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第2章この度、学生になりました。
37*好きな人の親に会うって緊張します。
しおりを挟む皆さんこんにちは。ティナ・エヴァンスです。
いきなりですが私は今、ものすごく緊張しています。それはなぜかというと…
「お茶のお代わりはいかが?」
「あ、は、はい、いただきます。」
「ふふ。そんなに緊張しないで?とって食べたりなんかしないから。」
そう言ってティーカップを上品に啜っているのはディナンのお母様、つまり、王妃様です。
優しそうに見えて有無を言わせない迫力があり、怖いだけではなく、綺麗すぎて目がチカチカしてきます。
王妃様っていうだけでドキドキと動機がすごい事になっているのに、ましてや好きな人のお母様と二人きりでお茶会だなんて…!嬉しいですが、嬉しいのですが!!!
今朝、王妃様の侍従の方が来て、心の準備も何もできないままにあれよあれよと王宮へ参りました。なので、いまは最高級であろうおいしいお茶も味がしません。
緊張で固まってしまっている私を見ながら、優雅にティーカップを啜る姿はさすが、貫禄があります。
「…昔から、ディナンに思い人が居ることは報告で知っていたけれど、まさかクロードの所の娘だったなんてねぇ。」
なにか、見定めるような…鋭い視線を向けられたかと思ったら、少しだけふぅっと小さく息を吐くのが聞こえました。
「お、お父様のことをご存じなのですか?」
「えぇ。私と、ハート騎士団長とあなたのご両親は同級生だったのよ。」
ふわりと懐かしむように笑って王妃様が遠くを見ます。
そのお顔がとてもお綺麗で、絵画のようです。
「…では、あたしのお母様のことも、ご存じなのですか?」
「えぇ。ミアとはよくランチを一緒に食べたわ。とてもよく笑う、不思議な空気を纏っているような人だったわ。一緒にいると気が抜けてね。私が悩んでいる事とか、難しく考えていた事が馬鹿みたいに思えてくるような…。ふふ。周りを癒してくれるそんな存在だったわ。…あなたは、クロードよりもミア似ね。笑った時のえくぼがそっくり。」
くすくすと笑って、王妃様はお母様のお話をしてくれました。お父様や、ジョーのお父さんのグラムさんの失敗談。昔、やんちゃしてた話など、滅多に聞けない事をいっぱい話してくれます。
お父様も、グラムさんもとてもモテたようで、よくお母様がヤキモチ妬いて王妃様に泣きついたり、かと思ったらお母様も陰で告白されたりして、お父様がお母様に泣いて縋った話など…学生時代の話を王妃様が教えてくれました。
そんな穏やかな時間が過ぎている時、庭園の入り口がザワッと騒ぎ出しました。
「チャコ!」
「ディ、ディナン!っ殿下!」
とても慌てたようで、少し髪が乱れたディナンが走って近寄ってきます。こんなに焦っているディナンは滅多に見ないので少しだけ驚いてしまいます。
「大丈夫!?何かされてない?何も言われてない?嫌な事とか…」
「えぇ??そんなこと言われてないよ?むしろ、とても楽しくお話聞かせて頂いていたよ。…さすがディナンのお母様。とっても綺麗で優しくて素敵な人ね。ふふ」
コソコソと耳打ちされたので私も小声で答えます。
「ちょっと?ディナン。いきなり来て失礼ね。何か用?」
少しだけキリっとした王妃様がディナンに問います。ディナンは不機嫌な顔を隠すことなく、少しだけ王妃様を睨みました。
「母上。なぜチャコがここに?」
「あら。あなたが婚約を申し込みたいと願ったからに決まっているじゃない。どんな子か見たくなるのは、母として当たり前でしょう?」
「た、だからって、私がいない時間を狙って呼びつけることないじゃないですか。」
「なによ。私には紹介する気が無いような態度をしていたくせに。」
小さい子供のように王妃様は口を尖らせながら反論しています。…かわいい。
ディナンも、図星なのかグッと苦虫を嚙んだ様な少しバツの悪そうな顔をしました。
「とにかく!こんな騙し討ちみたいな事はもうやめてください!…あと、私は本気でチャコ…いや、ティナ嬢と結婚したいと思っています。父上にも、今朝、報告して検討してくれるように話しました。なので、これからは他の令嬢とのお見合い話や、お茶会でわざと紹介してくるのはもうやめてください。」
「…そうねぇ。まぁ、見たところこの子は貪欲な感じにも見えないし…。ディビット達を脅かそうとはしないでしょう。…いいんじゃない?なにより、私も気に入ったわ。」
ニコリと綺麗な笑顔でお妃様に笑いかけられて、照れてしまいます。一方、ディナンは王妃様の反応が意外だったのか、ポカーンというような効果音が似合うくらいに目を丸めてビックリしています。
「…そうだよな、チャコだもんな。…うん、そうだな。心配しすぎだったか。そっか、そうだよな。」
ブツブツと勝手に一人で納得したかと思ったら、ディナンと目が合った瞬間、ホッとしたように笑いかけられました。あ、やっぱり親子ですね。穏やかな笑みがとても似ています。なんだか嬉しくなって、私もディナンに笑みを返します。すると、ディナンは途端に赤くなってプイっとそっぽを向いてしまいました。…あ、照れてる。かわいい~~~っ!ふふふ
「あらあら。見せつけてくれちゃって。ふふ。わかったわよ。じゃあ、邪魔者は退散するわよ~またね、ティナちゃん。」
「え、あ、いや…!ありがとうございます、いろんなお話が聞けてとても楽しかったです!」
王妃様は穏やかに笑いながら、後ろ手に手を振って部屋に戻って行きました。
「チャコ、本当に、母上に何も言われてないか?」
王妃様の姿が見えなくなってすぐに、ディナンが心配そうに聞いてきました。
「うん。最初はびっくりして緊張したけど、大丈夫だったよ。あのね、王妃様と私のお父様とお母様が同級生なんですって!それで、私の知らないお母様のお話や、お父様のお話を聞いていたの。とっても素敵な時間を過ごせたよ。」
「そうか。…ならよかった。」
「ねぇ?それで…その、どう、だった?」
自分から婚約の話をするのは少し気恥しいですけど、気になっていたのでそれとなく聞いてみました。気が早いって笑われてしまわないか少しだけ心配でしたが、ディナンは揶揄う事なく朝の様子を教えてくれました。
「ん?あぁ、今朝、父上にチャコとの婚約を申し出たよ。反応は…まだ、よくわからない。あ、でも好きな子がいるのかってニヤニヤはされたな。まぁ、私はチャコ以外とは婚約するつもりも、ましてや結婚するつもりもないって伝えたから、よっぽどのことがない限り大丈夫だと思う。まぁなぁ~、手続きに2か月はかかりそうだけど…。その後は、エヴァンス伯爵家に婚約の申し込みの手紙を送って、チャコの父上の了承が取れれば…だな。」
今後の流れをざっと説明してくれて、フムフムと相槌を打ちます。
「あ、…ふふ。」
「どうした?」
急に笑い出した私をディナンは不思議そうに見てきました。
「いや、婚約の申し出なんて今まで皆無だっただろうから、ディナンから手紙が来たらお父様驚くだろうなぁって思ったら想像して笑っちゃった。ふふ。」
「あぁ~…いやそれは多分…。いや、なんでもない。そうだな。私が一番最初だったらとても嬉しいな。」
ディナンは少し難しい顔をしたかと思ったら、一度首を振り、優しい笑みを返してくれました。
いままで、婚約の話がでたって聞いたことないから多分、初めてだとは思うんですよね。あ、もしかしたらジョーが昔、申し込んでいるかもだけど、真相はわかりません。いまさら、『昔、婚約の申し込みしたことある?』なんてジョーに聞けませんしね。なんにしても、私もお父様にそれとなくディナンのこと言っておかなければです!お父様は、王家に嫁ぐのは危険って考えている節があるようなので…それでも、私の気持ちを無視するようなお父様でないことはわかっているので早めに言っておくのがいいかもしれません。
「チャコ、これから少し時間はあるか?」
「うん。大丈夫だよ。」
チラリとジンに目をやると軽く頷かれたので大丈夫という事でしょう。
「では、ちょっと、一緒に来てくれないか?」
「うん。いいよ。」
返事を返すと、ディナンは私をエスコートするように手を取って歩き出しました。
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