ストライダーIKUMI~奴隷を助けたら求婚された。だが気にしない。

ゆっこ!

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 第十二話 北方諸国連合領の暗闘。

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 その変化は、トーリン一帯から遠く離れた、ある暗黒街で起きたことである。

 ジワリ…

 対象の生命の状況によって、色のグラデーションが変化する精霊具の一種類に、精命符という品がある。

 その一つが、北方諸国連合に存在するある男の館で、急速にどす黒く変色していったのだ。

 時刻は昼下がり。精霊術の対象としている人物は、奴隷商の一人、リ・コリンという男だった。

 北方諸国連合と国境を接する敵対国、ホーリーズ・クランの手下となった売国組織の中堅幹部で、ニ週間ほど前、国境を越えた先のトーリンへと、奴隷娘を引き渡すため旅立った男だ。

 「むっ!」

 売国組織の幹部ロード・ヤポニンが鋭く声を上げた。壁に貼り付けてあった精命符の変化に、逸早く気付いたのである。

 「どうしたのだ? ヤポニン?」

 そして、たまたま居合わせたもう一人の組織幹部サイ・カシンが、ヤポニンの変化を訝しみ、何事かと疑問を投げ掛ける。
 リ・コリンの精命符の貼られていた場所がサイの真後ろにある壁だったため、サイには、ヤポニンが声を上げた理由が解らなかった。

 「…リ・コリンの精命符が変色した。後ろにある壁を見て見ろ。真っ黒だ。殺されたな」

 「…本当か?」
 
 ヤポニンからそう聞いて、半信半疑のサイが警戒しながら後ろを向く。
 サイがそうしたのは、下手に後ろを向けば、奇襲されるのではと心配したからである。
 サイは仲間と言えど、後を向けと言われて「はい、そうですか」と振り向ける程、ヤポニンを信用してはいなかった。

 「…これは…拙いな…」

 精命符の変化を確認し、サイが呟く。
 
 じつは、最近不審死した組織の中堅メンバーは複数人存在した。どれも意図的に狙われ、抹殺されたとしか思えないケースと言えた。
 これが一件だけだった場合、サイも軽く流しただろうが、こうも立て続けに不審死が発生すれば、さすがに警戒する。

 戦乱のどさくさに、自分たちの組織が攫った良家の主だった娘たちは、ホーリーズ・クラン側の要求通りにトーリンへと護送した。
 だが、それと時を同じくして、中堅幹部たちの死亡事件が頻発した。
 
 そのために組織の上級幹部たちは、ホーリーズ・クランが自分たちを裏切り、中堅幹部たちの情報を北方連合側に売ったのではないかと疑心暗鬼に陥っていた。

 幼い娘を誘拐して、その親たちを連合から裏切らせる作戦に、もう誘拐組織は必要ないと、切り捨てに掛かったのではないか。

 サイ・カシンは、そう考えてホーリーズ・クランを疑っていた。

 その対策をロード・ヤポニンと話合うべく、サイは彼の許を訪れていたのである。精命符によるリ・コリンの死の知らせは、調度そんな時に起こった事件であった。

 「ああ。また組織の人間が殺されたな。俺たちが不要になったホーリーズ・クランに切り捨てられたか、それとも連合の刺客に見付かったか………どちらにしろ面白くない事態だ」

 「…」

 (そんな悠長なことを言っている場合か。次は俺たちかもしれんのだぞ) 

 ヤポニンほど冷静になれないサイが黙り込む。理性をかなぐり捨ててまで叫びだすほど、サイはまだ追い詰められてはいなかったが、もうポーカーフェイスを維持することはできなかった。
 しっかりと表情に、その不安が映し出されている。
 
 もう黙っていられるほど、サイは余裕を持ってはいられなかった。

 「…」

 じつは、常にポーカーフェイスで冷静に見えるヤポニンも、それはサイと一緒だった。ただサイよりはポーカーフェイスの維持が巧みなだけである。

 「…お前の懸念は解る。こちらも暗殺者を雇って守りを固めるのと、今まで以上の情報収集が必要だな………奴等に…朧衆に連絡を取ってみるか。どう思う?」

 現状、それがヤポニンがサイたち上級幹部たちに提案できる、最善の策であった。北方諸国連合の闇の中で暗躍する忍の集団との同盟だ。
 サイと相談するまでもなく、そのくらいのことは考えていたヤポニンである。 

 「…奴等か。しのぎの一部を与える交渉も必要かもな。それをケチって命を落としたら、ただの馬鹿者だ。元も子もない。すべては命あっての物種だ」

 「それには同意する。俺の提案には賛成してくれると思っていいんだな?」

 「ああ。頭にくる話だが、ここはお互いクールにならんとな。他の幹部たちの説得は俺に任せろ。連中も馬鹿ではない。半数以上は同意するはずだ」

 「…頼むぞ。対策が後手に回って命まで失うのは、俺は御免だ」

 「同感だな。俺は早速、残りの五人の幹部と話を付けに行く」

 「ああ、頼む。俺は酒場にいる朧衆のエージェントと接触してくる」

 話を終えた二人は、席を立って握手をする。

 内心、互いに対して裏切るなという握手であった。

 その後、館がある二階からサイ・カシン一行を見送るロード・ヤポニン。その後ろには、側近の屈強の男たちが控え、主の指示を待っていた。

 「………俺も行くぞ。お前たち出かけるぞ。車を回せ!」 

 ロード・ヤポニンは、部下を引き連れて出ていくサイ・カシンの姿を確認した後、そう指示を出して他の幹部たちの所を回る準備をするように、部下たちに告げた。

 「親父がお出かけだ! お前ら急げよ!」

 「へいっ!」×4

 五人の部下たちがヤポニンに傅き、その指示に従うのだった。 


 ◇ ◇ ◇


 「…こちらサン。ロード・ヤポニンの館で動きがあった。客だったサイ・カシンは、暗黒街方向に向かった。この場の監視を続け、定期的に連絡する」

 [こちらスイ。KAGAMIさまに早速伝える。そちらは頼む]

 「頼むぞ。それでは通信を切る。次の通信を待て」

 [了解だ]

 ヤポニンの館からかなり離れた位置から、密かに館の動向を探る忍の者の双眸があった。
 その女忍者は、精霊具の中でも珍しい、遠方との通信が可能な品、伝話府によって遠方にいる仲間と通話をしていた。

 木陰に身を隠す彼女は、そのまま館の監視を続けようとしたが、それは中断を余儀なくされた。

 「!? スイ、聞こえるか! 緊急事態だ!」

 [どうしたのサン?]

 「KAGAMIさまに伝えろ。普段は館から出てこないヤポニンが外出する。チャンスかもしれないとな」

 [解った! すぐに伝えるわ。支持を待って!]

 「距離を取って追跡する。次の通信を待て」

 [ええ!? 止めても無駄みたいだから言うけど、気をつけてね!]

 「その心算だ! 切るぞ!」

 サンは、同僚の女忍者にそう告げて、暗黒街の方向へと走って行く馬車の追跡を開始した。


 ◇ ◇ ◇


 「そう…スグリ。歓楽街に潜ませた者達を全員集めて。やるわよ」

 スイの報告を聞いたKAGAMIは、側近のスグリにそう指示した。連日続けていた幼女救出作戦の仕込みがやっと実を結んだので、次の段階へと移る指示を、配下の忍びの者たちに伝えたのである。

 「了解しました。サイ・カシンやロード・ヤポニンたち上級幹部たちを始末するのですね?」

 「やっちゃうんですか?」

 「ええっと………二人とも殺意が高いわね。やるのは暗殺ではなく、攫われて監禁された女の子たちの残りの救出よ。当初の目的通りにね」

 「そういえば、そういう予定でしたね。幹部を拷問して殺せないのは残念です」

 「えー救出だけですか? これ以上幹部は殺さないんですか?」

 (あの…二人共、殺意が高すぎない………?)

 あまりの配下二人の殺意の高さに、KAGAMIはそれはそれは困った顔をした。

 組織に誘拐された幼女たちには、誘拐のターゲットに選ばれ攫われた子と、大量に攫えば、その中にターゲットがいるだろうと、いい加減な理由で一緒に攫われた可愛そうな幼女たちがいた。
 
 KAGAMIは、そんな幼女たちを残らず救う心算であった。

 これまでの行動は、その前の仕込みである。

 売国誘拐組織の中堅幹部を敢えて連続で殺害し、上級幹部の警護を強化させた後、相対的に攫われた幼女たちの警備を弱体化させて、救出する作戦であった。

 「ごめんね。今回は攫われた子たち救出がメインなの」

 そう言って、育て方を間違ったかもしれない二人の配下を、何とかして諭そうとするKAGAMIであった。

 (でも、悠長にそんなお説教をしている場合じゃないわよね。ここは幼女たちの救出に集中しないと)

 だが、今は悠長にそんなことをしている場合ではない。

 だから自分の想いは押し殺し、お説教は自重して不確定要素を潰すことにしするKAGAMIであった。

 (とりあえず、自分を押さえられるスグリは良いとして、無駄に殺意の高いスイは、暴走しがちなサンとセットにしておくか。まあ、二人だけでも、ピンチを切り抜けられる手札は与えてあるし…)
 
 「…スイは本当に殺意が高いわね。もしサンと合流したいのだったら、合流して幹部たちの監視に当たって。そちらも重要だもの」

 「え? いいんですか!」

 「いいわよ、気をつけてね。実際、向こうはサンだけだと心配だけど、あなたと一緒なら安心よ」

 「了解です! スイは可愛くて強いですからね。サンをしっかりサポートしてみます。今、連絡をして合流しに行きます!」

 (どさくさに紛れてこの子、自分は可愛いって言ったわね…育て方、本格的に間違えたかしら…?)

 「ええ。よろしい。行ってきなさいな。ある程度好きに動いて。でも、スグリとの連絡は密にね」

 スイの元気っ子振りを見て、KAGAMIは少し頭痛がした。

 しかし、KAGAMIはそんなことはお首にも出さずに、指示を出して早よ行けと手を振るのであった。

 「は~い!」

 スイは元気にそう返事をし、「フリーハンドを得たぜ!」と女忍者たちの拠点である森の館から凄い勢いで飛び出していった。
 なお、森の館は、KAGAMIたち「月影」の衆の、北方諸国での拠点の一つである。

 「ふうっ」

 「相も変わらず頭領は下忍に甘いですね。まあ、私はそんな頭領は嫌いじゃないですよ」

 「…それはありがとう。そう言う貴女だって充分自由じゃなくって? スグリ」

 「頭領の指導の賜物です。治す心算はありませんが」

 「…褒め言葉として聞いておくわ」

 一方、森の館に残ったKAGAMIとスグリは、二人で手分けをして伝話府での部下招集を開始した。

 もちろん、忍び集団のくせに自由という一風変わった気風を持つ、月影一味の頭領と副官らしくである。

 二人は、歓楽街での情報収集班、暗殺班、武器整備班へと、次々に集合を打診していった。

 その結果。

 程なく、月影の衆は一部を除いて集合することなる。

 これで攫われた幼女たち救出の準備は、KAGAMIの望み通りに、滞りなく整うこととなる。


 北方諸国連合の闇の中、戦乱のどさくさによって攫われた幼女たちを巡る戦いは、こうして苛酷な様相を呈していくのだった。 

  
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