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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

正月の思い出

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 僕が壁側を向いていると、何かが焼けるような音がした。加えて、大量の水蒸気が発生し、僕の体を焼く。

「あっつ! あっつ! ルパ、なにしてるの!」

「焼石に水を掛けるとこの小屋の中の温度が上がって体が一気に温かくなるから、やってみたら予想以上だった!」

 ルパは手をブンブン振り、水蒸気を逃がそうとしていた。

「このあんぽんたん! 体が火傷するわ!」

 僕は手に持っていた布を思いっきりルパの方に仰ぎ、風を送る。

「あっつ! あっつ! ちょ、熱すぎ! こ、こうなったら。私も!」

 ルパも手に持っている布を使い、僕の方に熱風を送ってくる。喉が焼けそうになるほど熱い空気が迫ってきて、体の汗が凄い。もう、小屋の中にもいられず、僕達は走り出していた。ある場所を目指して。

「川ッ!」×ルパ、ニクス。

 僕はルパと共にキンキンに冷えた川に飛び込んだ。入った瞬間はあまりにも寒くて死にそうになったが、あとからじんわりと温かくなってきて川から出たころには全身がよくわからないほどぽかぽか状態になっていた。

「ぷ、プルス……。僕たちの体を乾かして、そのあと炎の衣をお願い……」

「了解です」

 プルスは僕たちの体に着いている水分を飛ばし、炎の衣をまとわせてくれた。僕は何のために使うのかよくわからなかったが、ルパに言われ一応用意しておいた椅子を持って来て、彼女を座らせる。僕も別の椅子に座った。

「ぽけ~。な、なんか……。ぼーっとしてきた。なにこれ……」

「わかんない……。でも、すごい脱力してる気がする……」

 僕とルパは熱さと寒さの中間点にいるような感覚に陥り、ボーっとしていた。眠たい訳でもなく、頭が凄く冴えている訳でもない。なぜか凄いボーっとしているのだ。一五分ほど経ち、僕達は椅子から立ち上がって顔を見合わせた。

「えっと……。とりあえず、喉乾いたし、水を飲もうか」

「そうだね……。とりあえず、水を飲もう。で、その後どうする?」

 ルパはどうやら僕と同じ考えのようだ。

「とりあえず……。もう一回やってみようか。一回だけじゃ、よさはわからないよね」

「そ、そうだよね。もう一回行ってみないとわからないよね」

 僕とルパは互いにほくそ笑む。ルパの部族の風習は結構良いかもしれない。そんな期待を込めて行った二回目は最高だった。僕とルパは互いに頷き、三回目に向う。すると、一気に眠気が襲ってきた。四回目を行くと体がだるくなり、止めておいた方がいいと悟る。

「はぁ、はぁ、はぁ……。多分、二回から三回に止めておいた方がいいっぽいね」

「はぁ、はぁ、はぁ……。そうだね。これ以上は体が持たなそう……。でも、すごい楽しかった。昔を思い出した気がする」

「そうなんだ。でも、大丈夫なの? 昔を思い出して……。辛くならない?」

「意外と辛くなかった。逆に思い出せてよかったって思う。私、家族との思い出が全部あの時で切り取られてた。家族を思い出そうとすると全部嫌な思いでしか出てこなかったんだけど、なんか……、今回は違った。ボーっとしている最中、家族との楽しい思い出がよみがえってきたの」

 ルパはつらつらと話す。相当嬉しかったのか、尻尾は大きく揺れ、耳もひっきりなしに動いている。ルパの嬉しそうな姿を見ると、僕の方まで嬉しくなってしまう。

「今回、新しい思い出になった」

「そうだね。僕も思い出になったよ。またやりたいね」

「うん。あ、でも、ニクスは私の体を見すぎ。こんな体を見て面白いの?」

「え? 僕そんなに見てたかな……。でも確かにルパの体は真っ白でむきたてのゆで卵かっていうくらい肌もつるっつるで綺麗だけど……。そんなに見てるのかな。あ、でもそれを言うなら、ルパも僕の体を見すぎだよ。特に脚とか、腹筋とか。筋肉が好きなのはいいけど、視線には気をつけなよ」

「に、ニクスに言われたくない! ニクスだって私のお尻が好きな癖に!」

「好きだよ。だってルパのお尻は理想的で完璧なお尻だもん。全体像から見ても完璧な体だ。是非とも彫刻で表したいくらい。いや、どんな芸術でもルパの美しさは表現できそうにないか」

「主って、時よりすっごく気持ち悪いですね」

 プルスは僕の方を白い眼で見てきた。

「うん。すっごく気持ち悪い。で、でも、別に……、嫌な気もしないかなぁ……」

 ルパはもじもじしながら僕と視線を合わせてこない。ルパが少し動く度、尻尾がふりふりと揺れ、嬉しいのだとわかる。

 僕達は服を持ってそのままお湯の出る泉に向った。泉は今日も暖かそうだ。さっきまで超寒い所と、超暑いところにいたので、感覚がおかしいのだが、あと少しだけお湯に入りたいと思い、やってきた。

「ルパには正月の思い出ってある? 言いたく無かったら言わなくてもいいけど」

 僕は隣で小山座りをしながらお湯に漬かっているルパに話しかけた。

「えっと……。奴隷の時は休みなんて無かったから、正月でも仕事をしてた。獣族は力仕事だから土木工事とかばっかりやって、泥まみれ汗まみれ……。帰って来たら、奴隷商が皆に水の出る魔法を唱えて、一斉に洗われてそのまま牢屋に放置。食事は一日一回だったけど、正月は一回だけ食事が多かった。あと、銅貨一枚が皆に配られてた。風習だって言って。その時は使い方がわからなかったから、ガジガジって噛んでたら奴隷の子に止められて、あげた」

「そ、そうなんだ。話してくれてありがとう」

 ――そうか。ルパはルークス王国の奴隷商にいたんだ。あと、お金は一応貰っていたんだ。意味がわからなかったなんてもったいない。でも、今ならわかるよね。

「逆にニクスはあるの? 正月の思いで?」

「僕かぁ……。僕の正月の思い出はあんまりないなぁ……。教会にお祈りに行ったくらいしか覚えてないよ」

「お祈り……。ああ! お祈りしないと! 土地神様が怒る!」

 ルパはザバッツと水しぶきを立てながら立ち上がり、岸部に向った。

「ルパ、どうしたの?」

「ニクスも早くお祈りしよう。そうしないと厄災が降り注ぐってお父さんが言ってた。お父さんたちがいた村、正月の時、大嵐で祈れなかったんだ。もしかしたらそれで……。ニクス! 早くお祈りするよ!」

 ルパは気が気ではなく、僕を急かす。そこまでお祈りに効果があるのかは知らないが、ルパが満足するまで付き合おう。

 僕も泉からあがり、服を着た。
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