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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

一月一日

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「ニクス、ここってなんて言う場所なの?」

 ルパは辺りを見渡しながら聞いてきた。

「僕も知らない。というか、名前がついてないんだ。未開拓の土地だからね」

「未開拓の土地……。じゃあ、ニクスは何でこんな所にいるの?」

「えっとね。父親に仕事をするか、仕事をしないか、どちらか選べと言われて、しない方を選んだらこの場所に送り込まれたんだ」

「ニクスは仕事がしたくないからこんな所に来たの?」

「そうだよ。僕の家系は代々騎士になっているんだけど僕が騎士になったら死ぬと思ったんだ。貴族の騎士は家の発展のために戦に行かないと行けなかったからね」

「つまりニクスは戦いから逃げて来たってこと?」

「簡単に言えばそうだね。でも死ぬとわかっていて戦いに行くのは命がもったいないと思わない?」

「ニクスは凄く強いのに、なんで逃げるの?」

「僕なんて全然強くないよ。騎士養成学校では下の下なんだから。今は多少良くなっているかもしれないけど、他の皆も強くなっていると思うから、僕が弱いのは変わらないと思う」

「ニクスが弱いなら私もまだまだ弱いね。もっと強くならないと仲間を守れないし、私も殺される。私はどれくらい強くなったらいいんだろう。強さの限界がないからわからないや」

「そうだなぁ……。大人の騎士に勝てるくらい強く成れば普通に生きて行けると思うよ。賃金は低いけど傭兵とか、兵士とか、冒険者になって角ウサギを狩って換金したり、ゴブリンを討伐したりすれば生きて行けるよ。お金が溜まったら獣族達の住む場所に移動して幸せに暮らせる相手を見つけて結婚すればルパも楽しい人生になるんじゃないかな」

「変なの……。まぁ、ニクスを倒せるくらい強くなれば普通の人間には負けなそうだし、もっと強い相手と戦っても勝てるかもしれない。そうなったら、力を付けて村を襲った連中を全員とっ捕まえてやる」

 ルパの考えは大分穏やかになった。

 人殺しをするという行為を少しためらってくれるようになったみたいだ。嬉しい兆候だ。

 殺しは何も生まないと言うのをしっかりと理解してほしい。そうなればルパはむやみな殺しを行わなくなるはずだ。少しでもいいことをすればどんどん小さな良いことが積み重なっていき、いつの間にか大きな良いことになっているはず……。

「じゃあ、降りて食事をとってから鍛錬を行おうか。その後、闘いあってまた鍛錬。力を少しでも付ければ成長していくから、死なないために体を頑張って鍛えようね」

「うん。私も死なないために頑張る。どれだけ厳しい鍛錬でも耐えるから、私を強くして」

「ルパはもう強い執念を持っているからきっと強くなれるよ。僕もルパに追いつかれないように頑張らないとね」

 僕とルパは地上に降りていき、朝食をとって闘った後、雪で足場の悪い中、長時間走り、体力を付けた。また、剣の鍛錬を行い、石を磨いたあと夕食を得てお湯に浸かり、家の中で勉強という日々を過ごす。

 一月一日。妖精歴ゼロ年から世界が始まったとされる日。

 この日はとてもめでたい。そのため、多くの種族が独自の祝い方をする。また、種族間でも祝い方が違い、僕の生まれ故郷の国であるルークス王国では祝いの席で金品を子に与える風習がある。

 値段は決まっておらず、各家庭の事情に合わせた金額でいいのだが、子供達はいつもこの金品の値段で言い争っていた。

 かく言う僕もガイアス兄さんとクワルツ兄さんより貰ったお金の金額が低かったときは普通に悲しかったし、羨ましかった。

 騎士養成学校にいたころも、教室でよく貰ったお金の話になっていた。僕の貰った金額は他の貴族の一/一〇にも満たない値段なので、自分から話したりしない。

 でも、聞かれたら普通に答える。なぜかって? そんなの、僕に話しかけてくる人なんていないからだ。

 ただ、ディアさんだけはよく話しかけてくれた思い出がある。ディアさんは高値の花だったので一緒にいられるだけでもありがたかったのに、しゃべりかけてくれるなんて思ってもみなかった。

 まぁ、ディアさんのもらう金額はクラス全員の貴族の貰ったお金を集めても到底届かない金額なので、彼女が教室に来ると皆、お金の話を止めるのだ。

 なぜ今このような話をしているかというと、ルパにいくらあげようか迷っているのだ。

 僕の価値基準でいれば虹硬貨をあげたい。だが、さすがにやりすぎのような気もする。そもそもルパは一人で買い物に行けないし、買い物をしようとしない。人と話すのが嫌いだからだ。

 でも、僕も一応ルークス王国の貴族だった男として伝統は重んじたい。銀貨だと子供すぎるし、金貨一枚も何か味気ない。父さんと母さんも毎年うんうん唸っていたのだろうか。

 いっぽう、獣族の過ごし方はというと……。

「うおおらあっ!」

「うわっ! さむっ! さっむ!」

 ルパは僕を極寒の川に投げ入れた。そう、獣族は一月一日に寒中水泳をする。まぁ、ルパのいた部族ではそうするらしいが、他の獣族族はまた別の風習があるらしい。

「はいやっ!」

 ルパは僕を川に投げ入れた後、自分も飛び込んできた。もちろん全裸で……。

「ぷはっ~。ひゃ~、寒い! ニクス、早く泳がないと体が凍っちゃうよ!」

 ルパは川に入ったあと浮き上がり、岸に向かい、泳ぎ出す。

「あばばばばば……。寒すぎて、手足が動かん……。プルス、いったん燃やして」

「了解です」

 プルスは僕の頭から炎を吐き、僕の体を燃やした。水に濡れても一定期間は消えず、僕の体だけを温める。何とか動くようになり、炎が消えた。

「よ、よし。何とか動いたぞ」

「ごぼごぼ……」

「ルパ! めっちゃ溺れとる!」

 川が寒すぎてルパでさえ手足が動かなくなっていた。僕はルパをすぐさま抱きかかえ、川からあがり、今日のためだけに作った小さな木製の小屋に向う。その中では、熱した石を積み重ねており、部屋の中がとんでもなく熱くなっていた。だが、今の僕たちにはちょうどいい温度で、すごく心地いい。

「はぁ、はぁ、はぁ……。ルパ、この風習はほんとなの?」

「ほ、ほんとだよ。でも、私の住んでいた場所はこんなに寒くなかった気がする。手足かじかんでよく動かなくなるなんてなかったよ」

「この季節に川に直接入るとか自殺行為だから。ほんとにもう、なにこの風習。ぶっ飛び過ぎだよ」

「私もそんな気がしてきた……」

 僕はルパの濡れた体を乾いた布巾で拭く。前側を拭こうとしてルパにぶん殴られ、僕は壁際を見ていた。
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