはすでに縄を持っており、攻撃を受け止めた瞬間に拘束するために縄でエナの足を取ろうとする。
だが、エナは腕を蹴った反動を使い、僕からすぐさま離れる。
「一撃が凄く重いね……。獣族はみんなそうなの?」
「知らない。私は力が特段強かった」
「そうなんだ。でも力が強いだけじゃ、意味ないよね」
「当たらなきゃ、倒せない。人の頭くらいなら簡単につぶせると思う。何たって、岩でも砕けるんだから」
ルパは四つん這いの体勢にすになっている。
「なら、僕に攻撃を当てないと殺せないよ」
「わかってる。今、狙う所を決めてる」
「狙う所ね……、どこを狙っているのかな?」
「教えない」
僕達の戦いは昨日の超短期戦とは違い、長期戦になっていた。
ルパの攻撃は僕の急所を狙ってくる単調な動きでわかりやすい。だが一撃がとにかく重い。腕がきしむような蹴りに体が陥没しそうになる拳、どの攻撃も当たり所が悪ければ致命傷になりかねなかった。
僕はプルスのおかげで死なないらしいが、実際に死んだ覚えがないので、まだどうなるかわからない。
――僕は殺されるわけにはいかない。ここでやられたら、ルパが人を殺してしまったことになる。鳥籠の中に人はいないけど、きっとルパなら出て行けるだろう。通りかかった人を無差別に殺すかもしれない。そんなの、ルパだってやりたくないはずだ。今のルパは自分の生きる意味がわからなくなっているだけ。時間が経てば、生きて行く希望をもてるかもしれない。
「はああ!!」
「つっ!」
ルパは細くしなやかな足を天高く上げ、僕に踵落としを繰り出してきた。
僕は後ろに回避する。最小限の動きを意識しているが毎度当たりそうになり死を近くに感じる。
僕に回避されたルパの踵は地面に当たる。その衝撃で地面は陥没し、罅を蜘蛛の巣状に作った。
「ニクスも回避してるだけじゃ、私を捕まえられない」
「そうだね。でも、攻撃し続けるより、避けるほうが体力を消耗せずに済むんだよ」
「くっ!」
ルパは体力の減少を悟られたと知り、苦悩の表情を浮かべる。
「ルパの動き、さっきよりも鈍くなってきている。体力の限界が近いんじゃないの。毎回僕が死ぬかもしれない威力の攻撃を放って来ているんだ。相当、力んだ攻撃を繰り出してきている。疲れない訳がないよね」
「うるさい!」
ルパは体勢の崩れている状態で、攻めてきた。僕の言葉に焦りを覚えたのか踏み込みの浅い攻撃を仕掛けてくる。
「ふっ!」
僕は力の入っていない軽い拳をかわし、ルパの手首を持って力の流れている方向に引っ張った。
「なっ!」
ルパの体は宙に浮き、力を入れる場所の無い状態では身動きが取れない。
――きっと今、ルパは体勢が崩れているから、掴まれている手首を解く力も出せないだろう。このままひっくり返す。
僕はルパの手首を掴んだまま体を空中で一回転させてエナが地面に背中を付けた後、手首を縄で縛った。
「捕まえた」
「く……。また負けた……」
ルパは少々泣きそうな顔になりながら負けを認めた。
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