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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。
轟轟と燃える
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ルパは寝返りを打ち、僕に背中を見せてくる。尻尾が布団をベシベシと叩き、振れていた。
ルパも可愛いと言われて嬉しいのだ。ほんと素直じゃないなと毎回思う。後ろから抱き着きたいのだが、僕からのお触りは禁止だ。
僕は潔く寝返りを打ち、ルパの背中に背中を向ける。ちょっと不仲のような体勢だ。
春先なので布団がないと少々寒い。シーツを肩まで掛け、丁度いいくらいの温度だ。
僕はルパが風邪をひかないようシーツを肩まで掛け、頭をそっと撫でたあと、耳もとでお休みと囁く。
プルスは自分のお気に入りの場所を見つけたのか、ベッドの木板に座り、溶けるように眠っていた。
僕が眠りにつくほんの少し前、ルパがガサゴソと動き、僕の背中に抱き着いてくる。理由はわからないが少し離れていたら怖くなってしまったのかもしれない。
僕は寝返りを打つふりをしてルパに正面から抱き着く。結局この体勢じゃないとルパは熟睡できないようだ。きっともう、一人で悲しく眠る夜を過ごしたくないのだろう。
僕も孤独の夜を過ごすのはもう怖い……。ルパの温もりがあるだけで不安な気持ちが一気に消えていった。僕はどれだけこの子に依存しているんだと思いながら……、眠りに着く。
☆☆☆☆
僕が眼を覚ますとベッドではなく、床で寝ていた。いったい何があったのかわからない。むくりと上半身を落とすとプルスがベッドの上に一匹だけ眠っていた。反対側にルパがスースーと寝息を立てながら眠っている。
僕の内シャツが脱げ、ルパが持っているのを見ると、いつの間にかはぎとられていたようだ。ルパは僕の内着に顔を埋め尻尾を振りながら眠っている。きっといい夢を見ているのだろう。
僕は眠い眼を擦り、木製の窓をギイっと開け、外の空気を取り入れる。新鮮な空気が入ってきた……と思ったのだが、すごく煙臭い。当たりを見渡すと、隣の部屋で火事が起きているではないか。僕は一呼吸置き、叫ぶ。
「火事だー!」
僕の大声が朝焼けの空に飛んで行く。すると、ルパとプルスが起きる。
「な、なになに。今日の朝食は私が作るんだけ?」
「ルパ、それは家事」
「ぴ、ぴよぉ……。主の剣はまだ壊れてません……」
「それは鍛冶……。って! 言っている場合じゃないよ! 隣の部屋から火が出てる。ルパ、早く逃げるよ」
「ふわぁ~。もう、ニクス……そんなに抱き着かないで……。そっちがその気ならこっちもこうだ……」
ルパは僕の内着に抱き着き、擦り寄っている。寝ぼけているとほんと子供だな。
僕はルパと二人の革袋を持って煙塗れの洗濯ものを回収、ルパをローブで包んでプルスと剣を手に取り、部屋を出た。
部屋を出ると煙で視界が悪く、身を屈めながらしか移動できない。これだったら、窓から飛び降りた方が安全そうだ。
僕はすぐ隣の扉を蹴破り、中に入る。すると、男女が裸で抱き合ったまま眠っていたが気にしている場合じゃない。
僕は部屋の中でも火事だと叫び、木製の窓を蹴って開け、外に飛び込む。高さは二階なので六メートルほど。だが、いつも鍛錬している僕であればどおってことない。
木が燃える音がパチパチと聞こえ、キャーやら、うわっ! という声が響き始めた。
木造の宿はみるみるうちに燃えていく。消防団が到着したころには真っ赤な炎に包まれ周りの家屋にも燃え広がっていた。
僕は魔法で水を出すことが出来ないので、火を消すことに関してはどうしようもない。だが、ルパを助け出した今、失って悲しむ者は無くなった。
「ルパ、ちょっと待っていて。人助けをしてくるよ」
「うぅ……、ニクス……? どこ行くの。って、え! めっちゃ燃えてる!」
ルパは眼を見開き、燃えまくっている宿を見て、炎により、眼を真っ赤に染めていた。
「ルパ、少し離れた場所で待っていて。僕は人助けをしてくるから」
「人助けって……、あの火の中に入って行くの……。そ、そんなの死んじゃうよ!」
「大丈夫。僕は死なないよ。火に対してはめっぽう強いんだ」
「で、でも。ニクスがいなくなったら私、生きていけない……」
ルパは眼を潤わせ泣きそうになっている。まぁ、轟轟と燃える宿に飛び込もうとしているんだから死にに行こうとしているようなものか。
「僕はルパを置いて死んだりしないから」
僕はルパの首に掛かっているにペンダントを握らせ、僕の内着を着せたあと、ローブを正しく羽織らせる。
「これで少しは安心でしょ。早く行かないと、燃えて死んでしまう人がいるかもしれない。僕ならまだ救い出せるんだ」
「でも、でも……」
ルパは一人になるのが怖い。なら、一人じゃなければいい。僕も一人じゃない。
「じゃあ、ルパ。このペンダントも持っていて。僕の母さんの形見なんだ。僕と母さんがいっしょだから大丈夫」
僕はプラチナのネックレスをルパに渡す。
「う、うぅ……。早く帰って来てよ……。私、ここを絶対に動かないから……」
ルパはふさぎ込み、縮こまってしまった。この場所は落下物があるかもしれないので危険だ。
僕はルパを抱きかかえ、火災現場から遠い、広場に移動させた。ルパに服を着てもらい、武器も着けさせる。これで冒険者の格好になったので、きっとルパが誘拐される確率は減るだろう。
誘拐犯は孤児や小さな子を狙う。時には獣族も狙うと思うが、冒険者の獣族はめっぽう強い。なので、狙われにくくなる。
「ルパ、顔をあげて。そんな暗い顔しなくても大丈夫。本当にすぐ帰ってくるからさ」
僕はルパの額にデコキスして、もう少し安心させようとしたのだが、泣きだす始末。ルパもなぜ泣いているのか分からないそうなので、僕はルパの頭を撫でたあと宿まで走った。
僕はパンツしか着ていないので不審者と見間違わられても仕方がない。
「プルス、炎の衣」
「了解です」
僕は火の中になら一度飛び込んだ。なので恐怖心はない。加えて、炎はプルスと親和性が高いので熱くもなく、体に燃え移らない。煙を吸い込んでも焼けた傍から超再生が起こり、問題なさそうだ。
僕は宿に飛び込み、逃げ遅れている人達を助け出す。一人、二人、三人と……。全焼している人でも生きてさえいれば、プルスが燃やすだけで回復する。
僕の魔力は減っていくが気にしない。なんせ助けられる人たちを助けないのは騎士としてあってはならない行為だからだ。魔力が枯渇するくらい、気にしない。逆に魔力を使えば使うほど体は魔力を溜めやすくなるので、沢山使っていきたいくらいだ。
ルパも可愛いと言われて嬉しいのだ。ほんと素直じゃないなと毎回思う。後ろから抱き着きたいのだが、僕からのお触りは禁止だ。
僕は潔く寝返りを打ち、ルパの背中に背中を向ける。ちょっと不仲のような体勢だ。
春先なので布団がないと少々寒い。シーツを肩まで掛け、丁度いいくらいの温度だ。
僕はルパが風邪をひかないようシーツを肩まで掛け、頭をそっと撫でたあと、耳もとでお休みと囁く。
プルスは自分のお気に入りの場所を見つけたのか、ベッドの木板に座り、溶けるように眠っていた。
僕が眠りにつくほんの少し前、ルパがガサゴソと動き、僕の背中に抱き着いてくる。理由はわからないが少し離れていたら怖くなってしまったのかもしれない。
僕は寝返りを打つふりをしてルパに正面から抱き着く。結局この体勢じゃないとルパは熟睡できないようだ。きっともう、一人で悲しく眠る夜を過ごしたくないのだろう。
僕も孤独の夜を過ごすのはもう怖い……。ルパの温もりがあるだけで不安な気持ちが一気に消えていった。僕はどれだけこの子に依存しているんだと思いながら……、眠りに着く。
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僕が眼を覚ますとベッドではなく、床で寝ていた。いったい何があったのかわからない。むくりと上半身を落とすとプルスがベッドの上に一匹だけ眠っていた。反対側にルパがスースーと寝息を立てながら眠っている。
僕の内シャツが脱げ、ルパが持っているのを見ると、いつの間にかはぎとられていたようだ。ルパは僕の内着に顔を埋め尻尾を振りながら眠っている。きっといい夢を見ているのだろう。
僕は眠い眼を擦り、木製の窓をギイっと開け、外の空気を取り入れる。新鮮な空気が入ってきた……と思ったのだが、すごく煙臭い。当たりを見渡すと、隣の部屋で火事が起きているではないか。僕は一呼吸置き、叫ぶ。
「火事だー!」
僕の大声が朝焼けの空に飛んで行く。すると、ルパとプルスが起きる。
「な、なになに。今日の朝食は私が作るんだけ?」
「ルパ、それは家事」
「ぴ、ぴよぉ……。主の剣はまだ壊れてません……」
「それは鍛冶……。って! 言っている場合じゃないよ! 隣の部屋から火が出てる。ルパ、早く逃げるよ」
「ふわぁ~。もう、ニクス……そんなに抱き着かないで……。そっちがその気ならこっちもこうだ……」
ルパは僕の内着に抱き着き、擦り寄っている。寝ぼけているとほんと子供だな。
僕はルパと二人の革袋を持って煙塗れの洗濯ものを回収、ルパをローブで包んでプルスと剣を手に取り、部屋を出た。
部屋を出ると煙で視界が悪く、身を屈めながらしか移動できない。これだったら、窓から飛び降りた方が安全そうだ。
僕はすぐ隣の扉を蹴破り、中に入る。すると、男女が裸で抱き合ったまま眠っていたが気にしている場合じゃない。
僕は部屋の中でも火事だと叫び、木製の窓を蹴って開け、外に飛び込む。高さは二階なので六メートルほど。だが、いつも鍛錬している僕であればどおってことない。
木が燃える音がパチパチと聞こえ、キャーやら、うわっ! という声が響き始めた。
木造の宿はみるみるうちに燃えていく。消防団が到着したころには真っ赤な炎に包まれ周りの家屋にも燃え広がっていた。
僕は魔法で水を出すことが出来ないので、火を消すことに関してはどうしようもない。だが、ルパを助け出した今、失って悲しむ者は無くなった。
「ルパ、ちょっと待っていて。人助けをしてくるよ」
「うぅ……、ニクス……? どこ行くの。って、え! めっちゃ燃えてる!」
ルパは眼を見開き、燃えまくっている宿を見て、炎により、眼を真っ赤に染めていた。
「ルパ、少し離れた場所で待っていて。僕は人助けをしてくるから」
「人助けって……、あの火の中に入って行くの……。そ、そんなの死んじゃうよ!」
「大丈夫。僕は死なないよ。火に対してはめっぽう強いんだ」
「で、でも。ニクスがいなくなったら私、生きていけない……」
ルパは眼を潤わせ泣きそうになっている。まぁ、轟轟と燃える宿に飛び込もうとしているんだから死にに行こうとしているようなものか。
「僕はルパを置いて死んだりしないから」
僕はルパの首に掛かっているにペンダントを握らせ、僕の内着を着せたあと、ローブを正しく羽織らせる。
「これで少しは安心でしょ。早く行かないと、燃えて死んでしまう人がいるかもしれない。僕ならまだ救い出せるんだ」
「でも、でも……」
ルパは一人になるのが怖い。なら、一人じゃなければいい。僕も一人じゃない。
「じゃあ、ルパ。このペンダントも持っていて。僕の母さんの形見なんだ。僕と母さんがいっしょだから大丈夫」
僕はプラチナのネックレスをルパに渡す。
「う、うぅ……。早く帰って来てよ……。私、ここを絶対に動かないから……」
ルパはふさぎ込み、縮こまってしまった。この場所は落下物があるかもしれないので危険だ。
僕はルパを抱きかかえ、火災現場から遠い、広場に移動させた。ルパに服を着てもらい、武器も着けさせる。これで冒険者の格好になったので、きっとルパが誘拐される確率は減るだろう。
誘拐犯は孤児や小さな子を狙う。時には獣族も狙うと思うが、冒険者の獣族はめっぽう強い。なので、狙われにくくなる。
「ルパ、顔をあげて。そんな暗い顔しなくても大丈夫。本当にすぐ帰ってくるからさ」
僕はルパの額にデコキスして、もう少し安心させようとしたのだが、泣きだす始末。ルパもなぜ泣いているのか分からないそうなので、僕はルパの頭を撫でたあと宿まで走った。
僕はパンツしか着ていないので不審者と見間違わられても仕方がない。
「プルス、炎の衣」
「了解です」
僕は火の中になら一度飛び込んだ。なので恐怖心はない。加えて、炎はプルスと親和性が高いので熱くもなく、体に燃え移らない。煙を吸い込んでも焼けた傍から超再生が起こり、問題なさそうだ。
僕は宿に飛び込み、逃げ遅れている人達を助け出す。一人、二人、三人と……。全焼している人でも生きてさえいれば、プルスが燃やすだけで回復する。
僕の魔力は減っていくが気にしない。なんせ助けられる人たちを助けないのは騎士としてあってはならない行為だからだ。魔力が枯渇するくらい、気にしない。逆に魔力を使えば使うほど体は魔力を溜めやすくなるので、沢山使っていきたいくらいだ。
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