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第百五話 晩御飯は中華料理

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 宝石を納品する依頼を受けて、姫路ダンジョンの十階層までを攻略する日を重ねて、明日には《桜花の誓い》が帰る金曜日になった。

「今日十階層のボス部屋にチャレンジするんだろ」 
「ええ、二週間一生懸命努力してきたから、ボス部屋をクリア出来るほど強くなったと思う。今日が最終日だし、キッチリと達成して気持ち良く岡山に帰ることにするわ」

 《桜花の誓い》については慎重な真姫が、強気な発言をするということはよほど自信があるのだろう。

「《桜花の誓い》にとっては姫路最後の夜だ。十階層のボス部屋を攻略したら美味いものでも食いに行こうかと思っているんだけど、攻略後に食べたい物を決めてくれるとありがたいな。依頼の納品後に全員で食べに行こう。ボス部屋をクリアするまでは五人娘には言うなよ。変なフラグは立てたくないからね」
「了解よ。期待しておくわ」

 《千紫万紅》もダンジョンを探索する度に依頼を成し遂げると同時に、個人の能力上昇の手応えを感じていた。

「リーダー、マザーアントは二匹とも私がもらいます」
「じゃあ、皐月は美姫がマザーアントを倒すまでは美姫を護ってくれ、その間に詩音と僕はキラーアントを倒していくよ」

 十階層のボス部屋の前で順番待ちをしながら、作戦を決めていった。毎回マザーアントは取り合いになるが、今回は風魔法を矢に纏わせることが出来るようになった美姫へのご褒美である。二匹とも任せてこの階層までの探索の集大成にしよう。いよいよ来週からは次の階層に進む予定である。

 ボス部屋の扉が開いた。僕を先頭に四人がボス部屋に入り切る。扉が閉まって戦闘開始だ。

 美姫がマザーアントを狙っている筈だ。マザーアントから遠いところにいるキラーアントに向かい、風魔法の靴を発動させて高速で移動する。弱く魔力を刀に通して接近する魔物をすべて斬り捨てていく。目的のキラーアントに近づくや頭部に刀を突き刺し少し強く魔力を通す。次のキラーアントには躱し際にくびれを狙い刀を一閃し頭部を斬り落とす。ワークアント、フライアント、ソルジャーアントもどんどん集まって来るが、刀を振る度に消えていく。あっという間にハイタッチをして討伐完了を皆で喜ぶ。

「美姫、マザーアントはどうだった?」
「一撃です。リーダーが【風魔法】のスキルオーブを使わせてくれたことに感謝しています。矢に纏わせると威力が桁違いになりました。これからも遠距離攻撃は任せて下さい」
「詩音はどうだった?」
「私もキラーアントを一撃で倒せるようになったっす。敵の弱点に剣を正確に打ち込めるようになったっすよ」
「皐月はいつもありがとうな。皐月のおかげで皆が全力を出せる。これからも護りは任せるからな」
「オレもちゃんと役立ってるか?」
「ああ、信頼している。そろそろ仮パーティメンバーの仮は取って良いんじゃないか?」
「そうですね、私も賛成します」
「私はその時いなかったけど賛成っす」
「よっしゃー!これからも頑張るぜ!」

 宝箱の宝石を回収して、十一階層の転移の柱からダンジョンの外へ転移した。

 探索者センターには僕達の方が早く着いたようだ。食堂で飲み物を飲みながら連絡を待った。

 僕のアイスコーヒーを飲み終わっても連絡が来ない。時刻は五時になろうとしていた。

「なあ、遅くないか?」
「まだ五時にもなっていないですよ。心配しすぎだと思います。ボス部屋の順番待ちが長いのかも知れません」

 僕は連絡がない《桜花の誓い》のことが心配になった。攻略した後の話をしたのがいけなかったのだろうか。

「リーダー、どうしたの?顔色が悪いわよ」
「ダンジョンに入って《桜花の誓い》を探して来るよ。何かあったに違いないよ」
「リーダー、心配しすぎです。もっと信用してあげて下さい。皆強くなっているって言ってました。ここの十階層は超えられる筈です」

 僕がダンジョンに向けて食堂を出ようとしたときに、食堂に向かって来る真姫が手を振ってきた。

「ちゃんと十階層のボス部屋を攻略してきたわよ。今日の晩御飯は中華料理ね。あの回して食事をするやつが良いって決めてきたわ。なかなか皆の意見がまとまらなくて苦労したわよ。麟瞳さん、よろしくね。麟瞳さん、どうしたの?何か様子が変よ」
「皆、お帰りなさい。リーダーが心配して大変だったんですよ。《桜花の誓い》を探して来るとか言い出してここを飛び出していこうとしてました。五時でこの対応ですよ。クランハウスが出来たら、門限四時とか言い出しかねないですよ。何処の厳格なお父さんなのよって感じです」

 何もなくて良かったよ。しばらくの間からかわれて鬱陶しい思いをしたけど、本当に良かったよ。今までダンジョンでいろいろなアクシデントに遭って、少しナーバスになっているようだ。別に皆のお父さんになった訳ではない。………そろそろ、イジルのをやめてくれないかな。

 依頼達成の手続きと買取りの手続きを終えてダンジョンを出ると、もう六時半になっていた。抜かりなく受付嬢に美味しい中華料理屋を聞いてきた。少し遠いので、一旦拠点に戻ってから車で行くことになる。

 今日はジャンケンをすることなく《桜花の誓い》を先に送ることになった。《桜花の誓い》の打ち上げだから、三人が気を使ったんだよ。

 注文した沢山の料理が回転テーブルに乗っている。皆、回しすぎだって。左に右にグルグル回して料理を取り分け、賑やかに食事は進んだ。

 こうして《桜花の誓い》の姫路滞在の最後の夜は終わっていった。ご苦労様でした。





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