ストライダーIKUMI~奴隷を助けたら求婚された。だが気にしない。

ゆっこ!

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 第十一話 お世話と安眠。

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 奴隷商人一味の討伐が終了し、救い出した幼女たちが泣き止んだ後のこと。

 ストライダーは総勢十三名の幼女たちを奴隷車に乗せ、元居た野営地へと戻っていった。正確には、野営地へともっとも近い場所に牛たちと車を残して、幼女たちを連れて戻ったのである。
 なお、SANSAIは奴隷車の護衛として残していった。 

 その後は、IKUMIにとっては戦争前夜のように忙しかった。

 リューコ、マリティア、アマナを洗い清めたように、新たに救い出したモモたちの身体を洗ってやったのだ。当然、水の精霊術で身体を清潔にしたのである。

 しかし、それを始めるまでが大変だった。

 「…怖い…」

 いきなり身体を洗うから服を脱げと言われ、警戒心を露わにする十人の幼女たち。ストライダーIKUMIに開放はしてもらったが、最初からすべてを信用できる訳もない。

 (いや、俺はロリコンじゃないぞ…とはいえ、いきなり身体を洗うから服を脱げと言うのは、刺激が強すぎたか…)
 
 これには、IKUMIも困った表情を浮かべる。十三人の幼女を養う立場となったため、幼女十人とのコミュ無しで物事を進めなければならないのだが、さすがに立場の違いからか、IKUMIの行動は初っ端からまったく理解されなかった。

 「大丈夫だよ! IKUMIさんはやさしいよ!」

 「身体を洗って貰うのは気持ち良かったですの」

 「…じ…じつ…」

 これは困ったと、ストライダーIKUMIは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。そんなIKUMIに、三人の幼女、リューコ、マリティア、アマナが助け舟を出す。 

 「…本当?」

 十人の幼女の代表しているモモが、リューコたちの説得に対し、そう尋ねる。 

 「うん!」

 「IKUMIさんは選ばれし者です。悪人ではないあなたたちを、苦しめるような真似はしませんの!」

 「し…し…んよ…して…」

 「…みんながそこまで言うなら、信用するけど…」

 朗らかに笑顔で答えるリューコたちの言葉に、顔を見合わせる十人の幼女たち。だが、リューコたちの言葉あってのことか、次第に警戒感を解いて行くのであった。 

 「…ああ、そうだ。怖いことはない。むしろ気持ち良いはずだ」

 (…そうやってサポートして貰えると、地味に助かるな)

 「………それじゃあ、お願いします」

 最初は水の精霊術と、裸になれとの言葉に驚愕したモモたちであったが、IKUMIは悪人以外は粗末には扱わないと説明されると、全員が納得して大人しくなった。
 モモたちも、悪を打ち倒す選ばれし者のお伽噺は知っていたからだ。
 また、お伽噺のような救出劇を現実に経験していた幼女たちは、かなりあっさりとその現実を受け入れることができた。
 目の前にいるIKUMIのことを信用し、その指示に従うことが正解と認識したのである。

 (ふう…やれやれ) 

 幼女をあれやこれやと説得する手間が省けて、ホッと一安心するIKUMIである。

 「では始める」

 「おっ、お願いします」

 「優しく…お願いします」

 「がっ、我慢します!」

 「…そんなに心配するな。すぐ終わらせる」

 かくして、新たに仲間たちとなった十人の幼女たちの入浴が始まった。

 「冷たい! けど気持ちいい!」

 「すごく素敵!」

 「汚れが流されるって素敵!」

 「順番で洗ってやるからはしゃぐな。終わったら、手拭いで良く身体を拭けよ。とりあえず精霊術で、木の葉の服を出してやるからな」

 「はい!」

 「楽しい!」

 「これなら、もっと早くやって貰えば良かったね!」

 「うん!」

 そんな会話をしながらキャッキャとはしゃぐ幼女たちと宥め、何とかIKUMIは十人の幼女たちの入浴をやり遂げた。


 そして入浴後。


 一旦着た木の葉の服を脱ぎ、洗い終えた囚人服を再び着用した幼女たちは、大人しく次の指示を待った。

 IKUMIとしては、十人の幼女たちに十分な着替えを与えたかったのだが、そんな都合よく替えの衣服は持っていなかった。
 そのために取り敢えず、精霊術で作り出した木の葉の服と、元々あった囚人服で我慢して貰うことにした。

 そうしてIKUMIは、次の食事の準備へと取り掛かった。三人娘含めた十三人の幼女たちは、これといって指示はない。

 「あの…手伝いますか?」

 「気持ちは嬉しい。だが、君たちも疲れているだろう」

 なでなで。

 なでなで。

 なでなで。

 また何か手伝おうかと申し出てきたリューコたちであったが、それは丁重に断るIKUMI。そのなでなでの短い間だけ、IKUMIはホッとした表情となり、何とか休めた。

 「前にも言った通り、今は休んで体力回復に勤めてくれ。今、食事を用意してやる」

 「はい、解りました」

 「解りましたの」

 「は…い」

 「では、モモたちと共に待っていてくれ」

 次々と肯く幼女たち。

 「良い子だ」

 再び、なでなでと三人娘の頭を撫でてやるIKUMI。再び上目遣いにIKUMIを見詰めて、頬を染めるリューコ、マリティア、アマナの三人娘であった。
 そして、新たに一行に合流した幼女十人にとっての、久方振りにゆっくりとした時間が過ぎていった。


 料理完成後。 


 ぐうっ。 くううっ。 きゅう…

 IKUMIの料理の香りに反応したモモたちのお腹が、その様に鳴り響いた。それを恥ずかしく思ったのか、真っ赤になってお腹を押さえる幼女たち。

 「その様子なら、内臓はまだ健康そうだな。良いことだ。だが、せっかくの料理だ。ゆっくりと食べて、お腹を壊さないようにな。さっ、食べてくれ」

 「はっ、はい。いただきます」

 「あっ、ありがとうございます。いただきます」」

 「とっても美味しそう」

 「こんなに良くして貰って、奴隷だった時が嘘みたい」

 「助かって良かった。いただきます」
 
 「ええ。いただきます」

 「ぐす、美味しそう…いただきます」

 「いただきます。嬉しいです」

 「いた…いただきます!」

 「いっ、いただきます」

 それぞれ、屋台の客用だった深皿に盛られた料理を受け取り、嬉しそうに夕食を取る十人の幼女たち。スプーンで掬った雑炊を口に入れると、目をキラキラとさせて、本当に嬉しそうに食べるのだった。

 幸いなことに、リューコら三人娘より奴隷に堕とされた期間が短かったモモたちの胃や腸は、普通の食物を食べられる状態であった。
 しかし、大事を取ったIKUMIは、消化の良い雑炊系の食事を大量に用意して、彼女たちに分け与えたのだった。

 久々の十分な食事に、純粋な笑顔となって食事を取った幼女たち。腹を満たしたからか、みんなとろんと瞼を重くし、眠たそうな表情になってきた。

 「ふうっ…」

 (…予想外に疲れる)

 その眠気は、これまでの幼女たちの世話で消耗したIKUMIも同様だった。昼間の奴隷商の討伐含め、慣れないことの連続だ。
 これまでの慣れない事態は、IKUMIの精神をかなり疲弊させた。

 正直、眠い。

 慣れている荒事とはまったく違う次元の苦しさ。

 十三人の幼女の世話は、これまでとまったく違う次元の疲労を、IKUMIの心身に齎すのだった。

 (…だが、次だ)

 そこでまでやり終え、やっと一息ついたIKUMIであったが、ここで眠る訳にはいかない。

 すぐにやらなければならない作業があるのだ。それは、十人分の寝床の準備だった。

 モモたち十人の幼女は、奴隷車に押し込められていたため、満足に手足を伸ばして眠ることができず、寝不足状態だった。
 IKUMIは彼女たちのために、すぐに寝床を用意しなければならない。

 (精霊術を連発できなかったら、幼女の世話は途中で破綻していたな。今日ほど自分が選ばれし者で助かったと思った時はなかったな) 

 森の精霊との交信で、IKUMIは今必要な物がある場所を認識できた。

 素早く森に入り、森から必要な物をかき集めてくる。

 敷物にする乾いた大量の枯葉。テントの枠組みにする枝の切り出し。育成する植物の種。

 それ等を大量に集めてきたIKUMIは、枯葉を敷き詰めたその上に、二重に毛布を敷き詰め、大きな寝床を用意した。
 毛布は倒した奴隷商人たちから奪ってきた物である。

 「フムッ!」

 ザワザワザワザワザワザ、ザワザワザワザワザワザッ。

 さらに、その寝床の上にはテントの枠組みを組み上げ、木の術法で種を育て、蔦と葉のテントを生み出した。精霊術を上手に使い、手早く夜露を凌ぎ、室温を維持できる、簡素な建造物を造り出したのだ。
 地球の小学校風に言えば、夏に日除けに張り巡らすグリーンカーテンを、テントバージョンへとアレンジして生み出したのだ。

 「!? 凄い」

 「素敵ですの。万能ですのね」

 「もり…せ…れ…す…ご…い…)

 続いて三人娘たちの簡易ベッドの上にも、グリーンテントを造り上げるIKUMI。リューコたちも、複数の術法を自在に使いこなすIKUMIのレパートリーの広さに、驚き目を丸くする。

 「ふうっ」

 そこまでIKUMIが作業を終わらすと、時刻はもう宵の口となっていた。日は落ちて周辺は薄暗くなり、代りに月が昇ってくる。少し早いが、夜明けと共に起き出し、日が沈むと共に眠る、この世界の良い子たちは、もう寝る時間となっていた。

 (まだだ。まだ寝られん。あの娘たちを、寝る前に安心させてやらねば)
 
 黒装束の保育士兼コック兼グリーンビルダーをやり終えたIKUMIは、二つの幼女たちのいるグリーンテントへと赴き、新たな指示を伝える。
 幼女たちに今日中にしてやれるお世話は、これで終了である。

 「みんな、もう寝ろ。明日の朝は早い。食事の後に、俺たちの拠点となる廃村へと向かう。それまできっちりと睡眠をとれ」

 「…はい…」

 一つ目のグリーンでは、最後まで何とか目覚めていたモモが、そう返事をして眠りに落ちた。

 (次)

 「おやすみだ。リューコ、マリティア、アマナ」

 「…ふゎい」

 「ふわっ…はいですの」
 
 「…わふっ」

 「良い子だ。俺も少し休む。ただ見張り役はきっちりとやっておく。心配するな」
 
 十人の幼女たちに安心して眠れと伝え、その後、三人娘のグリーンテントを訪れたIKUMI。疲れで寝ぼけ眼になっている三人娘にそう告げると、グリーンテントを後にした。

 (…少し寝るか)

 そして、IKUMIも自らの仮眠のために、近くの大木の根元で、幹に上半身を預けるのだった。一応、警備のために土の中に潜むことはなく、そこで仮眠を取るのだ。

 そっと瞼を閉じるIKUMI。 

 日が変わる頃には、TURUGIが野営地へとやって来ることだろう。

 彼に振る舞う料理を屋台で準備する前に、少しだけ休むことにしたIKUMIである。

 その頃、それなりに長い奴隷生活で疲れ切っていた幼女たちも、大人しく眠りに落ちていた。IKUMIに護られていると意識できたため安心して眠れたのである。

 この日の幼女たちは、奴隷にされてから初めて、安心して眠れる夜を迎えたのだった。


 ◇ ◇ ◇


 そして、日が変わる時刻。

 「珍しく遅かったな?」

 「ああ。少し離れた場所で、YASAIが装甲猪に殺された男の死体を見付けてな。武器は良い品を持っていたから剥ぎ取ってきた。死体はYASAIが旨そうに喰ったぞ」

 「…心当たりがある。討伐した奴隷商の仲間だな」

 「ああ。それであんな大所帯になったのか。複数の寝息が聴こえてくるぞ」

 「そういえば、夜はお前の得意な領域だったな。日(光)属性は便利だな」

 「ああ、暗視でハッキリと物が見えるからな。そんなことより今夜の料理を頼む。それだけが楽しみでな」

 「了解だ」

 屋台提灯の灯りの許で、男性二人の会話が始まった。

 屋台がある野営地へとやって来たTURUGIと、仮眠で回復を果たしたIKUMIの会話であった。

 コトッ。

 今夜はカウンターに料理が出された。屋台の外に食事用の机が用意された昨夜とは違い、そういった趣向のようだ。

 「ほう。握り飯に狼肉と穀物の煮物。汁物と山菜か。えのころ飯はどうした?」

 カウンター前にの椅子に座ったTURUGIが問い掛けた。

 「材料が切れた。新しく連れになった娘たちの保存食分しかもう余裕がない。今夜はそれで我慢してくれ」

 「むっ、そうなのか?」
 

 「ああ、屋台はこれで閉店だ。明日の朝には拠点にする廃村に向かわんと、色々と詰む。握り飯は明日の朝食の準備の予行演習に、炊いた米を使った」

 「忙しないな」

 握り飯を食べ終えたTURUGIが、ちょっと残念そうに言う。だが、今のIKUMIの置かれている状況を見ると当然と思うのだった。

 「俺は未成年の面倒を見ることに妥協は差し挟まない主義だ。そこはお前が我慢してくれ」

 「仕方ない。これを喰い終わったらもう一度、米ともろこしの粉を持ち出せるだけ持ってくる。北から攫われてきた小娘たちの面倒を見てくれと言ったのは俺だからな。自分の言動の責任は果たそう」

 「頼んだ。正直、食料の面倒はお前にやってもらわんと廻らんからな」

 「ただ、お前の日本食が中々喰えんようになるのは痛いな」

 「ふっ、そう言ってもらえると報われるよ。正直、慣れんことばかりで疲れた」

 「仕方ないな。食料を待ってきたら俺が夜警をやってやる。明日の朝まで休めよ、IKUMI]

 「…今夜は素直にその提案に乗ることにするぞ」

 素直にTURUGIの提案を受け入れるIKUMI。なぜなら、IKUMIにとっても今夜を最後に、満足な安眠ができなくなるかもしれないからだ。それだけ幼女たちの世話は忙しいのである。

 それを今日一日で経験したため、IKUMIもTURUGIの提案を受け入れたのである。

 「さて、行ってくる。ごちになった」

 IKUMIの料理を味わい終えたTURUGIが、そう感謝を込めて言い、立ち上がる。

 「明日は早いんだろう。今夜の食事はこれだけで結構だ。今の内に休んどけよ」

 席を立った囚人姿の男は、そのまま夜の闇に消えていった。

 ふうっ。

 そんなIKUMIの溜息も、TURUGIを追うように闇に溶け込んでいく。

 「…」

 (TURUGIが食料を持ってくるまで仮眠しとくか)

 屋台から離れたIKUMIは、近くの幹に寄り掛かり、無言で瞼を閉じて仮眠に入るのであった。 
 
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