ストライダーIKUMI~奴隷を助けたら求婚された。だが気にしない。

ゆっこ!

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 第二十九話 翌朝の修業。

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 「………ん?…ふあああ………」

 長い欠伸の後、両手を伸ばしたリューコが、両瞼をしばたたかせて薄目を開けた。まだ外は薄暗く、草花も鳥たちも、目を覚まさない微睡の時間帯であった。

 (ああ………昨日、私だけ夕食前に一旦寝たから、身体がみんなより速く起きちゃったんだ…」

 ストライダーによって奴隷の身から解放され、辺境の村で共同生活を送ることとなった幼女たち。その一人であるリューコ・コリネは、この日、誰よりも早く目を覚まして活動を開始した。
 この村のリーダーとなったストライダーIKUMIも、まだ野外で休んでおり、リューコは実際に、誰よりも速く起きたのであった。

 「…えと、まずは…」

 (寝ていた間に失った水分の補給だね。それにうがいと歯磨き、洗顔。その後に花摘みに厠に行って………それからどうすればいいんだっけ?)

 とりあえず、一緒に寝ていた子たちが目を覚まさないように、リューコはそっと起き出して、外の洗面所へと向かうことにした。
 ストライダーにそうしろと教えられていた通りに、一つ一つの物事を済ますこととしたのだ。

 (そうだ! 花摘みが終わったら精霊術の自主練習をしてみよう! IKUMIさんは朝食の後、土塁の周りにお堀を配置して、水を流し込むって言っていた。それまで自主的に、木の精霊に呼び掛けをしてみよう!)

 音を立てないように忍び足で戸口へと向かったリューコは、早朝の自由時間を「まずは自主練だよ!」と決め、早速、屋内から出て行くことにした。

 (そっと、そおっとだよ…)

 同室でまだ寝ている子を起こさぬよう、リューコは忍び足で扉まで移動していく。

 (えへへ、ちょっと楽しい♫)

 忍び足を成功させた幼女は、その幼い手でカチャリと扉の鍵を開ける。そしてギィィィ…と扉が開いていった。

 「先に行くね」

 …パタン。

 小声でそう言い残し、無事に部屋を出たリューコ。彼女はそっと扉を閉め、通路を抜けて屋外へと向かうのだった。

 すー、すー。

 その頃、部屋で安眠している幼女たちは、リュ-コの小声には何の反応も示さなかった。ストライダーに守られている安心感も手伝って、本当に安心し、熟睡していたのである。

 こうしてリューコは、無事に一人だけで屋外へと出たのだった。
 

 ☆ ☆ ☆

 しばらく後、リューコは村の通りから外れた場所にある、防風林の側まで移動していた。もちろん、木の精霊術の自主練のためである。

 水分補給、うがい、歯磨き、洗顔、そして花摘み、手洗いと、気分よく済ませたリューコは、いよいよ一人で精霊術を使用すべく、誰かの邪魔にならない様この場所までやってきたのである。

 「うん、花も咲いてる」

 防風林の木陰周辺には、可憐で小さな花が蕾を開いていた。これなら間違いなく木(花)の精霊へと、リューコの呼び掛けは通じるはずだ。

 「ふうう………」

 リューコは昨日経験した感覚を再現するべく、早速、ストライダーの精霊術を真似してみる。

 (まずは集中………そして自分と精霊を一つに結び付けるイメージをして………呼び掛ける)
 
 属性こそ違うが、一旦、この世に住まう精霊を自身の身体へと呼び込み、己の力と一体化させる、その後、外部へと術の力を解き放つ。
 そんなイメージを固めて、リューコは自分と同じ属性である、木属性の精霊へと呼び掛けた。

 (花の精霊さん、私の身体の中へと入って来て! 私を助けて!)

 IKUMIが語っていた通りならば、自分は木(花)の精霊に祝福を授かったいるはず。そのえにしを信じて、リューコは呼び掛けを続けた。

 (あっ!?)

 「…できた…」

 自分の身体の中へと、力ある存在が入り込んでくる感覚。それは間違いなく、昨日感じた状況と同じ感覚であった。

 (…これが花の精霊さんなのね…)

 微かに感じる花の香りのようなさりげなさ…でも確かなそ存在感と力を持つ存在が、リューコの身体と重なっていく。
 それは、昨日感じた水と地の精霊とはまったく違う存在感であったが、彼のモノたちとどこか同じ、互いに繋がり合う暖かさを持っていた。

 (…花の精霊さん、私の力とあなたの力を、目の前のお花たちに分け与えて…)

 「………えいっ!」

 リューコは術のイメージを整えると、眼前の小さな花園へと両手をかざした。そして、花園の草花に水を灌ぐイメージを持って術を解き放つのだった。

 パァアアアアアアアアアアア!!!!

 その力を注ぎ込まれ、小さな花園に咲く花々に大きな変化が生じる。特に顕著な変化は、開いていなかった蕾が次々と成長していき、開花していったことだ。

 「!?…できた!」

 その結果を受けて、リューコが満面の笑みを浮かべて歓びの声を上げた。微かに顔を上気させて荒い呼吸へとなっとなっていく。
 始めて一人で精霊術を使用し、予想以上の成功が得られたためにテンションアップし興奮状態となったのだ。

 (っふええ、いっ、いけない。こんなに興奮していたら、お花さんや精霊さんに笑われちゃうよ)

 「ふ~」

 (冷静に…冷静に…)

 大きく息を吐き、落ち着こうとするリューコ。最初の精霊術へのアプローチは成功だった。次の段階も冷静にやれたなら大丈夫なはずと、深呼吸する。
 まずは落ち着くことが寛容だ。

 「よし!」

 (花園の草花たちは元気にできた。次は………そうだ、元気のないお花さんがいたら、別の場所に植え替えて、そこに力を注いでみよう!)

 タッと大地を蹴り、小走りに走り出しすリューコ。
 向かった場所は村の農機具置き場である。次の精霊術の段階、村に残る農具での草花の植え替え、再生させる準備だ。新たな精霊術へのアプローチを試すべく、まず手頃な農具を持ち出すことにしたのである。

 「頑張るよ!」

 早朝、一人張り切るリューコであった。


 ☆ ☆ ☆

 その頃、村の中心付近の地中でストライダーが目覚めていた。地行の術を利用し、地中で睡眠をとっていたのだが、リューコの術の気配を感じて身を覚ましたのである。

 (ん? まだ未熟だが、確かな精霊術の反応があったな…この木属性…リューコか)

 ボコッ、シュンッ、シュタッ!

 蟻地獄の穴のように大地が陥没するとともに、その穴の中心からストライダーが飛び出す。ストライダーはその手前へと卒なく着地すると、気配が生じた場所へと向かった。

 (こんな朝早くから練習とは感心だな)

 「さて…」

 (…行くか)

 リューコの朝練にそう感想を持ったIKUMIは、軽い屈伸運動で手足を伸ばしながら小さな花園がある場所へと向かって行った。朝の身嗜みを整える作業も、水の精霊術を使って簡単に済ませる。
 伸ばした身体の調子は悪くない。
 村の作業後の僅か数時間の睡眠であったが、IKUMIは十分に回復を果たしていた。朝食の前にリューコの練習に付き合うのも苦とはならないIKUMIである。

 (…ほう。どの花も元気だな)

 花園近くまで来てみると、リューコの精霊術を受けた花々は、小さいながらに艶やかに咲き誇っていた。IKUMIの見立てでは、リューコの木属性の精霊術は十分及第点に達していた。

 「!? IKUMIさんだ、起きてたの?」

 そこに、タタタッと農機具を持ったリューコが駆け戻って来た。

 「おはようリューコ。見事な精霊術だ。すぐ気付いたよ」

 「!? えへへ、おはようございます!」

 朝の挨拶を終える二人。会って早々褒められて、悪い気はしないリューコであった。またIKUMIも、精霊術の弟子の一人が「自分は優秀だ」と示して見せてくれたので、悪い気はしないのであった。

 「それで、農具を持ち出してどうする気だ?」

 「えっと、他の弱ってる草花を日差しの良い処に植え替えて、元気に出来ないかなって…」

 「ああ、悪くない修行法だな。それで農具を持ってきた訳だ」

 「はい」

 「では、やって見せてくれ。俺も手伝おう」

 「本当ですか。良かった!」

 「ああ、リューコ。どうやら今回が俺と君だけの共同作業になるようだ。術に拙い点があっても俺がサポートするから安心してくれ」

 「!?!?!?」

 (二人きりの共同作業!? は! そう言えば早朝に二人っきり!? そっ、その気になればここでっ!?!?!?)

 この時、リューコの体が電撃を受けたかのようにビクンッと跳ねた。予想外の言葉を聞いて、リューコの頬が真っ赤な薔薇色に染まる。
 リューコは、子供がしてはいけない妄想をガッツリしてしまったのである。
 なぜなら、リューコにとってIKUMIは恋愛の対象たる異性。未来の旦那さまと決めた相手だからだ。

 しかし、ロリコンじゃないIKUMIにとっては、これからの練習補助をただ普通に説明しただけである。

 「どうした? 恥ずかしがって固まっている場合じゃないぞ。朝食前に練習を済ましてしまわんとな」

 そのため、リューコが動揺する本当の意味には気付かずにスルーしてしまう朴念仁なIKUMI。単にリューコが二人による本格的な練習と聞き、緊張したのだと思ったのである。

 「は、はひっ! 頑張ります!」 

 (そっ、そうだ…いっ、今は精霊術の練習に集中しないと!)

 IKUMIの呼び掛けに少々動揺した返事を返すも、リューコはすぐに内心の動揺と妄想を抑えるのだった。
 今は発情している場合ではない。
 そう自分へと言い聞かせる幼女だった。

 (そう。今はそんなことよりも練習よ!)

 気を取り直したリューコは、自分の妄想を打ち消すように辺りをキョロキョロと見回した。
 そして、まず弱った草花を掘り出すべく、日当たりのあまり良くない場所へと、その足を踏み入れていったのだった。
 

 
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