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第2話 プロポーズの理由(3)
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「クリステルは今日からウチで暮らし、僕であり僕の気持ちを傍で感じてもらう。拒めば、父さんに頼んでエリナス家の悪評を流すぞ」
彼が出してきたのは、強制的な同棲と脅迫。あの頃と同じように、『家』を対象にして脅しをかけてきました。
「君には、荒療治が必要なんだ。なに、すぐにクリステルも気付く事になる。さあ、準備をして行こう」
「私達の間に赤い糸なんてないのですから、荒療治も必要ありません。そういったものは諦めて、今すぐに帰ってください」
「断る。……クリステル、僕の言葉が聞こえなかったのか? 拒めば、悪評をばら撒くと言っているんだぞ?」
彼のトーンが若干下がり、ぐるりと周囲を見回します。
「その選択は、あらゆる部分に大きな影響を及ぼす。それはもちろん、クリステルの大切な人だって例外ではない。君を一生懸命育ててくれた、育ての親にも迷惑がかかってしまうんだぞ?」
私の両親は私が8歳の頃に亡くなり、お父様の弟である19歳上のエドガーお兄ちゃんが、当主の座に就くと同時に引き取ってくれた。
私達は血は繋がっていないけれど、愛情を持って我が子のように大事に育ててくれて。私はそんなもう一人のお父様が大好きで、尊敬しています。
「恩を仇で返すことに、なってしまいそうだ。それでもいいんだな?」
「ええ、わたしは構いませんよ。娘の幸せが最優先ですからね」
クロードの問いかけに答えたのは、知的然とした雰囲気とお顔を持つ美男――エドガーお父様。お父様は穏やかに、けれど眼鏡の奥に静かな怒りを含んで、一歩前に出た。
「クロード殿が婚約白紙の際に行ってくださった脅迫を後日知り、わたしは酷く後悔したのですよ。あの時何もしてやれなかったのは、なんとも情けないこと。大きな失態でした」
「っっ! 貴様……っ」
「なので――今度は最初から最後まで、わたしが関与させていただきますよ。それに前回のものとは違って、今回の我が儘は娘にとって害しかない命令ですからね。……クロード。以前のようにいくとは思うなよ?」
お父様は鋭く睨みつけながら私の隣に立って、肩を優しく抱いてくれました。
心配をかけてしまうから、脅迫の件は内緒にしていました。けれどあの日の譫言でソレを知ってしまって……。お父様は『次があれば絶対に護る』と言ってくれて、それを迷わず実行してくれました……っ。
「やりたければ、気が済むまでやってみるといい。さあクロード、好きに動いてみろ」
「な……っ! ぐ、ぐぐ……。ぐぅぅ……っっ!!」
それを出せば折れると高をくくっていた彼は、戸惑い歯噛みをします。そうして暫くの間奥歯を噛み締めて苛立ち、やがてパンと手を叩きました。
「どうやらムキになって、正常な判断が出来ていないようだっ。そこで特別に、1日だけ猶予を与えてやろう! それまでにしっかりと頭を冷やして、正しい答えを出すがいい!」
「クロード。お父様のお考えは、今後も変わることはありません。それに明日は、大事な用があって――」
「赤い糸の話よりも大事なものなんてない!! いいか!? 明日のこの時間、正午過ぎに再びここに来る! ……万が一その時も拒むのなら、更なる悲劇に襲われる羽目になるぞ。それを踏まえて、よく考えておけよ」
彼は私、お父様、そして使用人さん達も。視界内にいる人間全員を睨みつけ、地面に唾を吐いたあと大股で去っていったのでした。
明日。私がどんな約束をしているかを、知らないまま――。
彼が出してきたのは、強制的な同棲と脅迫。あの頃と同じように、『家』を対象にして脅しをかけてきました。
「君には、荒療治が必要なんだ。なに、すぐにクリステルも気付く事になる。さあ、準備をして行こう」
「私達の間に赤い糸なんてないのですから、荒療治も必要ありません。そういったものは諦めて、今すぐに帰ってください」
「断る。……クリステル、僕の言葉が聞こえなかったのか? 拒めば、悪評をばら撒くと言っているんだぞ?」
彼のトーンが若干下がり、ぐるりと周囲を見回します。
「その選択は、あらゆる部分に大きな影響を及ぼす。それはもちろん、クリステルの大切な人だって例外ではない。君を一生懸命育ててくれた、育ての親にも迷惑がかかってしまうんだぞ?」
私の両親は私が8歳の頃に亡くなり、お父様の弟である19歳上のエドガーお兄ちゃんが、当主の座に就くと同時に引き取ってくれた。
私達は血は繋がっていないけれど、愛情を持って我が子のように大事に育ててくれて。私はそんなもう一人のお父様が大好きで、尊敬しています。
「恩を仇で返すことに、なってしまいそうだ。それでもいいんだな?」
「ええ、わたしは構いませんよ。娘の幸せが最優先ですからね」
クロードの問いかけに答えたのは、知的然とした雰囲気とお顔を持つ美男――エドガーお父様。お父様は穏やかに、けれど眼鏡の奥に静かな怒りを含んで、一歩前に出た。
「クロード殿が婚約白紙の際に行ってくださった脅迫を後日知り、わたしは酷く後悔したのですよ。あの時何もしてやれなかったのは、なんとも情けないこと。大きな失態でした」
「っっ! 貴様……っ」
「なので――今度は最初から最後まで、わたしが関与させていただきますよ。それに前回のものとは違って、今回の我が儘は娘にとって害しかない命令ですからね。……クロード。以前のようにいくとは思うなよ?」
お父様は鋭く睨みつけながら私の隣に立って、肩を優しく抱いてくれました。
心配をかけてしまうから、脅迫の件は内緒にしていました。けれどあの日の譫言でソレを知ってしまって……。お父様は『次があれば絶対に護る』と言ってくれて、それを迷わず実行してくれました……っ。
「やりたければ、気が済むまでやってみるといい。さあクロード、好きに動いてみろ」
「な……っ! ぐ、ぐぐ……。ぐぅぅ……っっ!!」
それを出せば折れると高をくくっていた彼は、戸惑い歯噛みをします。そうして暫くの間奥歯を噛み締めて苛立ち、やがてパンと手を叩きました。
「どうやらムキになって、正常な判断が出来ていないようだっ。そこで特別に、1日だけ猶予を与えてやろう! それまでにしっかりと頭を冷やして、正しい答えを出すがいい!」
「クロード。お父様のお考えは、今後も変わることはありません。それに明日は、大事な用があって――」
「赤い糸の話よりも大事なものなんてない!! いいか!? 明日のこの時間、正午過ぎに再びここに来る! ……万が一その時も拒むのなら、更なる悲劇に襲われる羽目になるぞ。それを踏まえて、よく考えておけよ」
彼は私、お父様、そして使用人さん達も。視界内にいる人間全員を睨みつけ、地面に唾を吐いたあと大股で去っていったのでした。
明日。私がどんな約束をしているかを、知らないまま――。
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