転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

５

「さて……。私も、レニアと同じ末路を辿りましょうか」

　ハルク様への復讐を終えた私は、右手を胸元に当てる。
　これから実行しようとしているのは、転生魔法。記憶を持って生まれ変わるための魔法です。


　レニア・フランは闇に堕ちてしまいましたが、僅かだけど希望を持っていました。


　――生まれ変われば、違う未来を進めるかもしれない。
　――生まれ変われば、この力を正しく使えるかもしれない。
　――生まれ変われば、素敵な人に出会えるのかもしれない。


　そのためレニアは復讐を果たした後、転生魔法を使い眠りについたのです。
　ここまで異常な力を持った者を、討伐できるはずなんてない。レニア・フランは自ら命を絶っていたのでした。

「やっぱり平和だと嬉しいですし、私も年頃の女の子ですから……。恋に憧れが、あるんですよね」

　好きな人と結ばれて、二人で楽しく楽しく暮らす。それは今の――今も昔も、私の夢です。

「……三度目の正直になると、いいですね。今度は夢が叶いますように」

　私は空に祈りを捧げ、心の中で呪文を唱えます。
　神様。もし神様が存在しているのなら、次こそはお願いします。どうか……。どうか私を、幸せに――


「待てっ！　待ってくれ!!」


　転生魔法を実行する寸前。正面から猛スピードで馬が走ってきて、一人の男性が大声を上げて飛び降りました。
　私を呼び止めたのは、厳格な雰囲気のある見知らぬ人。携えている剣に『ハールン家』――隣国の王家の紋章があるので王族の方だと分かりますが、それ以外は分かりません。

「貴女は、サーシャ・ミラノ。レニア・フランの生まれ変わりだと打ち明け、投獄されていた女性ですね？」
「はい、そうですよ。打ち明けたら婚約を破棄された上に徹底的に拘束され、たった今関係者を皆殺しにした女性ですよ」

　この人は、無関係者。彼には何の恨みもないので、一応丁寧に答えました。

「……なるほど……。そうでしたか……」
「そうなのですよ。貴方は私に御用があるみたいですが、なんでしょう？　もしかして貴方も、私を悪女として殺すつもりですか？」
「…………いえ。俺は貴女を、止めに来ました」

　彼は体格がしっかりしていて、きっと剣の腕も相当なものなのでしょう。だから『自分ならどうにかできる』と、自惚れているのですね。
　……これから人生を終わらせようとしていたのに……。わざわざ私の感情を逆撫でしに来るだなんて、タイミングが悪い方ですね。

「…………分かりました、お付き合いしましょう。私を倒して、この世界を守れるかどうか。実際に、その身体で確かめてくださいね――」
「ああいや、違うんですっ。違うのですよっ！　先の『止める』は、倒すの意味ではありません。俺は、貴女と戦うつもりは微塵もありません」

　彼は突然腰にあった剣を遠くに投げ捨て、両手を大きく真上にあげました。
　？？？　え……？　これは、どういうことなのでしょうか……？