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第6話 気が付いたら ロマーヌ視点(1)

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((………………え? なん、で……?))

 視界が虹色で埋め尽くされて、ぷつりという音が聞こえた後。意識を取り戻したわたくしは、愕然となっていた。
 なぜなら――

「お待たせいたしました、ロマーヌ様」

 わたくしは第2学舎の踊り場で立っていて、そこにマリエスがやって来たのだから。

((わたくしは、第1校舎の保健室に居たのに……。どうしてここに、いますの……? 意識を失っている間に、なにがあった――なあっ!?))

 ただでさえ動揺しているのに、わたくしをもっと狼狽させることが起きた。
 わたくしは今、必死になって状況を把握しようとしていて……。マリエスの相手をする余裕なんて、まったくないのに……。

「速やかに提出しなければならないプリントがありまして。少々遅くなってしまい、申し訳ございません」
「いいえ、こちらは急であり我が儘なお願いなんですもの。お気になさらないでくださいまし」

 口や手足が勝手に動き出して、マリエスにプレゼントを手渡してしまった!

「改めて、ご婚約おめでとうございます。こちらはわたくしから仲間への――生徒会メンバーへのお祝いですわ」
「ロマーヌ様……。痛み入ります。一生涯、大切にいたします」
「うふふ、気に入っていただけてよかった。わたくしも嬉しいですわ――? あら?」

 そうして微笑んでいたわたくしは……。肩越しに背中を見やるようになって、

「ロマーヌ様? どうなかされましたか?」
「なんだか急に、背中に違和感が表れましたの。背の中央を、一度だけ両手で軽く叩いてみてくださいまし」
「両手で、ですね? 承知いたし――え?」
「……え? マリエス様? どうされましたの?」
「ぁ、いえ、なんでもありません。承知いたしました」

 ニヤリとする。そ、そして……。そして……っっ。

「ふふふ、ふふふふふふ。今の『ありがとう』は、『お願いを聞いてくれてありがとう』ではないんですの。『指紋をつけてくれてありがとう』なんですのよ」

「なのでこれとあの言い分・・・・・あれば少なくとも、退学には持っていける。わたくしがこんな話をした証拠は残らないけれど、指紋はしっかりと残っているから――。貴方をやっと、この学院から消せますわ」

 マリエスをたっぷりと嘲笑ったわたくしは、勝ち誇った様子で踊り場の端っこまで移動した。
 も、もしかして……。もしか、しなくても……!
 わたくしはこれから――


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